4月4日、東京は一面、曇り空だった。時折、耐えきれなくなったように、黒い雲が地面に雨粒を落としていた。

外に広がっていた風景は、昼間なのに光を遮られて暗かった。

 しかし、劇場版『Ice Brave 新横浜 Special Edition』応援上映の舞台挨拶に立った宇野昌磨は、とても晴れやかな顔を見せ、いつもと変わらずマイペースだった。

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「伸び伸びとやれていますし、見ての通り伸び伸びとできています」

 宇野が飄々として言うと、会場は温かい拍手に包まれた。観客は、いろんな色のペンライトを振って、必死に彼へ向かってかざす。同時に眩しいライトも当たって、壇上の主役はたくさんの光を集めていた。 

「Ice Braveも第3弾になるんですが......自分は"挑戦し続ける"っていうのをモットーでやってきました。それは現役時代からですが、ショーでは"皆さんが想像する以上の挑戦を"と楽しんでいただけるように工夫をしてきました。その点は、『Ice Brave -A TURNING SEASON-』も大本は変わりません。皆さんに楽しんでもらうために、僕は挑戦し続けるし、僕以外のメンバーにも挑戦してもらうことになると思います」

 宇野は言ったが、現役時代から不屈の姿勢を見せてきた。逆境を越えた先で、何かをつかみ取るようだった。本来は歩くのもつらい状況でリンクに立って、全日本選手権で優勝を勝ち取ったこともあったほどだ。

宇野昌磨がミラノ五輪を見てあらためて思ったこと スポーツとしてのフィギュアスケートの魅力とは

 アイスショー『Ice Brave』でも、アイスダンスは暗中模索の新たな挑戦だったと言えるだろう。

宇野は荒々しい風貌で、目を血走らせるタイプではない。しかしやっている挑戦は、それ以上にタフだ。

「座長ということで、最初は"自分が引っ張っていかないといけない""自分が言わないと始まらない"って思いはあったんです。でも、今は何も言うことなくて、自分も一員で毎日楽しく練習させてもらっている感じです。初めは気を張っていたんですけど、やっぱり僕たちが楽しいと思えるか。それで、皆さんにも楽しんで、驚いて、感動してもらえる。大切なことは、チームメンバーの仲がいいってことですね」

 宇野は、まるで少年漫画の主人公のようなことを言う。 

 彼の言葉選びの面白さは、Xでの人気爆発でも明らかになっている。ミラノ・コルティナ五輪では、「4回転の神」イリア・マリニンが信じられないような失敗の連続でメダルを逃したときのポストが話題になった。

オリンピックには魔物がいるとよく言われるので、人々はそろそろゾルトラークを覚えるべきだと思う」

「ゾルトラーク」とは人気漫画『葬送のフリーレン』に出てくる魔法。もとは魔族が人間に対抗するためにつくったが、魔法使いが魔族を倒すための攻撃呪文に昇華させた。

「あのポストは深く考えていなかったんです。

僕は(オリンピックで)魔物と対面する機会はなかったし、みんなが魔物のどんなものを指しているかわからないですけどね。SNSでも発信しているように、僕は"試合期間はゲームができるからラッキー"ってくらいに思っていましたから。"2週間も拘束されちゃって、めっちゃゲームできるじゃん!!"って」

 宇野はそう言っておどけたが、それは怠惰さでも、図太さでもないだろう。スケートにはどこまでこだわっても、勝負に執着はなく、「練習以上のものは試合ではできない」と悟った境地か。あるいは、それこそがゾルトラークと同義かもしれない。

 その精神は、プロのスケーターとなってからも受け継がれているが、変化もあったという。 

「前よりもスケートを見る機会は多くなって、それは現役引退したからこそ、かもしれません。先輩方にも『引退してからの方がスケートを頑張らないといけない』と言われていましたけど......現役のときは、時間があればゲームできてラッキーでしたが、今は自分がスケートすることも、スケート以外の仕事をすることも、自分の時間だけでなく、みんなの時間を使って成り立っていることで、より責任感は出てきたというか。現役のときだったら、朝一の練習で『今日は気分が乗らないな』ってありましたけど、今はそういう考えにならない。『やれ』って言われてやっているわけでなく、やりたいからやっている。こういうことをできるようになりたい、という気持ちが自然と湧いてくるんですよ」

【表現者として、同志たちへの想い】

 宇野は野心的にスケートに取り組んでいる。そこでインタビューの最後に聞いた。

 

――ミラノ・コルティナオリンピックでは、現役を共に戦った同志たちも奮闘していましたが、表現者として何か採り入れたいものはありましたか? 

「ミラノオリンピックは観ていましたよ。スポーツとしてフィギュアスケートはあらためて面白いなって。やっている側だったときは、文句ばっかり思っていたんですけど(笑)。いざ見る側に立つと『オモロ!』って。ひとりでリンクに立って、ああいう場で緊張しやすいじゃないですか? だからこそ、見ている方もドキドキして、やっている側は嫌でも、見る側は面白い設計になっているなって思いました。あとはミラノオリンピックでスケートが注目されて、今後、どうなっていくのか楽しみだなって......」

――フィギュア団体やりくりゅうなどの盛り上がりで、新たなファンが付いたようです。『Ice Brave -A TURNING SEASON-』でも追い風になりそうですね?

「そんな盛り上がりがあるなら、利用できるものは利用していかないと(笑)」 

 宇野はそう言って悪戯っぽく笑って、茶色だが金色にも見える髪をかき上げた。その横顔に撮影のためのライトが照らされる。ポーズのために足を跳ね上げ、ファインダーに向かって明るい表情を作った。 

 そうして映し出される姿に、眩さを感じる人が大勢いるのだろう。 

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【プロフィール】
宇野昌磨 うの・しょうま/プロフィギュアスケーター。1997年12月17日、愛知県生まれ。

主な成績は全日本選手権優勝6度、世界選手権連覇、2018年平昌五輪銀メダル、2022年北京五輪銅メダルなど。2024年に現役引退し、現在はアイスショー出演などプロスケーターとして活躍している。今年、2025年に初めてプロデュースしたアイスショー『Ice Brave』が映画化。7月31日より開催される、第3弾『Ice Brave -A TURNING SEASON-』が発表された。

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