前編:WBCの成長過程と「史上最強」アメリカ代表の本気度
3月に行なわれる第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。前回大会は大谷翔平の投打にわたる活躍で頂点に立った「侍ジャパン」(日本代表)だが、決勝で敗れたベースボール発祥の地・アメリカ代表はその悔しさを端緒に、今大会のチーム編成から「本気度」を見せ、WBC史上最高の顔ぶれを揃え、覇権奪還を狙っている。
アメリカ国内では長年、WBCをメジャーリーグ・シーズン前のオープン戦的な位置付けとして捉えてきたが、大会を重ねるごとにアプローチはどのように変化してきたのか。今回のアメリカ代表のチーム編成を分析しながら、アメリカ代表監督のマーク・デローサのコメントを拾い、その狙いを検証する。
【サイ・ヤング賞投手ふたりを軸にした豪華な投手陣】
衝撃的なニュースだった。
12月18日、デトロイト・タイガースのエース左腕、タリク・スクバルが、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でチームUSA(アメリカ代表)として投げることが発表された。ア・リーグのサイ・ヤング賞を2年連続で受賞した、現時点でMLB最高の投手である。すでに出場を表明しているナ・リーグのサイ・ヤング賞投手、ピッツバーグ・パイレーツのポール・スキーンズとともに、球界最高峰の先発投手ふたりを擁し、チームUSAは世界一を目指すことになる。
もっともスクバルは、昨年9月の時点でWBC出場の可能性について問われた際、慎重な姿勢を崩していなかった。「その点については、エージェントとはもちろん話をしていますし、球団ともいくつか話し合っています。最終的には、自分にとって何が一番いいかを考えないといけない」。
スクバルは2026年シーズン後にフリーエージェント(FA)となる権利を持ち、MLB史上初となる「投手による4億ドル(約600億円)契約」を手にする可能性がある存在と見られている。これまで、こうした大型契約を控える立場にあるアメリカの先発投手は、ケガのリスクを恐れ、WBC出場を避けてきた。わずかな故障が、将来的な価値を大きく下げかねないからだ。
そもそも、過去5回のWBCにおけるチームUSAで、前年のサイ・ヤング賞投手が参加した例は、2013年大会のRA・ディッキーただひとりである。
当時であれば、2012年のア・リーグのサイ・ヤング賞投手デビッド・プライス、同2位のジャスティン・バーランダー(昨季サンフランシスコ・ジャイアンツ)、ナ・リーグ2位のクレイトン・カーショーといった顔ぶれに出場してもらいたかったというのが率直な印象だろう。
2017年大会ではマーカス・ストローマン(昨季ニューヨーク・ヤンキース)がMVP級の活躍を見せ、アメリカは初優勝を果たした。ただし、その前年にトロント・ブルージェイズで残したストローマンの成績は9勝10敗、防御率4.37。リーグを代表する「最高の投手」という位置付けではなかった。本来であれば、2016年のナ・リーグのサイ・ヤング賞投手マックス・シャーザー(昨季ブルージェイズ)やバーランダーが出場すべきだった。シャーザーは右手薬指の骨折を理由に辞退したが、実際には2017年の公式戦で31試合に先発、200イニング以上を投げている。さらに2023年大会でも、前年のア・リーグのサイ・ヤング賞投手だったバーランダーが「シーズンを優先したい」と、選出前の段階から出場を辞退した。その結果、2023年大会の先発陣はマイルズ・マイコラス(昨季セントルイス・カージナルス)やメリル・ケリー(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)といった中堅クラスの顔ぶれが中心となった。
【打倒・侍ジャパンが最大の目的】
今回は、スクバル、スキーンズと史上初めてサイ・ヤング賞投手がチームUSAにふたりも名を連ねるだけでも異例だが、それだけではない。先発陣には、サンフランシスコ・ジャイアンツのローガン・ウェブ、シカゴ・カブスのマシュー・ボイド、ミネソタ・ツインズのジョー・ライアンと、前年にそれぞれのチームでエース格を担っていた投手たちが並ぶ。
チームUSAは、野手に関しては2006年の第1回大会からデレク・ジーターやアレックス・ロドリゲスといったスター選手が参加し、常に豪華な顔ぶれを誇ってきた。一方で先発投手は、シーズン開幕を控えて「ケガをさせるわけにはいかない」という判断から所属球団が許可せず、選手自身も辞退するケースが続いてきた。それが第6回大会にして、ようやく真の意味でのベストメンバーがそろったのである。
ちなみに、スキーンズは、昨年5月の時点で早くもWBC出場を表明していた。「子どもの頃、WBCを見て育った。もしそのチャンスが巡ってきたら、絶対に断らないと自分に言い聞かせていた。今がまさにその時」と意気込みを語っている。
チームUSAを率いるマーク・デローサ監督は、前回大会の決勝で侍ジャパンの7投手による継投の前に打線が2得点に抑えられ、2―3で敗れた。その雪辱を果たすべく、今回は特に投手陣の充実に力を注いだ。リリーフ陣にも、メイソン・ミラー(サンディエゴ・パドレス)、デビッド・ベドナー(ニューヨーク・ヤンキース)、ブラッド・ケラー(フィラデルフィア・フィリーズ)といったトップクラスの顔ぶれがそろっている。
昨年12月、フロリダ州オーランドで行なわれたウインターミーティングの場で、デローサ監督は、その狙いを率直に語っていた。
「対戦する強打者たちに対応できる"武器"をそろえたいんだ。
大谷が投手としては登板しない可能性もあるのでは、と問われると、デローサ監督はこう続けた。
「もちろん理解はしている。昨季は10月末までプレーして、そこから再び立ち上げるのは簡単ではない。それでも、私は大谷がWBCで投げないとは思っていない。彼が登板する前提で準備を進めているよ」
6回目の大会にして、ついに最強と呼べる陣容をそろえたチームUSA。であればこそ、彼らが倒したい相手はただひとつ、最強の侍ジャパン(日本代表)なのである。
後編につづく〉〉〉アメリカ代表が「世界一を決める必要があるのか?」から本気になるまで










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