前編:順天堂大・長門俊介監督が振り返る第102回箱根駅伝

【箱根駅伝2026】順天堂大・長門俊介監督が感じていた成長「...の画像はこちら >>
「5強崩し」

 それが今年、第102回箱根駅伝における順天堂大学の目標だった。予選会は2位通過ながら、本戦前は正直なところそこまで評価は高くなく、5強と言われる青山学院大、駒澤大、中央大、國學院大、早稲田大とは、総合力で少し差があるという評価だった。

だが、蓋を開けてみれば総合3位となり、98回大会以来のトップ3に返り咲いた。

 順天堂大躍進の要因とはいったい何だったのか――。長門俊介監督に聞いた。

「今回の流れを作ったのは、1区の池間凛斗(2年)でした。スローペースならある程度対応できても、ハイペースになったらどうかという不安はあったのですが、冷静に対応してくれました。9位という一桁でつないでくれたおかげで2区の吉岡大翔(3年)も走りやすかったと思います。そのあとの往路もすべてうまくつながったので、スタートの池間の走りは本当に大きかったです」

 1区の池間から5区の小林侑世(3年)まで全員が区間一桁を維持し、往路を6位で終えた。ここまで全員が安定した走りを見せ、結果を残すことができたのは、今季、何か特別な取り組みしてきたのか。

「今シーズン、取り組みについて大きく変えることはなかったです。ただ、選手の意識が大きく変わったことで、普段のジョグの距離が増えていました」

選手の意識を変えるきっかけとなったのは、前回の第101回箱根駅伝で、10位の帝京大にわずか7秒差で敗れて11位となり、シード権を逃がしたことだった。

「選手たちから上がってくる箱根駅伝の報告書には、『他大学に比べて距離が足りていないので、もう少し走る必要がある』とありました。多くの学生がそのことを強く感じたんだと思います」

【他大学を見ても焦りはなかった】

 今シーズンに入り、選手はジョグで距離を踏んだ。全日本大学駅伝の予選会は3位で通過、箱根駅伝の予選会は2位で通過。

ここで選手の成長を感じられたという。

「この時は、試合に対する意識が変わってきたと思いました。箱根予選会もそうでしたが、想定外のことも想定内と思えるくらい準備をして臨んでいたので、動じないというか、安定感が出てきました。そのあとの全日本大学駅伝は8位でしたが、失敗が少ないチームになってきたなという手応えがありました」

 11月は、世田谷246ハーフマラソン、上尾シティハーフマラソン、MARCH対抗戦など多くのレースが行なわれ、青学大や中央大からは10000mで27分台の選手が続出するなど異例の記録ラッシュとなった。一方で、順天堂大は、吉岡の28分05秒がトップタイムで27分台はひとりも出なかったが、強豪校のレベルが上がるなか、焦りはなかったのだろうか。

「27分台がどんどん出てきて、素直に学生のレベルが上がったなぁと思いましたね(笑)。ただ、うちはその時期、ほとんど試合に出ていませんでしたし、吉岡と玉目(陸/2年)が、日体大記録会で28分前半のタイムを出した時も特に調整せず、練習からの流れで出せたので、27分台に近い能力は備わっているのを確認できました。

 また、自分たちの箱根の目標は5位内で、27分台を出しているチームの目標は優勝争いでした。目標の違う学校を意識するよりも、確実に5位内に入るためにいい準備をして、チャンスがあればという意識でしたので、焦りはなかったです」

【監督の読みがハマった】

 今シーズンの取り組み、流れに例年と大きな変化はなかったが、長門監督が唯一、変更したのが箱根本番前の練習スケジュールだった。

「例年、選手の見極めのための負荷強度の高いポイント練習を箱根の10日前にやっていたのですが、それを前倒しで2週間前に変えました。10日前にうまく走れなかった場合、そのあとの調整がしづらいですし、前にズラすことで見極めがしやすくなりました」

 選手層が厚いチームでは、選考レースで選手が疲弊してしまい、箱根出走の権利を得ても本番で力を発揮できなくなるケースがよく起こる。長門監督はそのリスクを排除しようと、立川シティハーフマラソン、関東インカレ、全日本予選会と3つの各大会で選手選考を決めるレースを2週間前に設定し、成功してきたことを箱根でも生かした。

 また、10月の箱根予選会、11月の全日本を終えた時点でイメージしていた箱根の区間配置について、12月に入ってもあまりブレが少なかった。そのため、選手を見極めることよりも、調整に集中することができた。そうしたなかで、本番前に変更した区間は2区と7区だった。

「玉目は前回2区を走り、今回はその時よりも状態がよかったんです。でも、箱根の1週間前に、強い向かい風のコンディションでポイント練習をした際、起用について考えが変わりました。強い風に対する吉岡の走りを見た時に、玉目よりも吉岡のほうが、戸塚の坂で競り負けない強さがあると思いました。

 吉岡は、これまでエース区間に起用したことがなくて、高校の5000mの記録保持者として、そこからまだ一歩先に踏み込めない自信のなさを感じていました。でも、その練習での走りを見て『吉岡で戦える』と思いましたし、区間の適性では、玉目は2区よりも7区のほうがいいと思う部分があり、吉岡を2区に決めたのです」

 長門監督は、もうひとつ悩んだ区間があったという。

「4区と5区です。川原琉人(2年)は前回大会の経験者で『今回も登りたい』と5区希望でした。小林も山を登りたいとずっと言い続けてきたのですが、全日本と箱根予選会を踏まえて、平地でも走れる手応えを掴んだのか、『平地がいいです』と言ってきたんです。ただ、小林は四釜峻佑(ロジスティード)が5区を登っていた時ぐらいの練習ができていましたし、タイプ的に小林のほうが山はハマるなと思ったので、4区川原、5区小林にしました」

 この区間配置の組み換えは、うまくハマった。

2区の吉岡は長門監督の期待どおり、戸塚の坂でムチーニ(創価大)やキップケメイ(日大)、前田和摩(東農大)らに競り負けなかった。4区の川原は区間8位で6位を維持した。5区の小林は、四釜のタイム(1時間10分19秒)に近い、1時間10分31秒の区間5位の走りで往路6位を堅持した。

「往路は、100点満点でした。順当に走って7、8番。流れに乗れないと10番から12番という予想をしていたので......(笑)。レース全体のプランは、往路で耐えて、復路で順位を上げて5、6位に持っていけたらという考えでいたので、往路で6位は大きかったです。これは総合5位以内という自分たちの目標に大きく近づいたと思いました」

 だが、復路に不安がまったくないわけではなかった。

 復路の6区には、7位に16秒差で駒澤大の伊藤蒼唯(4年)、8位には1分28秒差で創価大の小池莉希(3年)がいた。

「6区は、前回走った林龍正(3年)の調子がよくなかったことと、谷本昂士郎(2年)の調子がよかったので起用しました。伊藤くんと小池くんがうしろから上がって来るのが想像できましたし、抜かれても仕方ないくらいの意識でいました。

 他大学さんの復路のメンバーを見た時、6区さえしのげばなんとかなりそうという自信はありました。

ただ、駒大は不気味でしたね。8区の山川拓馬くん(4年)や、10区の佐藤圭汰くん(4年)が万全ではないと聞いていましたが、ポテンシャルの高い選手なので......。まずは6区が終わった時点でどの位置にいるのか。そこが5番内に向けて大きなポイントになると思っていました」

 谷本は区間12位ながらも順位をひとつ落して7位で、続く7区の玉目に襷を繋いだ。8位の創価大は、わずか3秒差まで詰められていたが、それでも大きく順位を落とさなかったことが、このあとのレース展開に好影響を及ぼすことになった。

後編を読む>>長門俊介監督が語る順天堂大のチーム作りは「学生のやりたいことを高めていく、その道を示していくことが大事」

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