「日本のフットボールチームも、日本の文化も好きだ。明日、日本代表と対戦することを光栄に思っている」
フットボールの聖地ウェンブリー・スタジアムで日本がイングランドを1-0で下した前日の記者会見で、ホームチームを率いるトーマス・トゥヘル監督はそう話した。
5バック、2ボランチ、3トップのシステムは、自分もよく使ってきた。試合をコントロールしやすく、相手からすれば、プレスをかけにくいフォーメーションだ。知的にハードワークしなければ、やられてしまうだろう。なぜなら、日本には俊敏で仕事量の多い選手がたくさんいるからだ。
(3日前の)スコットランド戦(1-0)も、(昨年10月の)ブラジル戦(3-2)も、(昨年9月の)メキシコ戦(0-0)も見た。どの試合でも、似たような攻撃のパターンを使っている。
スコットランド戦のゴールも練り上げられた形だったと思う。ウイングバックからサイドを変えたり、ふたりのナンバー10に当ててスピードアップしたり、素早く切り替えて逆襲に転じたり。それらが日本のカギだと思う」
日本のキープレーヤーのひとり、三笘薫(ブライトン)について質問された時、饒舌な戦術家は次のように応じた。
「彼はナンバー10のポジションで先発するだろう。ドリブルやターンがうまく、アクセルはパワフルなので、チームで対応するしかない。あるいは、彼へのパスの出所を止めるのが最善策かもしれない。全体で的確にプレスをかけていきたい」
ところが会見翌日の試合では、逆に三笘が20分すぎに中盤でコール・パーマー(チェルシー)からボールを奪い、素早くカウンターアタックに転じると、最後は中村敬斗(スタッド・ランス)からの横パスを落ち着いて流し込み、日本に先制点をもたらした。
【勝ち方のバリエーションが増えた】
イングランドの守護神ジョーダン・ピックフォード(エバートン)が代表で失点するのも、イングランドが先制点を奪われるのも、実に2024年10月以来のことだった──EURO2024で準優勝した彼らは、その後のワールドカップ欧州予選を無失点の全勝で突破している。
「うちが先制されることなんて、めったにない。日本はとても、とても、とてもいいチームだ」と試合後に話したのは、終盤に投入されたDFダン・バーン(ニューカッスル)だ。
「いい反復練習を重ねていると思う。特にカウンターが脅威だった。自分はかなり前から日本代表や日本人選手に好印象を抱いていたけど、ベンチから見て、その後に実際に対戦してみて、その印象をさらに強くした。前回のワールドカップでもよかったし、次の大会でもいいフットボールを見せるはずだ」
23分に先制した日本はその後、イングランドに主導権を握られながらも、要所を締めて逃げ切りに成功。プレミアリーグでプレーする鎌田大地(クリスタル・パレス)が全体をコントロールし、そのパートナーを務めた佐野海舟(マインツ)は持ち味の鋭い寄せで中盤を引き締めた。
敵将が「日本の5バックに苦労した」と振り返ったように、全体で構えてそれぞれのカバーリングの意識も高く、最後の砦のGK鈴木彩艶(パルマ)は驚異的な反射神経で相手の鋭いシュートを弾き出した。
前回のカタールワールドカップでドイツとスペインに、昨年10月にブラジルに勝った時とは異なり、先行してリードを守りきって最小得点差の白星をつかんだ。列強を相手に勝ち方のバリエーションまで増やしている日本代表は、彼らが宣言するように、来夏には本当に世界の頂点を極めることができるだろうか。
その点について、前日の記者会見でトゥヘル監督に質問してみた。日本代表は監督も選手もワールドカップで優勝すると宣言しています、と。
「それは公式に言っているのか? そうか、いいと思うよ。夢を持つのは大事だ。実現するかどうかはともかく、夢を持たないとね。本大会に出場するチームには、等しくチャンスがある。突拍子もないものではないし、理解できるよ。
日本代表は強い。想像しにくいことを実現させられるかもしれない。だから前向きに、できない理由はないと考えるべきだ。
そう話したイングランド代表監督だが、自分たちのことについては常々、「優勝候補ではない」と報道陣に釘を刺している。ややもすると途端に盛り上がりがちな地元メディアを牽制しているのだろう。
【イングランドは主力不在のメンツ】
その点、私たちの国の状況はどうだろうか。同調圧力という言葉が定着している島国で、何かを成し遂げるためには全体をあおる必要があると捉えられているのか、ワールドカップで8強にさえ到達したことのない代表チームが、次の大会で世界一になると宣言している。スコットランド戦後の記事でも書いたが、その事実にはどうしても違和感を覚えてしまう。
敵地ウェンブリーでイングランドを下したのは、まぎれもない快挙だ。ただし、相手はハリー・ケイン(バイエルン)やブカヨ・サカ(アーセナル)、デクラン・ライス(アーセナル)、ジョン・ストーンズ(マンチェスター・シティ)という主力を欠いていた。
なかでも、エースストライカーのケインの不在は、実に大きかった。日本にも遠藤航(リバプール)や南野拓実(モナコ)、久保建英(レアル・ソシエダ)らがいなかったが、替えの効かない大黒柱かと言われると、ケインほどではないだろう。そもそも過密日程がすぎる現在のトップレベルのフットボールにおいて、代表の主要大会にベストメンバーで臨めるチームなど、ないかもしれないけれども。
ウェンブリーでの歴史的な一戦を終え、日本代表の選手たちは「浮かれたりはしていなかったけれど、充実した表情をしていた」と、日本サッカー協会の宮本恒靖会長が明かしている。
きっとそうだろうと思う。
おそらく、今の日本代表が勝てないチームはないだろう。だが、世界一になるというのは、また別の話ではないだろうか。充実した英国遠征を終え、さらに兜(かぶと)の緒を締めて、一つひとつ歩みを進めてくれたらいいと思う。

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