中学部活動の地域移行化がもたらす新たな火種(後編)

 先生たちと話をするなかで、たびたび話題に上ったのが、2023年8月に軟式中学野球界の強豪として知られる相模原市立相陽中(神奈川)が、「神奈川・相陽クラブ」としてクラブチーム化した事例だった。

 監督をはじめ複数の教員が中心となって立ち上げたクラブチームだが、その背景には、国が進める教員の働き方改革の影響で、従来のように十分な練習時間を確保できなくなった事情もあったという。

 現在は島根県を含め、部活動は土日のいずれかを休養日にすることが定められており、地域によっては土日の部活動を完全に禁止し、希望者にはクラブチームでの活動を促す動きも見られる。こうした流れは、外部委託へ向けた段階的な移行とも言えるだろう。

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【教師が語る部活指導の醍醐味】

 さまざまな変化が各地で進むなか、出雲市立斐川東中学校の青木善彦は、「部活指導の醍醐味は......」と、何度もその言葉を口にした。

「私たちは教員である分、野球だけでなく、学校生活と重ね合わせて子どもたちを見ることができます。普段から『学校生活をきちんとやりなさい。それが野球にも表れるぞ』と言っていますが、野球は本当にそういう部分がプレーに出るんです。

 だから、これまでいい加減だった子が、学校生活をしっかり送れるようになり、それとともに野球のプレーまで変わった。そんな瞬間に立ち会えた時は、教員冥利に尽きるというか、これこそが部活動指導の醍醐味だと思います。その瞬間を味わいたくて、しんどくても部活指導を続けている教員が、ほとんどじゃないでしょうか。ただ、管理職からは『君たちみたいに部活をやりたい人間は少数派だよ』と言われることもありますが......」

 最後は苦笑い混じりのひと言だったが、メリットとデメリットがそれぞれあるなかで、多くの部活動が外部委託になった時、これまで部活動が抱えてきた課題は本当にスムーズに解消されていくのか。そんな疑問を口にするのが、元宝塚ボーイズ監督で、NPO法人ベースボールスピリッツを立ち上げた奥村幸治だ。現在は人材育成の研修講師や講演活動をする一方で、幅広く野球指導にも携わっている。

「僕が聞いたある市の外部指導員の募集要項では、時給はおよそ1500円。

平日の夕方に2時間ほど、週に3、4回に加えて、土日は練習や試合もあるそうです。この条件だと、時間にもお金にも余裕のある、野球好きで経験のある年配の方くらいしか務まらないのではないでしょうか。はたして、この条件に当てはまる"いい指導者"がどれだけいるのか......」

 現状の部活動で、どこまでの指導ができているのかという問題は学校や指導者ごとにあるにせよ、この条件で技術を教え、生活面にも目を配り、時には進路の相談やチーム内のトラブルに対応することまで求められるとすれば、決して簡単なことではない。実際、現場からはこんな声も聞こえてきた。

「外部委託になったとしても、顧問だけは学校から関わり、何か問題が起きれば学校が対応する、という形になるんでしょうか。たとえば、土日にトラブルがあれば、月曜日に教員が生徒から聞き取りをして、保護者に連絡を取り、説明をする......。そうなると何が"外部"なのか、よくわかりません」

 奥村も続ける。

「学校生活も見て、部活動も見られるのが、先生たちの強みです。そこは、ぜひ大切にしてほしい。熱意のある先生がいることで学校全体も引き締まるし、保護者の方も安心だったはず。もし、部活動の指導ができないことを理由に、有能な人材が教員を目指さなくなるとしたら、それは学校にとっても、そして子どもたちにとっても、大きなマイナスだと思います」

【NPOから各地区へ先生を派遣】

 先の見えない不安を抱える教員たちの声に耳を傾けるなかで、奥村はある提案をした。

「先生たちでNPO法人をつくってはどうですか」

 奥村は宝塚ボーイズを率いていた時代に、NPO法人「ベースボールスピリッツ」を設立・運営した経験を持つ。そもそもNPO法人とは、社会貢献を目的に活動する非営利団体のうち、法人格を取得したものを指す。

部活動はどこへ向かうのか 外部委託の先で教員たちが手放したくない指導の醍醐味「野球だけを教えたいわけじゃない」
出雲での合同練習会に参加した選手、指導者たち photo by Tanigami Shiro
 当時、ベースボールスピリッツでは奥村が理事長を務め、宝塚ボーイズの代表、副代表、コーチらが理事として名を連ねていた。

「理事として先生たちに入ってもらい、子どもたちを指導することで、その分の報酬を支払うこともできます。出雲に15ほどの中学校があるなら、地区を3つか4つに分けて、ひとつのNPOから各地区へ先生を派遣するというイメージです」

 NPO法人の主な収入源は、会員による「会費」、活動を支援する「寄付」、そして各種「助成金」などだ。ベースボールスピリッツでは、中学生が小学生に指導する野球教室や、中学生自らが運営を担う野球大会、さらには各地へ出向いて行なうボランティア活動など、斬新な取り組みを地域企業の理解と支援を受けながら行なっていた。

「活動を応援してもらうお返しとして、ユニフォームに企業のロゴを入れたり、広報誌に広告を掲載したり、子どもたちの自転車にステッカーを貼ることもできます。NPO法人として活動することで、地域と子どもたちが触れ合う機会も生まれる。そうやって、"地域で子どもを育てる"という空気を高めていけたらいいと思うんです」

 NPO法人での活動となれば、教員は兼業という立場になる。その点について、ある教員からこんな声が出た。

「教員の兼業は基本的には認められていませんが、教育的な内容であれば、兼業申請を行なえばおそらく問題ないと思います。実際、知り合いの教員には、Jリーグのユースチームで指導をしている人もいて、学校勤務の後に現場へ向かっています。

 ただ、これまで私たちの周りには、サッカーのユースチームに相当する"受け皿"がありませんでした。でも、NPO法人がその本体になれば、部活動がなくなったとしても、教員が野球指導を継続できる道が見えてくると思います」

【NPO法人で活動することのメリット】

 さらに奥村は、NPO法人で活動することのメリットを付け加えた。

「NPO法人になることで、社会的な信用が生まれますし、お金の面がクリアになる。これはとても大きいことだと思います」

 こうしたチーム運営に関わっていると、どうしてもお金の問題が浮上してくる。

「その点、NPO法人であれば会計報告をすべて閲覧できますから、金銭面で揉めることがありません。あとは通常の野球指導に加えて、地域の人たちが『応援したい』と思える事業をどれだけ展開できるか。そこによって、NPO法人としての魅力も変わってくると思います」

 とはいえ、これはひとつの案にすぎない。今この瞬間も、各地で地域の実情に合った新たな枠組みづくりに、多くの大人たちが頭を悩ませているのだろう。

「どんな形になったとしても、結局は"人"が大事です。今回、島根で出会った先生たちのように、熱い思いを持った人の力は、必ず生かさなければならない。これほど意識の高い先生たちが、子どもたちに関われなくなるのは、本当に大きな損失だと思います。子どもたちにとっても、先生たちにとっても、そして地域にとっても、いい方向へ進んでほしい。そう願っています」

 快晴のグラウンドで聞いた奥村の締めの言葉は、この問題に関わるすべての人の思いを代弁しているように感じられた。やりたい人が、やりたいことを存分にできるように。

地域の実情に沿った枠組みと、熱と思いに満ちた人材が、各地に揃うことを願いたい。

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