レアル・マドリード監督解任の舞台裏(後)

 シャビ・アロンソ前監督の足元で火種となっていた3人のブラジル人選手(ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、エンドリッキ)との軋轢は、日に日に深まっていった。それとともにクラブ内部の不安は増していく。

技術的、戦術的な問題だけでなく、政治的な非難も起こり、フロレンティーノ・ペレス会長への批判も始まった。

 チャンピオンズリーグ(CL)ではリバプールやマンチェスター・シティに敗れ、リーグ戦でも取りこぼしが目立った。クラブ幹部たちはアロンソ抜きで選手たちと話をするようになった。そして彼らの声に耳を傾けることで、ロッカールームがうまく機能していないことを知る。

 それもあってアロンソは、選手にかけていた"圧"を下げようとはした。ビデオ会議を減らし、休日も多めに与えるようにした。だが、携帯電話は相変わらず禁止。ハードなトレーニングも続く。アロンソはチームを掌握することができず、一触即発の状態だった。

 もし何かが起こるとしたら、起爆剤となるのはブラジル人選手たちだろうと、誰もが予測していた。しかし実際に引き金を引いたのはフランス人――キリアン・エムバペだった。

ジダンは就任要請に「ノー」 監督交代だけでは解決できないレア...の画像はこちら >>
 アロンソのすべてを終わらせたのは、サウジアラビアで行なわれたスペインスーパーカップ決勝だ。
それはまるで映画のような光景だった。

 レアル・マドリードはバルセロナに敗れたが、アロンソは選手たちに、表彰台に上る相手チームに拍手を送らせるため、ピッチに残るよう求めた。しかし、判定に激怒していたエムバペは、すぐに引き上げるよう仲間に促した。選手たちが従ったのは、監督ではなくエムバペだった。アロンソはただひとり、ピッチに取り残された。この光景はクラブ内部で決定的な意味を持った。誰もが理解した、アロンソのレアル・マドリードでの冒険は終わったのだと――。

 同じ週には、マンチェスター・ユナイテッドのルベン・アモリム監督も解任されている。しかし、世界中で話題となったのは、レアル・マドリードの監督交代劇のほうだった。

 人々はヴィニシウス・ジュニオールがアロンソを追い出したと噂したが、真実は、アロンソと、ヴィニシウス、エムバペ、ロドリゴ、エンドリッキを含む選手たちとの大きな断絶、そしてバランスを見失ったマネジメントの問題だった。

 アロンソ辞任の公式発表前、ペレスは長年夢見てきた道を探ろうとしている。次期監督にジネディーヌ・ジダンを据える、というものだ。

実際、ジダンとの接触も少し前から始めていた。

 この時、ジダンはアフリカネーションズカップのためモロッコにいた。アルジェリア代表GKである息子のルカ・ジダンを見るためだ。父として試合を見守りながら、ジダンは考え、そして自らが3度CLを制したクラブに「ノー」と答えた。

 このチームはジダンのチームではなかった。多くは、ジダンなら選ばない選手たちだった。しかもシーズン途中で大規模補強もできない。ルカ・モドリッチの退団により、中盤の指導者がいなくなったことをジダンは理解していた。今、受諾すれば、他人が作ったチームで戦うことになるし、ワールドカップ後にフランス代表の監督になるという可能性の扉も閉ざすことになる。

 ジダンは「待つ」ことを選んだ。

 クラブは最終的にアルバロ・アルベロアに指揮を託すことにする。元レアル・マドリードの選手で、セカンドチームであるカスティージャを率いていた監督だ。

つまり、これは内々の一時的な解決策で、彼はただベンチを「温める」だけの存在だ。アルベロア自身もそれを理解している。

 アルベロアは監督の座に就いた最初のインタビューで、すぐにロッカールームへ向けて、特にヴィニシウスへ明確なメッセージを送った。

「ヴィニシウス・ジュニオールがピッチで踊り、楽しむ姿を見るのが楽しみだ」

 それは、アロンソ路線の完全な否定だった。

 ロッカールームはすぐにその言葉の意味を理解した。チームの雰囲気は一変した。誰もアルベロア政権が長く続くとは思っていないが、それでも皆、安堵している。ロッカールームはどんな監督も失脚させ得るし、どんな監督も生かすことができる。そしてアルベロアはクラブ幹部にとっても選手にとっても、「心地よい」存在だ。

 ただ、それでもレアル・マドリードの置かれている状況は、なお厳しいものがある。

 1年もしないうちにふたりの偉大な監督が去り、世界最高峰の若き才能たちは期待通りに育たない。今のレアル・マドリードは脆く、神経質で、先行きが不透明だ。

単なるチーム力の危機ではなく、権力、マネジメント、そしてアイデンティティの危機なのだ。

 監督を代えるだけでは、それは隠しきれないだろう。高額な年俸と「白い巨人」の指揮官というポジションをもってしても「ノー」を突きつけたジダンの行動こそが、そのことを如実に物語っている。

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