【演技後、涙を流し続けた】
ミラノ・コルティナ五輪、2月19日(現地時間)のフィギュアスケート女子フリー。坂本花織(シスメックス)は演技が終わり、金メダルに届かなかったことを確認してからは泣き続けた。
2日前のショートプログラム(SP)で坂本は、金メダル獲得へ向け理想的なスタートを切ったと言える。
大会当日の曲かけ練習では、リュウがジャンプの練習を抜いたり、他の選手たちも途中で滑りを中断したりするなか、坂本だけは中断せず、すべての要素を滑り通した。平常心で大舞台のフリーに臨もうとしていた。
6分間練習ではすべてのジャンプを冷静に確認し、本番もその落ち着きは変わらなかった。前に滑ったリュウが合計226.79点として暫定1位に立っていたが、その得点も想定内のもので脅威にはなっていなかった。
「本当にいい緊張感だったし、体の動きも悪くなかった」と坂本が話す滑り。最初からスピードを上げダブルアクセルや3回転フリップを丁寧に決めると、中盤のステップシークエンスでは笑みを浮かべる余裕も見せ、公式練習でミスをしていた3回転サルコウも高い加点を得る完璧なジャンプにした。
だが、重要な得点源となる3回転フリップ+3回転トーループは、やや跳び急いだのか、最初のフリップで前へつんのめるような着氷となってトーループをつけられなかった。
その後のダブルアクセルからの3連続ジャンプを含めた各要素は、加点をしっかり得る出来とした。そして最後の3回転ループに3回転トーループをつけてミスのリカバリーも考えたというが、「これ以上マイナスはつけられないし、ループ+トーループは練習でもあまりやったことがない。とにかく残りは確実に決めよう」と実行しなかった。
呆然とした表情で演技を終えた坂本は、自分の得点が合計224.90点でリュウの得点に届かないとわかると涙した。表彰式後、ミックスゾーンに来たのは試合終了から1時間以上たっていたがまだ涙は止まらず、声を詰まらせて話している途中でもポロポロと涙を流し続けていた。
【「運」を「本物の強さ」に変えた】
「全日本選手権や世界選手権など、ここ一番というところで今まで決めてきた分、なんでここ(五輪)では出せなかったのかなとすごく悔しいです。得点が出た時も『トーループを跳んでいたらなあ、あのトーループの分がなあ』という思いは正直ありました」
坂本がこう話すように、後半に跳んだ3回転フリップの基礎点は4.08点。3回転トーループをつけて連続ジャンプを決めていれば、基礎点は11.11点になっていて勝利していた計算になるのだ。だからこそ悔しさは2倍にも3倍にもなった。
それでも坂本は、北京五輪からの4年間を振り返ってこう話した。
「北京五輪で奇跡的な銅メダルを獲り、そこから4年を経て金メダルを本気で目指せるようまでになっていましたが、それが銀メダルになってすごく悔しい。でも、メダルのランクがひとつ上がっているのに悔しいというのは、この4年間にいろんな経験を積み重ねた成長なのかなと思う。その自分の成長は褒めたいかなと思います」
坂本が北京で銅メダルを獲得した時、中野園子コーチは「運です。彼女は最初の2018年平昌五輪に出た時もそうだったけど、運の強さだけは持っています」と話していた。また北京五輪後、ウクライナ侵攻によってロシア勢が国際大会に出場できなくなった。
「北京のあと、最初に壁にぶち当たったのは直後の(2022年3月)世界選手権でした。
苦境のなかで自分の苦手な分野や新しいジャンルの曲にも挑戦し、自分の得意・不得意を見極めたうえで、ミラノ・コルティナ五輪での戦い方を定めようとした。そんななか世界選手権3連覇を達成できたのは、彼女が持っていた運の強さだけではなく、それを本物の強さに変えていったからだ。
昨季は精神的な疲労が極限まで積み重なったなか、世界選手権では一度引退して競技に復帰したばかりのリュウに敗れて2位になり連覇は途絶えた。だが、それも彼女にしてみれば、「世界一」を背負わずに五輪に臨めることになったと見れば、運の強さなのかもしれないと思えた。
【指導者としてメダリスト育成へ】
そしてまた運を強さに変えた。今回の五輪で坂本は、団体のSPとフリーでそれぞれリュウとアンバー・グレン(アメリカ)に勝利し、自身の強さを証明した。さらに個人戦ではミスがあっても踏みとどまる強さは、まさに本物だった。
記者会見で海外メディアから今大会の結果への思いと今後について質問された坂本は、笑みを浮かべながらこう話した。
「結果は正直、本当に悔しいものになってしまったけど、この銀メダルを獲ったあとに中野コーチから『あなたが銀メダルを獲ったから、今後はあなたが五輪の金メダリストを育てていきなさい』と言われました。
中野コーチは坂本の銀メダルについて「思うことはみんなと同じだと思います。頑張ったがちょっと残念だったかなと。ただ、これからの人生のうえではこれでよかったんだろうとも思います。あとひとつ残してしまいましたけど、その分はコーチになった時に頑張って取り戻せばいい。『またやっていこう』という力を残すという意味では、これが彼女にとってはいい位置なんだろうなと思います」と話した。
坂本花織は、打たれ強く、たくましい。最後の最後の"あと一歩"は今後の人生で踏み出すためにあるのだろう。



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