【試合前夜に作り直したジャンプ】

 スキージャンプの丸山希(北野建設)の初五輪は、銅メダル2つ獲得と充実したものとなった。

 今季は夏から好調を維持して冬シーズンに入り、W杯開幕3連勝でスタートを切ると、勝利数を6まで伸ばし、W杯総合2位で初めての五輪に臨んだ。

【ミラノ五輪】丸山希の一番の思い出は高梨沙羅、伊藤有希とのハ...の画像はこちら >>

 しかし、イタリアに入ってから行なわれた2回の公式練習では、ライバルたちが100m超え大ジャンプをしてくるなか、丸山は99mが最高で、波に乗りきれない結果だった。

公式練習を終えた時は、「正直『メダルはけっこう遠いかも』と感じていた」と振り返る。

 試合前日の夜に、金城芳樹ヘッドコーチと所属チームの作山憲斗コーチ(男子ヘッドコーチ)とシミュレーショントレーニングを行ない、「脛の入りが甘いのではないか」というアドバイスをもらった。

 このアドバイスをきっかけに、一晩でジャンプのイメージを作り直し、試合当日のトライアルラウンドで試してみると、少し強めの追い風でも3位の得点になるジャンプを飛ぶことができた。

「『これはいけるぞ』という確信に変わり、試合の2本は『自分のやるべきことに集中すればいけるんだ』という自信になりました」

 その言葉どおり、最初のノーマルヒル個人では、1本目に秒速1mを超える強い追い風の中でも3位につけた。そして2本目も失敗することなく、3位を堅持。2本をしっかりそろえて、初出場での銅メダルを獲得し、安堵の表情を見せた。

「(調子がよかっただけに)今シーズンはすごくプレッシャーがあったし、五輪まで調子が持つのかなと思っていましたが、なんとかここまで自分の状態を維持してこられてよかったです」

【大ケガからの復帰を経て五輪へ】

 27歳になる丸山が、五輪にたどり着くまでの道のりは長かった。2018-2019年シーズンからW杯にフル参戦し始めると、シーズンごとに総合20位、13位、11位と着実に順位を上げていた。そして、2021-2022年の北京五輪シーズンには、サマーGPで4戦に出場し、2位1回、3位1回で総合3位。混合団体が正式種目として採用された北京五輪では、メダル獲得のための主力選手になるだろうと期待されていた。

 しかし、10月の全日本選手権で転倒して左膝前十字靱帯断裂などの大ケガを負うと、そのシーズンは全休。五輪出場の夢を逃し、2022年8月の復帰まで、約10カ月の時間を要した。

「この4年間は私にとってすごく長い道のりだったけど、前回の北京で金メダルを獲ったウルシャ・ボガタイ選手(スロベニア)も、過去に私と同じ大ケガをしていたことを知っていたので、彼女の復活に勇気づけられて、頑張ってこられました。

 これまでは五輪もW杯と、そんなに違わないのかなと思っていましたが、前回自分が出られなかった時に『五輪ってこんなに注目されるんだ』というのを知りました。いろんな人が期待して見てくれるのが五輪なのだと知って、やっぱりあの舞台で輝きたいと感じました」

 しかし、復帰してからも好調を維持するのは簡単なことではなく、W杯の順位は、なかなかついてこなかった。それでもコツコツと努力を続け、今季になって結果が出始めた。

 きっかけは助走姿勢を安定させて、足の裏全体で滑走面を捕える姿勢をキープできるようになったことだ。ジャンプ台に長く力を伝えて踏み切ることができるため、スキーを安定させたまま素早く空中姿勢を作ることができる。加えて、持ち味である追い風にも強いフォームの威力を発揮できるのだ。シーズン序盤の戦いは群を抜く安定感で、ひとりだけヒルサイズ超えのジャンプを連発して、圧勝するシーンもあった。

 五輪のノーマルヒルでは2本のジャンプを揃え、2試合目の混合団体では強めの追い風のなかで97mを飛んで3位。2本目も風が強まったなかで3位を堅持して次に繋ぎ、混合団体初メダル獲得に貢献した。

 最後のラージヒルは8位だったものの、その表情は晴れやかだった。

「1本目はずっとやってきた足の裏の感覚をしっかりつかめるジャンプができました。

2本目はそれができてなくて順位を落とした悔しさがあるけれど、清々しい気持ちで五輪を終えられます。そんな気持ちになれたのも、自分のやりたいこと全部に挑戦できたからだと思います」

 そして初めての五輪で最も印象的だった場面については、こう振り返る。

「ノーマルヒルの2本目を飛び終えた時に、高梨沙羅選手(クラレ)や伊藤有希選手(土屋ホーム)が出てきてくれて、ハグをしながら私の銅メダル獲得を一緒に喜んでくれたシーンが一番の思い出です」

 このあと3月まで続くW杯に向けて、「まだW杯総合も狙える位置にいるので、少し休んで気持ちを切り替えて挑戦したい」と意欲を口にする。初めての五輪の銅メダル獲得を、次へ向けた飛躍への強固なステップにした。

編集部おすすめ