■『今こそ女子プロレス!』vol.31

東京女子プロレス 荒井優希 後編

(前編:荒井優希が振り返る"後ろ受け身キャンセル界隈"からの進化 アイドルとの二刀流時代には偏見との闘いも>>)

 2021年5月4日、プロレスデビューした元SKE48の荒井優希。その年、東京スポーツ新聞社制定「2021年度プロレス大賞」と、週刊プロレス制定「プロレスグランプリ2021」の新人賞をダブル受賞した。

【女子プロレス】SKE48時代にセンターを目指さなかった荒井...の画像はこちら >>

 プロレスラーとしてメキメキと力をつける一方で、SKE48の選抜メンバーから外れてしまう。荒井は「プロレスをやったから選抜メンバー落ちしたと思われるのが悔しかった」と話す。

 アイドルとプロレス。二刀流ならではの悔しさを抱えていた彼女に、タッグパートナーとの出会いが訪れる――。

【赤井沙希に教わった、見られることへの意識】

 2022年4月、荒井はDDTプロレスリングの赤井沙希とタッグチーム「令和のAA砲」を結成する。ふたりとも京都府出身で、芸能界からプロレス界入りしたバックボーンを持ち、プロレス大賞新人賞の受賞歴がある。

 当時の荒井は、目の前の試合をこなすことで精一杯だった。リング上で観客から見られていることを考える余裕もなかった荒井に、"見られることへの意識"を教えてくれたのは赤井だった。一緒に入場の練習までして、赤井は見せ方を叩き込んでくれたという。

 また、「試合中は下を向いてはダメ。ずっと相手を見ていないと危ない」と何度も指摘された。「プロレスは闘いである」という認識をあらためて植え付けてもらった。

「赤井さんの性格なのか、遠慮なく全部ストレートに伝えてくれる。

試合中に学ぶこともたくさんあったし、それ以外でお話しすることも多かったので、荒井優希を作るうえで欠かせない存在だなと思います」

 7月9日、大田区総合体育館大会で、プリンセスタッグ王者のマジカルシュガーラビッツ(坂崎ユカ&瑞希組)を破り、令和のAA砲は第10代プリンセスタッグ王座を戴冠。荒井はプロレスキャリアにおいて初めてベルトを巻いた。

 2023年3月18日、有明コロシアム大会でアジャコングと初のシングルマッチを行なった。アジャとは、デビュー後まもなくタッグマッチで対戦し、完敗している。その一戦をきっかけに、荒井はプロレスを継続する決意をしていた。

 念願の再戦。何度も何度も、これでもかと必殺技「Finally(ファイナリー)」(かかと落とし)を繰り出すも、力及ばず敗れた。試合後、ボロボロになった荒井がリングを降りようとすると、アジャは荒井に近づき「またやろうな」と声を掛けた。

 荒井は自身の得意技を出し惜しみしない印象がある。「Finally」という技をどう使おうと考えているのか。

「もちろん愛もあるけど、できることが本当に少なかったんです、ずっと。自分が勝つにはFinallyという細い道しかなかった。

今はサソリ(固め)だったりブレーン(バスター)だったり、3カウント(フォール)を取れる技が増えてきたけど、あの試合でアジャさんにいろんな形のFinallyを出したことで、プロレスの幅が広がった気がします」

【シングルベルト初戴冠も、ベルトに追い詰められていく】

 2024年1月4日、後楽園ホール大会で、荒井はマックス・ジ・インペイラーの持つインターナショナル・プリンセス王座のベルトに挑戦する。インペイラーは、178cm、95kgの巨体と、世紀末を思わせる出で立ちが特徴の"ミュータント・レスラー"。あまりの体格差に、勝機はないように思われた。

「Finallyを狙うしかなかったけど、思った以上にボコボコにされましたね。椅子に投げられたのも、マットのない床に落とされたのも初めてです。初めて足の感覚がなくなりました」

 しかしプロレスは、どんなに体格差があろうとも、どんなに劣勢であろうとも、必殺技が決まれば勝つ可能性がある。荒井は一瞬の隙を狙ってFinallyを叩き込み、インペイラーに勝利。第12代インターナショナル・プリンセス王座を戴冠した。

 念願のシングルベルト初戴冠。しかし荒井は、このベルトに追い詰められていく。インターナショナルのベルトを持つと、必然的に海外の選手と闘うことが増える。荒井はこの時、キャリアは3年だが試合数が限られていたため、まだまだ若手のような感覚だった。

「東京女子プロレスの選手だったら『この人はこういう技を使う』とか、『こういう間を取る』とかわかるけど、海外の選手だとまったくわからない。

日本人とはテンポ感も違うし、技をバンバン決めたりとか、そもそものプロレスの違いもある。力も強くて簡単に持ち上げられちゃうし、悩みながら過ごしていました」

 タイトルマッチ当日は、朝から気分が悪い。名古屋から新幹線に乗ると、それだけで酔ってしまう。リング設営が終わってから薬を買いに行き、昼までにどうにか落ち着く、という繰り返しだった。

 それでも荒井は王座を366日保持し、6度の防衛に成功。インターナショナル・プリンセス王座の連続保持期間の最長記録と、連続防衛回数の最多記録を更新。通算防衛回数も伊藤麻希に並び最多となった。「苦しかったけど、あの期間があったから今がある」と話す。

【女子プロレス界の未来を背負う選手になる決意】

 2024年11月、SKE48 Team KⅡの公演中、2025年3月31日をもってグループを卒業することを発表。卒業後の進路について言及しなかったため、プロレス引退説が流れたが、12月、SKE48卒業後もプロレス活動を継続することを発表した。

「やめる1年くらい前から、『ここだ』っていうのが見えていて。全部やりきったし、『次のステージに進むタイミングだな』と思いました。自分の決断には結構自信があって、『ここだ』って思った時に選ぶことは間違っていない感覚があります」

 そして、卒業直前の3月16日、大田区総合体育館大会にて、"女子プロレス界の横綱"里村明衣子と最初で最後のシングルマッチが組まれた。

里村は4月29日に引退を控え、あらゆる女子レスラーが里村との一戦を望んでいた時期。東京女子としては最後のチャンスを自分が手にしたことに、荒井は喜びと重圧を感じた。

 リング上で里村と対角に立った時、「怖い」と思った。しかし里村のオーラに飲まれてはいけない。出せるものはすべて出したが、ボロボロに負けて、荒井は号泣した。

「完璧に負けたことへの悔しさ。もう一生リベンジできないという現実。うれしさも、楽しさもいっぱいあって......。いろんな感情が混ざり合っていたけど、人にどう見られるとかじゃなくて、自分はあの試合が好きです」

 試合後、バックステージで里村は荒井を絶賛した。「かなり驚いています。こんないい選手がいたんだと。技の的確さ、気持ち、それからスター性、全部揃っている。

間違いなく女子プロレス界の未来を背負って立つ選手」――。荒井も「私が女子プロレス界の未来を背負います」と決意を里村に伝えた。

 3月31日、荒井優希卒業公演をもってSKE48を卒業。4月、リングコスチュームをそれまでのスカートからショートパンツに変更した。

【相手が強ければ強いほどテンションが上がる】

 7月21日、大田区総合体育館大会にて、ついに団体最高峰のベルト「プリンセス・オブ・プリンセス王座」(以下、プリプリ王座)に挑戦した。王者は瑞希。健闘したが、惜しくも初挑戦初戴冠とはならなかった。試合はやりきったものの、数日経って映像を見返し、「実力が足りなかった」と唖然としたという。

「珍しく落ち込みました。東京女子のために、と思ってやってきたことがいっぱいあったけど、そんなのは思い込みだったんじゃないかとか......。まあ、シンプルに"ネアカ"なので、2日で立ち直ったんですけどね。ベルトに挑戦する前よりも、ベルトとの距離は遠くなったように感じます」

 9月20日、大田区総合体育館大会にて、渡辺未詩が瑞希を下してプリプリ王者に輝く。

そして今年1月10日、新宿FACE大会にて、次期挑戦者決定サバイバル6WAYイリミネーションマッチが開催された。荒井は最後、山下実優からギブアップを奪い勝利。2度目のプリプリ王座挑戦権を手に入れた。

 来る3月29日、両国国技館大会にて、荒井は渡辺が持つベルトに挑戦する。

「前哨戦を通して、もちろん怖さや痛さもありますけど、ちょっと楽しいと思えている自分もいます。強い人がこっちに向ける視線って......高まるんですよね。負けず嫌いなので、相手が強ければ強いほどテンションが上がります」

 確かに荒井はこれまで、強い選手と闘うことで強さを引き出されてきた。アジャコング、マックス・ジ・インペイラー、里村明衣子......。今、渡辺未詩の視線を受けて、「自分はまた強くなる」と予感しているのかもしれない。

 SKE48時代、「センターになりたい」という気持ちはなかった。楽しければそれでいいと思っていた。どこかで自分をあきらめていた。しかし今の荒井は「前に立ちたい」と思っている。

「この楽しい場所にい続けるために、自分が一歩、前に出る覚悟を決めました」

 荒井優希が、勝負を賭ける。

【プロフィール】

荒井優希(あらい・ゆき)

1998年5月7日、京都府生まれ。167㎝。元SKE48 Team KⅡメンバー。2021年5月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会にてプロレスデビュー(渡辺未詩&荒井優希vs伊藤麻希&遠藤有栖)。東京スポーツ新聞社主催「2021年度プロレス大賞」で新人賞を受賞。2022年7月、大田区総合体育館大会において第10代プリンセスタッグ王座を戴冠(パートナーは赤井沙希)。2024年1月、後楽園ホール大会にてインターナショナル・プリンセス王者のマックス・ジ・インペイラーに挑戦。見事勝利し、第12代インターナショナル・プリンセス王座を戴冠。2025年3月末、SKE48を卒業し、プロレス一本化した。

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