『スターズ・オン・アイス2026』現地レポート前編

 4月3日、大阪で開幕した『スターズ・オン・アイス ジャパンツアー2026』では、後半の冒頭にひとつの見せ場がある。ミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケート団体戦での銀メダル獲得の歓喜を数分間に凝縮しているのだ。

 自身もミラノ五輪で団体の女子ショートプログラム(SP)、フリーに出場した坂本花織は、以下のように説明していた。

「主催者の方に『特別なグループナンバーをやりたいなと思っていて......』と言われ、聞いたら、『団体の銀メダルを再現する』って。すごく素敵なこと、考えるじゃん! もう一度、あの時を再現して、みんなで感動を共有しようと作りました」

 それぞれのファンの脳内再生とリンクの再現演技がシンクロするぜいたくな時間だ。

「ミラノの感動をもう一度」坂本花織、りくりゅう、鍵山優真らの...の画像はこちら >>

【五輪の熱狂、再び】

 すでに現役引退を表明している坂本がMCとなって、団体をともに戦った同志たちをリンクに呼び入れる。そこでみんなが氷上に椅子を持ち出し、座りながら演技をするスケーターに声援を送った。これはミラノ五輪でリンクサイドにあった選手の応援席を再現していた。各スケーターはそれぞれのプログラム曲の終盤からフィニッシュポーズまでを滑った。

 一番手に滑ったのは、団体で男子SPに出場した鍵山優真だった。ピアノとギターに合わせて鋭く、リズミカルに踊る。仲間と一緒に喜び合う様子は、本番さながら。アメリカのイリア・マリニンも破った演技の熱狂がよみがえった。

 二番手はアイスダンスの「うたまさ」(吉田唄菜・森田真沙也)で、大舞台にもの怖じしないおおらかな演技を、大阪のリンクでも披露した。必死に勝ち獲ったポイントは貴重だったが、何より楽しそうに演技していた姿が頼もしかった。

ミラノでは坂本、鍵山が応援席でもらい泣きするほどの感動を誘ったが、この日はそこもコミカルに再現していた。

 三番手は、坂本と同じくSP、フリー両方とも滑った「りくりゅう」(三浦璃来・木原龍一)だった。どちらも1位を獲得し、坂本と並んで最大の功労者だったと言える。ここではSPの『Paint It Black』を滑った。

 そして、りくりゅうは今回の公演の大トリで、ペアで金メダルを獲得したフリー『グラディエーター』を滑っている。これは公演のハイライトのひとつだろう。冒頭のトリプルツイストから見どころで、ラッソーリフトやスロージャンプなどで観客を世界に引き込んだ。

「今回、『グラディエーター』の短縮バージョンを披露させてもらいました。今シーズン、日本ではまだ一回しかお見せできていなかったので、短縮バージョンではありますが、お見せできてうれしかったです」(三浦)

「『グラディエーター』をたくさんのお客さんの前で披露できてよかったです。それと、3年ぶりくらいに(アイスショーで)スロージャンプを解禁しているので、試合ではないですが、ちょっと緊張しながらもうれしかった。暗い会場でのスローはケガのリスクがあって、オリンピックに向けては避けてきたんですが、やっと披露できました」(木原)

【新たなファンを"フィギュア沼"へ】

 グループナンバーの四番手には、坂本が登場している。ミラノでは、SP1位でバトンをつなぎ、フリーも1位でスケート人生を凝縮したような演技を見せた。

3月の現役最後の世界選手権でも優勝した実力者だが、チームで戦う時に際立ってたくましかった。その勇姿が大阪のリンクでも再現されていた。

「うたまさの演技を見て、りくりゅうの結果を聞いて、気持ちがたかぶって、いい緊張感で演技ができました」

 ミラノでの坂本の言葉だが、強い絆を感じられるのも異能だ。

 そして最後に滑ったのが佐藤駿だった。団体の男子フリーでみんなの思いを背負いながら、「4回転の神」と言われるマリニンと互角に渡り合った。惜しくも2位だったが、誇らしい演技にも悔し泣きする彼を仲間たちが激励する様子が印象的だった。

「このメンバーだからこそ、いいバトンを受けられました。感謝しかありません」

 団体の演技後の佐藤の言葉だが、このチームワークが日本の強さにつながっていた。その姿が多くの人の心を動かしたのだろう。結果、フィギュアスケートの新たなファンも開拓できたようだ。

 すでに『スターズ・オン・アイス』大阪公演のチケットは売り切れ。初日から6500人の超満員だった。

フィギュアスケート観戦に不慣れな家族連れもいて、手探りの様子もあったが、彼らもこれからフィギュアスケートの沼にハマっていくのかもしれない。

 その点、ミラノの団体の戦いは新時代へつなぐバトンとして象徴的だった。そのメンバーは、新しいシーズンもリンクに立つ。唯一、坂本は偉大な記録と記憶とともに競技生活に終止符を打つことになった。

「(引退の)実感はまだないです。強いて言えば、(プログラムの)振り付けの予定がないなって思いますね。世界選手権から帰ってくる頃には、毎年、誰かに振り付けしてもらっていたので。どの時期にどこに行くのかをまったく考えないでいいので、選手じゃないんだなって」

 惜別のラストダンスはにぎやかだ。

 大阪では、時代の節目を目撃できるだろう。4月4日、5日と公演は続く。東京公演は4月10~12日に開かれる予定だ。

後編につづく

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