勝利チームの校歌斉唱が終わったあと、バックネット裏からこんな声が飛んだ。

「なんであんなに遅い球、打てんのや!」

 今や160キロ超のストレートが珍しくないメジャーリーグやWBC中継に慣れたファンにとって、130キロ前後の球速は「遅い」と映るのかもしれない。

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【最速146キロのプロ注目右腕に勝利】

 だが、大会5日目の第2試合に登場した英明(香川)の左腕エース・冨岡琥希(こうき/3年)が、その"遅さ"を武器に勝利を引き寄せた。

 中国王者・高川学園(山口)との初戦。冨岡をリードし、完投勝利へ導いた捕手・高田斗稀(とうま/3年)はこう振り返る。

「高川学園はストレート狙いだと思ったので、緩急を使おうと。冨岡はスライダー、カーブ、チェンジアップがあるので、真っすぐが生きる配球ができたと思います。テンポもよく投げてくれました」

 試合は、最速146キロのプロ注目右腕、高川学園のエース・木下瑛二(3年)との投手戦。だが4回、英明が相手のミスにつけ込んで3点を先制すると、5回にも加点し主導権を握った。

 最終回には守備の乱れから2点差まで迫られたものの、冨岡が最後まで投げきった。高田がピンチの場面を振り返る。

「点差があったので、ランナーを気にしすぎず、落ち着いて投げようと話しました」

 2回戦では、帝京長岡(新潟)を下した東北(宮城)と対戦する。

「今日は緩い球でカウントを取りましたが、相手によってリードは変わります。コントロールよく投げてくれれば、守備のテンポもよくなるはずです」

【英明の指揮官が挙げる"いい投手の条件"】

 試合後、英明の香川純平監督は穏やかな表情で語った。

「いろいろ準備はしてきましたが、『迷ったら自分の感性でいけ』と高田には伝えていました。悪送球で流れを悪くした場面もありましたが、積極的にいった結果ですから。

大会中は足を止めることなく、思いきってやってほしい」

 9回144球、3失点で完投した冨岡について、香川監督はこう評価する。

「スピードがよく話題になりますが、ピッチャーの評価はそれだけじゃない。僕が評価するのは試合をつくれるかどうかです。そのためのメンタルも重要です。今日の冨岡はいろいろな球種でストライクを取れていたし、ほんとによかった。最後に追い上げられましたが、彼が打たれたわけでも、フォアボールを出したわけでもない。とにかく最後まで粘り強く投げてくれました。ただ、今日は......ですよ」

 そう言って、笑顔を見せた。

 香川監督が挙げる「いい投手の条件」はシンプルだ。

「コントロールと、複数の球種でストライクが取れること。あとは、メンタルですね。冨岡は大きな試合でも緊張しないし、いつもマイペース。

だから130キロ台のストレートでも抑えられるんです」

 一方の冨岡本人は、淡々と振り返った。

「初回から三振が取れて、いい感じで投げられました。終盤は自分らしいピッチングができたと思います。スライダーとチェンジアップは高い確率でストライクが取れる球ですし、冬はストレートの質を上げる練習をしてきたので、打者には真っすぐが走って見えたと思います」

【高校野球】速さだけが正義じゃない! 130キロ台の速球で打者を翻弄したふたりの左腕が突きつけた"投手評価の本質"
佐野日大戦で好投した三重の上田晴優 photo by Ryuki Matsuhashi

【内野ゴロ17個の圧巻の投球】

 同日の第3試合では、三重の左腕・上田晴優(せいゆう)も好投を見せた。最速133キロながら、変化球を低めに集め、8回2/3で内野ゴロ17個。理想的な「打たせて取る」投球で佐野日大(栃木)を無失点に抑えた。

「ブルペンからストレートがよかった。冬は内外角の投げ分けを重点的に練習してきました」

 与四球はゼロ。

「とにかく低めに集めることだけを意識しました」

 冷静に見えたマウンドの裏側で、本人は強い緊張を感じていたという。

「すごく緊張していました。でもアルプスを見て『みんなが味方だ』と思えた。初球にカーブを選んだのは、一番ストライクが取れる球だったからです」

 決勝打を放ち、上田を支えた捕手・大西新史も「いい投手像」をこう語る。

「コントロールとキレ。やっぱり一番はコントロールです」

 甲子園から速球派が去る一方で、130キロ台のストレートで打者を翻弄する左腕たちが、大会をより奥深いものにしている。

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