大阪桐蔭・西谷浩一監督が語る「7回制断固反対」の理由(後編)
9回制を7回制に変更すれば、おそらく簡単には元に戻せないだろう。一方で、開催球場は状況に応じて変更することも、再び戻すことも可能だ。
<全国高等学校野球選手権大会および選抜高等学校野球大会は、1924(大正13)年8月の甲子園球場開場以来、100年以上にわたって同球場を会場としてきた。甲子園は「聖地」とも呼ばれ、高校野球そのものを指す代名詞にもなっているのみならず、他の文化的活動、イベントなどでも「〇〇甲子園」といった呼称が広く浸透している。歴史的、社会的な見地から、今後も甲子園球場において両大会を開催することが望ましい>
7イニングの変更となれば、これまでの戦いの記録も多くは「参考」となり継続性が途切れる。そうした重大事は問題とせず、聖地であるから甲子園は替えられない、と。ほかにも、甲子園でなければならない大人の事情があるのかもしれないが、甲子園以外での開催の可能性を本気で検討しているように見えない姿勢からも、7回制移行には結論ありきの意思を感じてしまう。
【何のためのアンケートか?】
大阪桐蔭・西谷浩一監督との雑談のなかで、あるスカウトが言った。
「高野連だけで抱え込まず、プロや中学、大学、社会人といった関係者の意見も幅広く聞きながら、野球界全体で考えていけばいいと思うんですけどね」
ここから話題は、高野連が実施した7回制に関するアンケートへと移った。調査は2つ行なわれており、ひとつは高野連加盟校を対象としたもの、もうひとつは高野連のウェブサイトを通じて一般から意見を募ったものだ。
結果は、加盟校アンケートが賛成20.8%、反対70.1%、一般向けアンケートは賛成768、反対7923と、いずれも反対が多数を占めた。
しかし報告書では、この結果について「速やかにすべての公式戦で7イニング制を採用すべきではあるが、現下の状況では、その意図や有効性が加盟校や高校野球ファンに十分伝わっているとは言い難い」と触れるにとどまっている。これでは、何のためのアンケートだったのかと思わずにはいられない。ここで、西谷の口調はさらに鋭さを増した。
「もし賛成が多ければ、『ほら』となったんじゃないですか。これだけ反対が多いのに、何もなかったように進めるんですか。僕の周りでは『賛成!』という声は聞いたことがありませんし、アンケートも時間のないなか、思いを込めて回答してくれた人が多いはずなんです。その結果を大切にしていると感じられないのも残念です」
誰かが声を上げなければ、なし崩し的に話が進んでしまうという危機感があるのだろう。選抜に向けた選手取材で人の出入りが続くなかでも、西谷の語調が弱まることはなかった。
【現場責任者としての使命感】
すっかり日が暮れた山中のグラウンドでは、選手たちが黙々と個人練習に励んでいる。その様子をしばらく見つめていた西谷に、「どうなりますかね」と声をかけてみた。もちろん、選抜の展望のことではない。とくに反応がなければ「今日はここまで」と思っていたが、このまま7回制にしてほしくない強い思いがあったのだろう。西谷が続ける。
「いくら考えても、やっぱりおかしいじゃないですか。9回を7回にするなんて、誰にそんな権利があるんですか。高市(早苗)さんだって、ひとりで法律を変えられるわけじゃないですよね。
高校野球に身を捧げてきた西谷の偽らざる本音だろう。
「よく『勇気を出した』って言われることもありますけど、別にそんなことはありません。間違っているから言っているだけで、誰かが言わなければいけないでしょう。それが現場を預かる者の責任だと思っています。子どもたちはおかしいと思っても、声を上げる場がないわけですから」
子どもたちがどうか──西谷の思いはそこにある。
「アンケートだって、まずは子どもたちの声を聞くべきだと思うんです。普段は『子どもたちのため』『子どもたちを守る』と言っているのに、その思いが反映されていない。誰のための高校野球なのか。子どもたちが野球をしなければ、高校野球も、野球そのものも成り立ちません。『やってダメなら戻せばいい』という人もいますが、そんなに簡単な話ではありません。
イチローも口にした危機感。西谷の言葉はさらに続いた。
「『7回制に決まりました』と言われても、子どもたちに説明できません。夏は暑いから7回までと言うなら、外で練習しているのはどう説明するのか。しかも気温と関係ない選抜大会まで7回制になると言われたら、なおさらです。『9回できるなら甲子園以外でもいい。なぜ7回なんですか?』と聞かれたら、説明できない。
僕のなかでは議論の余地もない気持ちですけどこのまま決めるのはあまりにも乱暴じゃないですか。一部の話し合いでこんなことを許したら、次から次にどんどんいろんなものが変わりますよ」
【守ろうとする方向がずれている】
率直な思いを口にする西谷と高野連との関係を心配する声もある。それでも西谷は言う。
「なにもケンカをするつもりはありません。それぞれの立場に立って、これだけ大きな大会を継続して開催してもらっていることには、本当に感謝しています。
高野連の方々は高校野球、子どもたちを守る存在だと思っていますし、立場は違っても、僕たちも同じ思いでやってきました。だからこそ、守ろうとする方向が少しずれているように感じることが残念なんです」
子どもたちのため、高校野球を守るため──同じ言葉を口にしながらも、西谷やイチローと主催者側の考えはなぜ食い違うのか。おそらく、見つめている視点が違うのだろう。第一に子どもたちのことを考えているのか、世間を見ているのか。7イニング制を巡る議論をまとめた報告書の「社会のなかの高校野球」という項目のなかに、次のような一文が記されている。
<危機管理の面から最悪なのは「何も対策を講じない」ということ。何もせず、大会に関わる選手、役員、審判、応援する生徒、観客のなかから重大事故が発生した場合、誰がどのような責任を負うのかを肝に銘じるべき>
故障や事故をゼロにすることはできない。だからこそ最善の努力は必要だが、ゼロを追い求め過ぎれば、野球そのものが変わってしまう。
この日、西谷が口にした言葉の多くは、初練習時にマスコミの前で語ったもの、あるいはその延長にあるものだったが、抑えきれない思い、子どもたちへの思いはダイレクトに伝わってきた。
議論に関わる方たちは、大人の都合や事情ではなく、常に「子どもたちはどうか」という視点で判断してほしいと思う。そうすれば、高校野球の進むべき道が見えてくるのではないか。
「僕らが声を上げたからといって、『じゃあ、あらためます』とはならないでしょうけど、『7回制になりました』というのは、あまりに無責任。高野連には、もう一度立ち止まり、ほかに方法がないか考えてほしい。感情論でも根性論でもありません。高校野球を守り、子どもたちが思いきり野球に打ち込める環境を残したい。ただ、それだけなんです」
ふと、西谷やイチローといった生粋の野球小僧と、高野連や主催する朝日新聞や毎日新聞の代表者が顔をそろえて語り合う場があれば、何かが変わるのではないかと、頭に浮かんだ。逆に言えば、それほどの出来事がなければ、この傾いた流れを止めるのは難しい段階まで来ているのだろう。
子どもたちに胸を張って説明できるだけの議論と結論が導かれることを信じたい。
文中敬称略










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