世界に魔法をかけたフットボール・ヒーローズ
【第58回/最終回】ルイ・コスタ(ポルトガル)

 サッカーシーンには突如として、たったひとつのプレーでファンの心を鷲掴みにする選手が現れる。選ばれし者にしかできない「魔法をかけた」瞬間だ。

世界を魅了した古今東西のフットボール・ヒーローたちを、『ワールドサッカーダイジェスト』初代編集長の粕谷秀樹氏が紹介する。

 第58回はポルトガル代表のMFルイ・コスタにスポットを当てたい。ピッチ上で優雅に攻撃のタクトをふるう「マエストロ」に、世界中のファンは一目惚れした。最終回を飾るにふさわしい「世界に魔法をかけた」フットボール・ヒーローだ。

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【欧州サッカー】ルイ・コスタは立ち居振る舞い「すべて」が美し...の画像はこちら >>
 数多くのスポーツチームに「黄金世代」が存在し、人々の記憶に深く刻み込まれている。サッカーも国内・海外いずれの時代も、思い浮かべることのできるチームがあるだろう。

 マンチェスター・ユナイテッドでは、いわゆる「ファーギーズ・フレッジリングス(アレックス・ファーガソン監督のひな鳥たち)」だ。デビッド・ベッカム、ポール・スコールズ、ライアン・ギグスなどの世代である。

 日本代表では1999年ワールドユース(現U-20ワールドカップ)で準優勝したジェネレーション。小野伸二稲本潤一遠藤保仁といった面々を指す。

 ポルトガル代表にも「黄金世代」は存在する。ヨーロッパはおろか、世界制覇も可能と考えられたタレントを一気に輩出した。

ルイス・フィーゴ、パウロ・ソウザ、フェルナンド・コウト、ジョアン・ピント、そしてルイ・コスタである。

 彼らが織りなすテクニカル、かつ攻撃的なフットボールは多くのファンを魅了し、1989年と1991年のワールドユースを制した際には「世界王者の次期有力候補」と言われていた。

 ただ、彼らがフル代表に成長したあと、タイトルには手が届かなかった。「黄金世代」がピークを迎えたEURO2000はストライカー不足でベスト4に終わり、2年後の日韓ワールドカップはアメリカと韓国に敗れて決勝ラウンドにすら進めなかった。

 いずれの大会も「技巧に走りすぎた」「フィジカルが足りない」といった批判がついてまわった。

【バティストゥータとの7年間】

 それでも、技巧こそがポルトガルの持ち味であり、ルイ・コスタの真骨頂でもある。リズミカルなボールタッチで前に進み、寸分の狂いのないキラーパスを、スルーパスを絶妙のタイミングで配する。

 しかも視野が広く、一本のパスで局面をガラリと変えるケースもしばしばあった。そのプレーは美しく、芸術的。まさに「マエストロ(巨匠)」である。

「ほしいところにパスを届けてくれる。ルイ・コスタのように優れたゲームメーカーと7シーズンもプレーできたのだから、感謝するしかないよ」

 フィオレンティーナで苦楽をともにしたガブリエル・バティストゥータも、ルイ・コスタを高く評価していたひとりだ。

 ポルトガルが生んだ「ゲームの創造主」はフィオレンティーナに7シーズン在籍し、2度のコッパ・イタリア優勝をもたらした。

しかし、チームの財政悪化の影響によって、2001年にミランへと旅立つことになる。

 新天地ミランでは、フィリッポ・インザーギ、アンドリー・シェフチェンコと相性がよかった。相手DFラインの裏に抜ける両FWの足もとやスペースに正確なパスを送る。ミスヒットさえしなければゴールになるのだから、インザーギもシェフチェンコもルイ・コスタに足を向けては寝られない。

 2002-03シーズンにコッパ・イタリアとチャンピオンズリーグの2冠を達成し、2003-04シーズンはスクデットも獲得。このタイトル歴こそがルイ・コスタの実力を証明している。

 ミシェル・プラティニ、ディエゴ・マラドーナ、フアン・ロマン・リケルメ、ネイマール......。「ファンタジスタ」と称賛されるトップスターは気位が高く、監督にとって扱いづらいタイプも少なくない。

 しかし、ルイ・コスタは優秀なチームプレーヤーでもあった。構想の主軸から外れても愚痴ひとつこぼさず、自らの役割を黙々とこなしていた。加齢に抗えず、ミランでカカに、ポルトガル代表でデコにポジションを奪われた際も、波風を立てていない。

 特にミランでは、ブラジルからやってきた若きカカをサポートした。

イタリア屈指の名門で攻撃のタクトをふるう恍惚と、同時に襲いかかる不安・外圧に対する心構えなどを教示したという。

【カカは今でもリスペクト】

 長くレギュラーの座に就いていた者は、ベンチウォーマーというポジションには耐えられない。監督に楯突いたり、メディアを通じてクラブの内情をさらしたり、不満分子へと身を落とす。

 ところがルイ・コスタは、カカを丁寧にフォローした。自らの序列低下を環境のせいにしない潔さ......人間力の成せる業(わざ)と言うしかない。

「感謝してもしきれないほど世話になった」

 カカは今でも、ルイ・コスタをリスペクトしている。

 カカは307試合・104得点・81アシスト。ルイ・コスタは192試合・11得点・45アシスト。ミラン在籍時のデータでは大差をつけられているものの、多くのミラニスタがポルトガルの巨匠を愛した理由は、クラブのためにキャリアを捧げた自己犠牲に尽きる。

 2008年に現役を退いたあと、ルイ・コスタはプロキャリアのスタート地点だったベンフィカの会長職を2021年10月から務めている。前任のルイス・フィリペ・ヴィエイラが背任、加重詐欺、脱税、捏造、マネーロンダリングなどの容疑で逮捕されたあとだけに、心労も察するに余りある。

 ただ、ルイ・コスタは周囲に気を配れる男だ。

このタイプがトップに位置する組織は安定し、現場からすればこれほど心強いことはない。

 今シーズンのベンフィカは、現在27節を終了して19勝8分無敗。そう、まだ一度も負けていない。残り7試合という状況をふまえると、首位FCポルトとの7ポイント差を逆転するのは難しいものの、あきらめるのは早すぎる。3シーズンぶり39回目のポルトガル1部リーグ優勝は、是が非でも手に入れたいタイトルだ。

 そしていつの日か、ルイ・コスタのあとを継げるような、華麗かつテクニカルなゲームメーカーを育ててほしい。アスリート化する一方の近代フットボールに楔(くさび)を打つような、芸術家を待望するファンも少なくはないだろう。

 運動量や走力なども含めたプレー強度を軸に選手選考するだけでは、フットボールの魅力がますます損なわれていく。ルイ・コスタは、立ち居振る舞いのすべてが美しかった。

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