優勝が遠くなりつつあった早稲田大の復路で、その流れを断ち切ったのが9区の小平敦之(3年)だった。5位との差を詰められるなか、区間2位、同歴代4位の快走を見せ、その差を開き、総合4位を死守することに貢献。
来季は駅伝主将の責任も担う。冷静さと情熱の魂を兼備した小平は、「打倒・青学大」を口にするだけでなく、より現実的なアプローチで成し遂げるつもりだ。
【冷静な走りで悪い流れを断ち切る】
今年の箱根駅伝で早稲田大学は2年連続の4位に終わった。目標に掲げていた総合優勝を果たすには往路優勝が絶対条件と見られていたが、往路残り1.5kmで青山学院大に逆転を許し、往路は2位。シナリオ通りの展開に持ち込むことができなかった。
巻き返しを図った復路は苦しい展開になった。7区で4位に後退。9区の小平敦之にタスキが渡った時には、3位の中央大には2分近く離され、後ろを向けば5位の順天堂大にも8秒差に迫られていた。
そして、その小平もまた、4kmを前に順大の石岡大侑(4年)に追いつかれてしまった。
「設定では入りは2分50秒ぐらい。それが2分34秒ですから、けっこう飛ばしていましたね。それでも後ろは追いついてきたので......」とは早大の花田勝彦駅伝監督。
ところが、そうはならなかった。
「間瀬田さん(純平/7区、4年)と堀野(正太、1年/8区)が苦しい展開になりましたが、自分がゲームチェンジャーというか、そういう展開でも流れを変えられるような走りができればいいなというふうに思って走りました」
まさにその通りに、小平が悪い流れを見事に断ち切ってみせた。
小平は「絶対に(順大が)追いついてくるだろう」と考えて、最初の1kmを2分34秒とハイペースで入っていた。9区の序盤は下り基調とはいえ、順大の石岡はそれ以上のペースで突っ込んでいたのだ。そんな状況を小平は冷静に見ていた。
「こっちもハイペースで突っ込んでいたのに、それ以上だったので、後半きつくなるだろうなと想像していました。なので、そんなに焦りはなかったです。権太坂の上りに入ったぐらいで前に行かれましたが、向こうが無理をしているなと感じていました。余裕を持ったうえで後半に勝負しようと考えていました」
一度は石岡に先行を許したが、小平は後半勝負と決めていた。
【出走区間は直前まで決まらずも用意は周到】
実は小平の走る区間は直前までなかなか確定しなかった。
「12月上旬ぐらいは8区かアンカーっていう話をしていましたが、下りのリザーブがいなかったので、6区(の可能性)もありました。それが、チーム状況から、最終的には2日前ぐらいに9区でいこうってなりました」と花田監督。
「どこかしらの区間は走らせてもらえる状況だったので、ただ準備をするだけでした。でも、親からは『これは走れないんじゃないの?』と言われました(笑)」
そんな状況でも9区を走る準備はちゃんと進めていた。過去のデータも分析済みだった。
「過去のラップタイムを見ると、後半に落ち込んでいる選手が多いので、23kmトータルでしっかり結果出すっていうのを意識していました」
順大の石岡に追いつかれても、冷静に対処できたのは、9区攻略のイメージができていたからだった。
そして、後半に盛り返して石岡を逆転すると、今度は46秒の大差をつけた。石岡も区間5位と決して悪い走りではなかったが、小平はそれ以上の快走だった。3位の中大にも51秒差に迫り、アンカーの瀬間元輔(2年)につないだ。
小平は区間2位ながら、区間歴代4位となる1時間07分45秒と、かなりの快記録だった。
「設定タイムよりも速く走れる自信はありました。(5kmを)14分50秒前後で押していければ、1時間08分30秒を切るぐらいはいけるかなと思っていました。
花田監督が設定した目標タイムは1時間08分55秒。なんと、それよりも1分10秒も速かった。
目標の総合優勝は果たせなかったものの、小平の奮闘ぶりは、来季に向けた明るい材料になっただろう。
箱根駅伝を終えた翌日、小平が新チームの駅伝主将を務めることが発表された。
その日は、箱根を走れなかったメンバーが早朝からポイント練習(負荷の高い練習)を行なった。その練習後に、小平はみんなの前で激励の言葉を発した。
「昨年は自分自身もここでポイント練習をしている立場だったので、みんなの気持ちは少なくとも理解しているつもりです。ここから1年間かければ箱根を走れるようになると思いますし、取り組み次第になってくると思うので、自分自身の課題を見つけたうえで、それと向き合うことを大切にしながら練習をやっていってほしいと思います」
こんな言葉で奮起を促していた。
そうなのだ。1年前の小平は箱根のメンバーに絡めずにおり、昨夏の時点でも、花田監督の構想にはいなかった。コロナの罹患や企業へのインターンなどの事情もあったにせよ、北海道・紋別の選抜合宿もメンバー外だった。そこから秋に飛躍を遂げて、全日本大学駅伝、上尾シティハーフマラソンと好走を連発し、箱根駅伝のメンバーを勝ち取った。
【高校時代の恩師が語る成長ぶり】
小平は系属校の早稲田実業高出身で、政治経済学部に通う、いわゆる"一般組"の選手。叩き上げで強くなった。
もともと中学時代には千葉県で工藤慎作(3年)とも競り合い、全国大会にも出場しており、早実高には推薦で入学した。高校時代は南関東大会どまりだったが、3年間、文武両道を貫いた。
「彼は3年間、成績も優秀で、卒業する時には成績優等賞をもらっていました。高校時代にもキャプテンも組長(学級委員)もやっていたので、リーダーシップを発揮できる子です」
こう話すのは高校時代に小平を指導した北爪貴志先生だ。早大が最後に箱根を制した2011年の第87回大会優勝メンバーのひとりでもある。北爪先生もまた早大1、2年時は出番がなかったが、3年目で箱根のメンバーを勝ち取っていた。そんなところは小平にも重なる。
「うちはそんなに練習をする学校ではないので、『1年目から活躍は難しいかもしれないけど、3年目が絶対に勝負だ』っていうのは話していました。
彼は高校の時から、目標に対してちゃんと自分で計画を立ててスモールステップを踏んでいました。
教え子の3年目の飛躍は必然とも言えたが、箱根の快走は北爪先生の想像をも超える活躍だった。
小平の走りや振る舞い、インタビューの受け答えから、彼には"頭脳明晰""冷静沈着"という言葉が似合うが、北爪先生は「ああ見えて、けっこう熱い奴なんですよ」と素の一面を明かしてくれた。
北爪先生の記憶に残っているのは、高3時のインターハイ東京都予選の走りだ。1500mと5000mに出場した小平は、調子が上がらないままこの大会を迎えていた。1500mは14位に終わり、5000mでも南関東大会が微妙なポジションでレースを進めていた。後輩の吉倉ナヤブ直希が優勝したこのレース。小平はラスト1周で意地を見せ、順位を上げて4位に食い込み、南関東大会進出を決めた。
「魂のラストスパートでしたね。冷静でクレバーなイメージがあるんですけど、がむしゃらな走りもするし、そういう爆発力もあるんです。そこが小平の強みだなと思いますね」
この1年も一度は駅伝のメンバー入りが厳しい状況に立たされながらも、そこから奮起。今回の箱根でも、劣勢になった展開を跳ね返してみせた。
総合4位が2年連続で続くなか、駅伝主将として新シーズンを迎える。小平はどんなチームを作り上げるのか。
「総合優勝を目指すと口にすることも大事だと思うんですけど、今回の悔しさを含め実態を考えて、イメージする必要もあると感じています。2011年に総合優勝した時と境遇が似ている。しっかり早稲田らしさを体現できるレース運びをして、青学大の4連覇を阻止できればいいなと思っています」
大エースの山口智規(4年)は卒業するが、新年度には強力なルーキーを迎える。総合優勝するイメージを確立させて、着実にそこに向かっていくつもりだ。
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