『スターズ・オン・アイス2026』現地レポート後編

 4月3日、大阪。フィギュアスケート界のスーパースターを集めた『スターズ・オン・アイス ジャパンツアー2026』が華やかに開幕している。

2月のミラノ・コルティナ五輪で世界中を魅了したスケーターたちが多く競演した。

 オープニングから"4回転の神"イリア・マリニンの氷上でのダンスが、目を引いた。ミラノでは個人でメダルを逃し失意を味わったが、大会中に練習を再開するなど、むしろひと回り大きくなったような印象を受ける。フィギュアスケートがさまざまな感情を表現する競技である以上、その人間性の豊かさが投影されるところがあるのだ。

 マリニンは間違いなく、これからのフィギュアスケート界を背負っていくスケーターだろう。

【「かなだい」の演技から感じる物語】

 公演前半、五輪メンバーの「うたまさ」(吉田唄菜・森田真沙也)、三浦佳生、千葉百音、「ゆなすみ」(長岡柚奈・森口澄士)が舞台を彩ったが、そこで見せ場をつくったのはレジェンドのパートだった。

 村元哉中・高橋大輔の「かなだい」は、リンクで別世界をつくっていた。ふたりはアイスダンスのカップルを結成し、3年で全日本選手権優勝という快挙をやってのけた。競技引退後は、『氷艶』や『滑走屋』といったアイスショーで表現者としてさまざまな舞台をつくっている。もはや、音を拾って滑りで体現するだけでなく、行間で物語性を感じさせるほどだ。

かなだいは一心同体で別世界をつくり上げ、金メダリストのアリサ...の画像はこちら >>

「そこまで滑り込むものなのか!?」

 共演者がそう言ってため息をつくほど滑り込むことで、ふたりはひとつの境地に達しているのだろう。腕の振り、ステップの踏み方、顔の動かし方、呼吸まですべてが一心同体だった。

 それはアイスダンスの基本だが、競技用プログラムではないことによってより自由で、お芝居を見ているような独特の表現も入る。

リフトも自然で、観客が各自の物語を感じられるようなプログラムだ。

 そして前半のトリに、荒川静香が登場した。観客には初めてのアイスショーという人も多かったようで、イナバウアーに大興奮。2006年トリノ五輪の金メダルの記憶がよみがえった。

 公演の後半には、ミラノ・コルティナ五輪女子シングルで銅メダルを勝ち獲った17歳の新鋭、中井亜美が黒を基調に赤が入ったドレスで登場している。

「リンクのアイドル」

 場内のアナウンスで中井はそう紹介されていたが、五輪を境に人生が劇的に変わったひとりだろう。フィギュアスケート界ではもともと将来を嘱望される存在だったが、瞬く間に全国区の知名度になった。仕草や動きに可憐さが漂い、目を離させない。時代の波に乗って台頭したアイドルと言える。

 ただ、中井のかわいらしさは一面に過ぎない。競技者としては、大胆不敵。勝負を引き寄せる力を持っている。

「今までの試合よりも緊張がなくて、いつもどおりの自分というか、いつもの感覚で挑めました」

 初めての五輪、ショートプログラムで首位に立ったあと、彼女はそう言ってのけている。その図太さのおかげでフリーもミスを最小限にして、メダルを勝ち獲ったのだ。

【アリサ・リュウは「ドギマギしちゃう」】

 そしてショーの終盤には、ミラノ五輪で金メダリストになったアメリカのアリサ・リュウが登場した。

 リュウはとにかく滑ることを楽しんでいる。いや、スケート人生を楽しんでいる、というほうが正しいか。公演後の記者会見、彼女は壇上から大勢の報道陣を見渡し、ブラックとゴールドの縞(しま)模様の髪の毛を揺らしながら、「ドギマギしちゃう。写真撮っていい?」といたずらっぽく体を弾ませた。スマートフォンを報道陣に向かってかざすと、「Smile,Guys!!(笑って、みんな)」と撮影し、奔放な笑みを浮かべた。

「このツアーに参加できて幸せだし、興奮しています!」

 リュウは明るい声で言っている。

「日本に来るのは7回目です。日本に来るの、大好き! 今回、グループナンバーも気に入っています」

 公演の最後、彼女は積極的にファンに近づき、ハイタッチしていた。サービス精神も旺盛だった。

10代で天才少女と騒がれながら、一度引退して復帰した彼女は達観している。

「少しおかしく聞こえるかもしれませんが、オリンピックで金メダルを獲るのは、私にとってゴールではありませんでした。私のゴールは、できるだけたくさんのプログラムを作って、たくさんのスケーターとつながることです。ただ、オリンピックで優勝したことによって、いろんな機会に巡り合うことができました。たとえば、映画監督と話せたのはうれしい経験で......」

 アリサは解き放たれていたことによって、極限の勝負に強かったのかもしれない。ミラノでも大阪でも、どこでも気負いがない。それはスケーターとしては大きなアドバンテージだ。

「勝つためだけに何かをするということを私はしません。私自身の好奇心を満足させたいんです。そんな自分の演技を大勢のファンに見せたい!」

 彼女は五輪前にそう語っていたが、まさに有言実行だった。

 世界中のトップスケーターが集ったリンクは、祝祭の様相を呈している。大阪公演は5日まで。

4月10日からは、東京辰巳アイスアリーナで3日間、東京公演が行なわれる。

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