前編:國學院大・前田康弘監督が振り返る第102回箱根駅伝
初の総合優勝を目指し、満を持して臨んだ第102回箱根駅伝。エース格を並べた1月2日の往路は4位で折り返し、3日の復路では総合2位まで追い上げた。
【主将・上原琉翔が中心に進めた周到な準備】
1年前に総合3位で終えた顔とは違っていた。
1月3日、過去最高の総合2位でフィニッシュしたあと、國學院大の前田監督は悔しさをにじませつつも、テレビカメラの前で「清々しさもある」と口にした。いま持っている力を出しきれたという。予定どおりのベストオーダーを組み、出走メンバーは万全に近い状態でスタートラインに立つこともできた。
その背景には、周到な準備があった。過去2年は大会前に感染症に悩まされたが、102回大会はいままで以上に学生主体でマネジメントし、体調を徹底して管理していた。
「主将の上原琉翔(4年)がリーダーとなり、どうすれば、感染症を未然に防げるのか、いかにベストコンディションで臨めるのかを選手ミーティングで確認していました。
彼自身もかつての失敗を見てきたこともあったと思います。寮生活は、やっぱり選手間の意思統一が重要なんです。根本的なところで血が通っていないと、よくないことも起きるので」
指導者が選手寮に住み込み、共同生活を送っているわけではない。監督と選手が顔を合わせるのは練習を含め、限られた時間だけ。
「上原はメンバー外の4年生たちとも一緒に御飯を食べに行くなど、ずっと密なコミュニケーションを取り、『最後まで頼むな』と話していました。新チームをスタートしたときから人と人のつながりを大事にしていたんです。これは結構、大事。チームの雰囲気、流れが変わってきますから。
12月20日からは(感染症対策のために)選手間の取り決めで、外出禁止にしていました。私からは何も言っていません。仮に監督が強制的にそれをしてしまえば、不満が出たりします。
【過去の反省を生かした練習計画が奏功】
箱根駅伝の本番に合わせるピーキングも前年度とは違っていた。11月までの流れは、成功体験をもとにルーティンができている。出雲駅伝では2連覇を達成し、前年度は全日本大学駅伝で初優勝した実績がある。課題は11月から1月までの2カ月の調整だった。正解がなかなか見つからず、自信をあまり持てていなかったが、今回は過去の反省を踏まえて、いままでにない練習スケジュールを組み立てた。
「うちなりに勝負に出て、うまくはまったと思っています。これだな、というパターンが見つかりました」
前年度まではメンバー選考に注力するあまり、練習をやりすぎてしまう傾向にあったという。当然、当落選上の選手たちはレギュラーの座を得るために必死になる。箱根路を走れなければ、それこそ1年の苦労が水泡に帰す。トライアルの回数が増えていくと、絶対に外せないという重圧がかかり、そのぶんだけ疲労は重なっていく。悩ましい問題である。
「多くの選手たちは選考練習で100%の状態に持ってくるので、ピーキングがズレてしまうんです。ピークアウト気味で本番を迎えることもあって......」
そして、行き着いた先の答えは選考練習を減らすことだった。
「2~3回やっていた見極めを1回のみにしました。キャプテンの上原ら幹部たちには選考に力を注がず、コンディション重視で箱根に臨みたいという意向を伝え、納得してもらったんです。『こちら側の見る目を信じてほしい』と。選手からも『監督の目で決めてほしい』と言われたので、その方向性になりました」
なかには一度きりの選考練習で外してしまい、涙をこぼす選手もいた。苦渋の決断を下せざるを得なかったが、これもまた次のステップへ進むためである。区間オーダーを出す前には選手たちの意見も聞き、確認を取った。最終的には指導陣と選手たちの考えはほとんど一致し、チーム一丸となって正月の大舞台へ。
【好走・野中恒亨への物足りなさは期待の裏返し】
「うちはセオリーどおり、往路を全力で取りにいくつもりでした。戦力の割合でいけば、9対1くらいのイメージです」
攻めるところは攻め、守るところは守る--。大会前に前田監督が何度も話していた真意は、どこにあったのか。
「1、3、4区は攻め、2、5区は守りでした。1区の青木瑠郁(4年)が首位前後で渡し、2区の上原琉翔は粘る。
練習から好調を維持していた青木と辻原は、ほぼ想定どおり。4年生のスターターは区間新の区間賞、4区を志願した3年生はふたりを抜いて区間4位と力走した。少し思惑と違ったのは野中。出雲駅伝、全日本大学駅伝といずれも3区で区間2位、区間賞と好走したジョーカーには大きな期待を寄せていたのだ。当初は前回同様の1区で起用する構想もあった。
「野中はタイムを出す前から(11月、10000mで27分36秒64をマーク)強いのはわかっていました。前回、中央大の吉居駿恭選手(4年)が大逃げしたようなパターンも考えましたが、それは大きなギャンブルでした。警戒もされますからね」
現実的に考えて、起用したのは3区。当日は6位で襷をもらい、区間3位でまとめて5位に押し上げた。外したわけではないものの、出雲、全日本のように流れを変えるゲームチェンジャーの役割までは果たせなかった。本来のポテンシャルを考えると、物足りなさは拭えない。区間タイムは1時間01分22秒。
「野中はIQが高いので、今回の経験からいまの自分に何が足りないのかも、わかったはずです。決して失敗ではないのですが、あそこで他大学に勝たないと。持っている能力を考えれば、60分(1時間00分)30秒は切れたのかなと思います。
新チームでは、もうひと回り大きくなると思っています。彼が主軸となり、駅伝力を発揮しなければ、どのタイトルも取れなくなります」
周囲にとって、大きな驚きだったのは鬼門の5区だろう。過去2大会は山上りで順位を落とし、先頭と大きなタイム差をつけられてきた。102回大会では、その「山問題」を見事に解決してみせた。
後編へつづく〉〉〉國學院大・前田康弘監督が固めた総合優勝への決意「覚悟を決めて考えないと、一生、原さんの時代で終わってしまう」



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