文武両道の裏側 第24回
スタンリー翔唯(東京大学野球部)後編

 昨年11月、東大の現役野球部員でありながら司法試験に合格したスタンリー翔唯(かい/新3年)。スタンリー選手はなぜ野球と並行して司法試験に挑んだのか。

さらにDH(指名打者)として活躍が期待される東京六大学春季リーグ(4月11日開幕)の意気込み、将来の野望などを語ってもらった。

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【コロナ禍の高校時代に考えたこと】

ーー早稲田実業高等部2年の時に選手を引退する決断をし、学生コーチとなったスタンリー選手。当時は、コロナ禍でしたね。

スタンリー翔唯(以下同) 僕らの代は部員の不祥事により秋大会を出場辞退したこともあり、春のセンバツ出場は絶たれてしまい、最後の夏は新型コロナの感染拡大で甲子園が開催中止となり、東京都の独自大会ではベスト8でした。当時はとても大変ではありましたが、時間ができたので、いろいろなことを考えられたのも事実ですね。

ーー具体的にどんなことを考えていたのですか?

 日本人というか、人の幸せにつながることは何なのかって。それが政治なのかなと思って、政治家について調べてみたら、世襲も多いですけど、意外と司法試験に通って法律関係の仕事をしている人も多いと気づいたんです。

 あと、その頃は早稲田大に入るべきかどうかを考えていた時期で、大学に入る意味みたいなものも真剣に考えたんですが、思い浮かばなくて。両親に相談したところ、「とりあえず早実に入ったんだから、早大に入学だけはしてみたら?」と言われて、学内の推薦で政治経済学部を目指すことにしました。

ーー先々の司法試験を考えると、政治経済学部よりも法学部のほうがよかったのでは?

 僕は、あまり大学と司法試験とは関連づけてなかったです。まずは、早実の推薦枠で一番レベルが高い政経を狙ったというのもありますし、政治に加え、総理大臣になることも興味があったので、それも含めての政経を選びました。

【早大から東大へ仮面浪人を決めた理由とは】

ーー早大では、どんな大学生活を?

 入学してからスカッシュサークルやスポーツ新聞会に入ったりしました。でも、それも大学1年の夏休みまでで、そのあとは司法試験の予備試験の勉強だけをしていたんですが、大学2年の秋に素振りをしていたら、僕のなかで「東大で野球をやりたい」って気持ちがふつふつと盛り上がってきたんです。

ーーどうしてですか?

 本当に急で、何がそのファクターになったのかはわからないですけど、あるとしたら高校の同期が、大学で野球を頑張っていたというのが大きかったと思います。

それこそ高校で一緒にベンチ外で頑張っていた同期の選手が、その年の早慶戦で先発したり。そこは刺激になりました。

司法試験合格の東大野球部・スタンリー翔唯「文武両道は褒め言葉ではない」日本のトップを目指す男の野望とは?

ーーなるほど。

 大学2年で予備試験に合格したので、そこで東大を受ける選択肢もあったのですが、この時はもう一度受験勉強をする覚悟がなかったんです。その後、3年の時、司法試験の本番では体調不良で落ちてしまって、そこでようやく東大を受験する覚悟ができました。

ーーそうして大学3年の8月から東大の受験勉強をスタート。どんな感じで勉強をしていましたか?

 文系のなかで一番点数が必要にならない文科三類を目指そうと考えました。毎朝5時に起きてから、食事やお風呂以外は夜9時までずっと勉強していました。一日12時間くらいだったと思います。しっかり寝たいタイプなので、睡眠は毎日8時間取りました。

【見据えるのは早大戦でのホームラン】

ーー結果、東大文三に合格し、野球部に入部。久しぶりの野球はどうでしたか?

 いやあ、ダメでした。全然ダメでしたね。

まず入って2~3週間で、手首と脇腹の肋骨を疲労骨折してしまいました。今考えると、そりゃそうだよなって。まあ5年ぶりくらいに、本格的に野球をやるわけだったので、ちょっとなめていたというか、自分の実力を過信していました。

ーーやっぱり感覚が全然違った?

 中学まではショートでスローイングはめちゃくちゃ自信があったんですけど、手の感覚がまったくなくなっていて、イップスとまでいかないですけど......本当に送球難という感じでした。

ーースタンリー選手から見て、東大野球部の印象は?

 もちろん六大学のなかではレベルは高くはないです。でも、みんな一定のレベルの力があって、走・攻・守のどれかに秀でている選手がいる印象はあります。

ーー最近の東大野球部は勝ち点まであと一歩のところまで来ています。

 成長曲線が今、すごく鋭く上がっていると思います。これからは、この成長をさらにどれだけ加速させるかという部分にかかっています。当然、僕にも当てはまることです。

ーー現時点で、スタンリー選手に足りない部分、足りている部分はそれぞれどこになると思いますか?

 走・攻・守の「走る」と「守る」部分では、すべて足りないのが大前提ですが、「攻める」のバッティングのパワーでは、六大学のレベルには十分達しているかなと思います。ただ、やっぱり速球に対する対応がまだまだ。

ある程度のスピードを超えてくると、なかなか自分のバッティングができないところが課題です。

ーー今年の春季リーグから、東京六大学ではDH(指名打者)制が採用されて、スタンリー選手はDHでの出場の可能性が高いと言われていますが。

 東大3年目になって野球感が戻ってきたというか、実力がそれなりのものになってきた時に、ちょうどDH制が採用されるということは、ありがたいです。

ーー東大の開幕戦は、4月11日午前11時から、明治神宮球場での明治大戦。東京六大学野球史上初の「DHヒット」の可能性もありますが、意識したりしますか?

 いや、何も考えてないですね。もちろんチームとしては明治戦を見据えていますが、僕は正直、その次の早大戦を見据えていて、そこでホームランを打ちたい。早大の小宮山悟監督を後悔させたいというか、早大をやめた選手にホームランを打たれて最大のダメージを与えられたらなと思っています(笑)。

司法試験合格の東大野球部・スタンリー翔唯「文武両道は褒め言葉ではない」日本のトップを目指す男の野望とは?

【ひとつの分野で1位になりたい】

ーー東大卒業後は野球とどのように付き合っていきたいと考えていますか?

 僕としては、さらに上のレベルで野球を続ける資格のある成績を六大学で残したいと考えています。現時点では独立リーグかなと。すでに司法試験に合格しているので、みんなが時間を取られて苦労している就活に時間を取られることなく、逆にその時間を自主練に充てて、これ以上伸びないというところまで伸ばしていきたい。

 僕としては野球の能力がこれ以上伸びないと思った時点で野球人生を終えたいと思っています。もしかしたら今年、東大3年が終わった時点でそう思う可能性もなきにしもあらずですし、独立リーグに入ってからかもしれないですけど、そういう基準を僕のなかでは設けています。

ーー野球人生を終えたあとはどのような展望がありますか?

 僕は今、明らかに勉強より苦手な野球に挑戦している人生の「野球編」の真っ最中で、それが終わったら「総理大臣編」に行こうと考えているんです。

 まだ具体的には考えてないですけど、総理大臣に50代でなりたいと思っているんですよ。だから、逆算して考えてみると、一年一年が大事になってくるので、はたして司法修習で1年間を使ってしまうのがベストなのかはわからないです。

 司法試験に受かっていると公設の政策秘書ができるので、そういう道も考えていますし、国会議員の政策秘書になって、そのあとで出馬するなり、いろんな道はある。司法修習に必ず行くかと言われたら、現時点ではわからないところですね。

ーーあらためて、司法試験合格はすごいことですね。

 合格を期限なく一生使えるのは本当にすごいメリットじゃないですか。こういう言い方はあれですけど、「人生最大の保険」って言えるかなと。

ーー最後に、そんなスタンリー選手にとって「文武両道」とは何になりますか?

 僕は文武両道だと言われるのは褒め言葉ではないと思っています。どちらも中途半端だっていうのが文武両道だと思っているんですよ。僕の理想は、大谷翔平さんみたいな、ひとつの分野で1位になること。文武両道は、ふたつの分野で上位10パーセントのような、ひとつの分野でトップになれないから、ふたつを掛け算してトップになろうという発想だと、僕は捉えているんです。

 勉強でも野球でもそうですけど、上位50パーセントから上位10パーセントになるのはけっこう簡単ですが、上位10パーセントから1位になるのはとてつもない努力が必要だと思う。なので、ひとつの分野で1位になることのほうが明らかにすごいことだと僕は思います。

 本当は、大谷さんのように、もっと"いっちゃってる"、何かひとつを極めてみたいとは思っていますが、年齢的なものもあり、僕としてはもうプロ野球選手はあきらめているところはあります。そうしたなかで後悔のない最大限の努力はしたいと思っていますし、総理大臣が日本のトップかどうかは置いておいて、政治家としてはトップなわけなので、いつかはひとつの分野で1位になりたいとの思いは、つねに持っています。

終わり

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<プロフィール>
スタンリー翔唯 すたんりー・かい/2003年1月20日、東京都練馬区生まれ。小学1年から野球を始める。早稲田実業中等部・高等部を卒業後、早稲田大3年の時に東京大文科三類に合格。2025年11月には司法試験に合格している。現在、東大3年。

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