ドイツ、スペイン、ブラジルに続き、今回はイングランドに勝利した日本。しかも、それが聖地ウェンブリーでの試合だったことを考えれば、親善試合とはいえ、日本サッカーの歴史にまた新たな1ページが加えられたと言っていい。

サッカー日本代表がイングランド戦で見せた守備戦術 ワールドカ...の画像はこちら >>
 同時に、6月に控えた北中米W杯を最大のターゲットとする選手、監督、コーチングスタッフにとっては、とりわけメンタル的な部分で大きな収穫を手にすることとなった。

 以前は強豪にチャレンジする立場だったチームは、この約4年間で、W杯優勝候補と"対等"に近いマインドセットで対峙できるチームに進化した。おそらく、優勝候補たちの日本を見る目も変化したはずだ。

 もちろん、勝負はその時々で白星もあれば黒星もある。しかし、そういった内面的な変化は、日本サッカー界全体が大きく進歩を遂げたことを意味する。これまで積み重ねてきた金星における最大の価値は、そこにあるだろう。

 一方、その大きな成果とは別に、このイングランド戦をW杯本番に向けた強化試合として振り返ると、また違ったものも見えてくる。そのポイントを見落とさないためにも、客観的に日本の戦い方やピッチ上で起きていた現象などをあらためて確認しておきたい。

【アタッカーがWBのシステムは強豪に機能したか】

 最大の焦点は、両ウイングバック(WB)にアタッカーを配置する3-4-2-1という基本システムが、強豪相手にどこまで機能したか、である。それは、昨年9月からスタートした強化試合におけるテーマであり、W杯本番における戦い方の方向性に大きく影響する重要な要素でもある。

 果たして、この試合を終えた日本はその部分においてどのような収穫と課題を得たのか。

 スコットランド戦から中2日で行なわれたこの試合に照準を合わせていた森保一監督は、予想どおり今シリーズにおけるベストメンバーをチョイスし、両WBの右に堂安律、左に中村敬斗というふたりのアタッカーを配置する3-4-2-1を採用。この両WBの人選は、昨年11月のガーナ戦以来、3試合ぶりのことになる。

 そのガーナ戦では、日本のハイプレスと奪ってからの縦に速い攻撃が機能した一方、ガーナの攻撃を受ける機会が少なかったこともあり、自陣で5バック化した時の守備の課題を確認できずに終わっていた。同じかたちで臨んだ昨年10月のブラジル戦の前半にその問題点が露呈した経緯があるだけに、個々の能力では確実に日本を上回るイングランドとの一戦は、その修正具合をチェックする絶好の機会と見られた。

 対するイングランドのトーマス・トゥヘル監督は、1トップにフィル・フォーデン、その下にコール・パーマーを起用。ふたりの攻撃的MFを前線中央に配置し、即興的なゼロトップ戦術で日本戦に臨んだ。主力のデクラン・ライスやブカヨ・サカら8人が負傷離脱したうえ、絶対的エースのハリー・ケインが練習中の負傷でメンバー外となったことを考えると、ある意味で苦肉の策とも言えた。

【ミドルゾーンでの守備を機能させた日本】

 試合は、スコットランド戦同様、日本がこれまで通りの方法で4-2-3-1の相手に対して前からプレスを仕掛けようとした。しかし、開始早々から相手のGKジョーダン・ピックフォードがふたりのセンターバック(CB)の間に出てボールをキープ。しかも足裏でボールを保持するため、ふたりのCBにプレスをかけたい伊東純也、三笘薫の2シャドーは守備の方向づけさえもできず、正面を向いたままピタッと足が止まってしまった。

 これにより、日本の前からのプレスを無力化したイングランドはビルドアップに苦しむことなく、ボールを保持しながら主導権を握り続けた。加えて、前からの守備時はパーマーと前に出たボランチのコビー・メイヌーが日本のダブルボランチを消し、フォーデンがGK鈴木彩艶にプレスしながらサイドに方向づけ。日本の前進ルートをサイドに限定した。

 すると、中央を塞がれた日本の前進ルートは、3バックの両脇を務める渡辺剛か伊藤洋輝の縦方向へのパスか、ボールキャリーのみに。結果的に、蹴ったボールを回収されてイングランドにボールを保持されるという戦況が続いた。

 ただし、前からのプレスがハマらない日本は、次のフェーズとも言えるミドルゾーンでの守備を機能させた。相手がゼロトップだったため、日本の最終ラインは背後を気にすることなく前向きの守備で高い位置をキープできたのも、コンパクトさを維持した日本のミドルプレスが機能した要因のひとつとなっていた。

 前半23分、中盤でボールを保持するパーマーの背後から迫った三笘がボールを奪取。パーマーの油断を突くクレバーな守備によって中央でのカウンターを発動させると、左の中村を経由させてから自ら仕留めることに成功した。ちなみに、これがこの試合における日本の初めてのシュートだった。

 効率よく1点をリードしたあとも、日本はボールを握れないなかでカウンターから3本のシュートを放っているが、試合の構図自体は変わらなかった。

 結局、前半に日本が記録したシュートは4本で、CKの流れから堂安が放ったシュートを除く3本は、いずれもカウンターによるもの。したがって、マイボールになってからシュートまでにかかった時間も11秒、2秒、7秒。敵陣でのくさびの縦パスは1本、サイドからのクロスも3本のみと、昨年9月の強化試合から顕著になった攻撃の傾向は継続された。

 ただ、DFラインの背後を狙う動きがほとんどなかったイングランドも、ボールを保持して主導権を握ったものの、34分のエリオット・アンダーソンのバーを直撃したシュート以外に惜しいシーンを作れず。ボール支配率69%(Sofascore調べ)を記録するなかで、ケイン不在時の課題を残した。

【強豪相手に主導権を握るのは厳しい状況】

 両チームが前半と同じメンバーでスタートした後半も、基本的な構図は変わらなかった。

イングランドは両サイドバックが前半よりも高く開いた位置に立つという変化はあったが、ボールを保持しながらも決定機には至らず。逆に日本は、後半立ち上がりにカウンターから2度のチャンスを作っている。

 ゼロトップが不発に終わったトゥヘル監督は、59分の段階で4枚代え。本職のドミニク・ソランケを起用して谷口彰悟の周辺でプレーさせることで多少の深みをとったが、基本的には戦術的というよりも、各選手のプレータイムを管理することに重点を置いた選手交代だった。その後、71分に2枚、83分にCBのふたりを代えて迫力満点のパワープレーで日本ゴールを脅かしたが、最後まで得点を奪えずに終わっている。

 こうして歴史的勝利を飾った日本だが、W杯本番を見据えた強化試合としては、収穫と課題を見ることができた。

 収穫は、前からのプレスがハマらない時のミドルゾーンの守備と、そこからのカウンターアタックの精度だろう。できればハイプレスからのショートカウンターが理想だろうが、強豪との試合でそれができない場合の戦い方としては、一定の手応えを得たはずだ。

 ただし、今回は相手がゼロトップという特殊な戦術だったことを考慮すれば、深みをとられた試合でどこまで最終ラインを高く保てるかは未知数。その意味では、自陣の深い位置で5バック化した時に、両WBを務めるアタッカーの高さを含めた守備のディテールに太鼓判を押す状況にはないと言えるだろう。

 また、主導権を握るという部分においては、まだW杯で上位を狙う強豪との対戦では厳しい状況にあることもはっきりした。これは残された時間で簡単に解決できる問題ではないので、本番では理想と現実のどちらで割りきるのか、指揮官の判断に委ねられる。

 いずれにしても、このイングランド戦でW杯本番の戦い方はほぼ固まった。よほどのことがない限り、前回大会のような本番目前の方針転換はないだろう。

 その前回大会では、主導権を握られるなかで強豪に逆転勝利を飾って16強に進出したが、この4年間、日本は主導権を握りながら勝ち上がることを目標としてきた。果たして、今回は前回よりも一歩前に踏み出したスタイルで目標達成を目指すのか。それとも、再びリアクションサッカー主体で目の前の勝利を目指すのか。

 W杯本番で森保監督がどのような選択をするのか、要注目だ。

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