陽が西へと傾いた木曜夕刻のハンガロリンクで、アストンマーティンのピットガレージだけが煌々と明かりを放ち、懸命の作業が続けられていた。

 夜間作業禁止時間が始まる19時30分を過ぎて、他チームのスタッフたちがピットレーンをあとにするなか、アストンマーティンは例外枠を使って作業を続けていた。

 すべてのチームが4日前のスパ・フランコルシャンからそのままマシンを輸送してきたのに対し、アストンマーティンだけはスパで走らせたのとは違う、まっさらな2台をイギリスのファクトリーから持ち込んできた。

 3月から待ち続けてきた、待望のアップデートの投入だ。

【F1】アロンソ、待望のアップデート投入にもいたって冷静 「...の画像はこちら >>
「昨日(水曜)ガレージは空だったが、今日は明日の朝までに2台のマシンを準備できるよう、作業を進めているところだ。明日(金曜)の朝に間に合わせるのが我々の計画。それに沿って作業を進めているし、それができると確信しているよ」

 アストンマーティンの現場を取り仕切るチーフトラックサイドオフィサー(CTO)のマイク・クラックは、本来なら水曜のうちにピットガレージで済ませておく基本的な整備作業が1日遅れで進んでいる状況だと説明した。

 スパで使われたパワーユニットをシルバーストンのファクトリーへ持ち帰って新造モノコックに組みつけ、ブダペストへ向けて送り出したのが火曜の夜。水曜の夜から木曜にかけてモノコックやパーツが順次ハンガロリンクに到着し、最終的な組み立て作業や整備作業が行なわれるという流れだ。

 かなりタイトなスケジュールでの投入であり、計画しているアップデートのうち、どこまでが間に合うのか最後までわからない状況だった。だが、ホンダとしても最大限の協力を惜しまなかった。

「けっこうタイトなスケジュールでしたので、確実に2台のクルマをここに持って来られるよう、入念に準備を進めてきました。

 パワーユニットをどのタイミングでどこに持っていき、ここで一緒にどのような作業をするのか。そこで確認すべきことは何か。

今日もファイヤーアップなどいろいろな作業がありますが、そのなかでどのような手順で確認していくのか。そういったことを、ずっと会話しながら詰めてきました。

 彼らもまだ、車体のセットアップ作業などが残っています。そこに時間をかけられるよう、我々の確認作業をできるだけ早く終わらせ、FP1で走り出す時にマシンの状態を少しでもよくするにはどうすればいいか、ということをずっと話し合っています」

 折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)はそう語る。

【2.1秒差を縮めるアップデートは......】

 今回は車体側のみのアップデート投入ながら、アストンマーティンとホンダがチーム一丸となって実現にこぎ着けた。チームが一致団結して最大限の結果を引き出そうとしていることこそ、今回のアップデート投入の大きな特徴だった。

 開幕前のシェイクダウンから大きくつまずき、出遅れてしまったAMR26だが、トップから4秒の遅れを一気に取り戻そうというわけではない。今回の大型アップデートで目指しているのは、AMR26が抱えている大きな問題を根本的に改善するための大改造に着手することだ。

「今回のアップデートの主眼は、大幅な空力性能向上と軽量化だ。空力の詳細については空力エンジニアに聞くべきだと思うが、これまでとは異なる方向性へ進むことになると理解している」(クラックCTO)

 チームもドライバーも、今回のアップデートで何秒速くなるとか、何位を目指すといった具体的な目標は口にしない。

 それだけ簡単なチャレンジではない、ということがわかっているからだ。

「(アップデート効果の最優先は)とにかくグリップが増えること。これまでよりも格段にグリップレベルが上がってくれればと期待しているし、それがラップタイム向上につながってくれることを願っているよ。

 明日走れば、もっとハッキリしたことがわかると思う。どのくらいラップタイムが速くなるか、何位くらいになれるか、ポイントが獲れるか、なんて走る前に予想するのは難しいよ。いくつ順位を上げられるだけのゲインがあるか、予測するのは困難だ」(ランス・ストロール)

「今は何とも言えないし、数字や順位のこともあまり考えていない。アップデートが入ったからといって、僕らのアプローチの仕方に何も変わりはない。これまでも自分たちの手にあるもので、すべてを引き出そうと努めてきた。

 シルバーストン(第9戦イギリスGP)やスパ・フランコルシャン(第10戦ベルギーGP)など僕らにとって厳しいサーキットでは、前のドライバー(キャデラック)との差は2.1秒もあったんだ。これだけの差をラップタイムで短縮できるアップデートパッケージなんて、世界中のどこを探してもないよ。

 つまり、今回のアップデートパッケージをスパで走らせたとしても、順位は変わらなかっただろう。だけど、ブダペスト(第11戦ハンガリーGP)はパワーがそれほど重要ではないから、もう少し僕らに優しいサーキットであることを願っている」(フェルナンド・アロンソ)

【圧倒的な単独最下位から脱出なるか】

 これまで抱えてきた問題が、一度にすべて解決するわけではない。しかし重要なのは、これまで彼らが進めてきた開発の方向性が正しいかどうかを確認することだ。それがシーズン後半戦、さらには2027年につながるのだと、アロンソは語る。

「いずれにしても、今週末はマシンが正しい方向に向かっているか、そしてようやくマシンのパフォーマンスを引き出せるか、それを見極めることに関心があるんだ」

 今回投入したアップデートによって、少なくともシミュレーション上ではダウンフォースが大幅に増大し、コーナリングスピードも上がっている。

 そうなれば、ドライバーは自信を持ってスロットルペダルを踏めるようになり、パワーユニットの使い方も、燃焼のセッティングも、エネルギーマネジメントも従来と違ってくる。

「コーナリングスピードが速くなれば、使うエンジン回転領域も違ってきますし、エネルギーマネジメントにも大きく影響します。ドライバーのスロットル操作も過去数戦とは大きく変わり、より早く踏めるようになりますので、ドライバビリティにも影響します。ですので、FP1やFP2は、新しい車体のコーナリングスピードに適応していくために、かなり忙しいセッションになると思います」(ホンダ折原GM)

 新しいボディワークによって内部の気流も大きく変わるため、冷却面の確認もパワーユニットにとって重要な項目のひとつになる。

 ホンダ側は、車体側のデータ収集を最大化できるよう、そうした確認作業にも配慮していくという。

 車体側も、アップデートされたマシンパッケージをすぐに理解し、その性能を100%引き出すのが容易ではないことはわかっている。金曜の走り始めの時点で何%まで引き出せるのか。レース週末を通してどこまで引き上げ、100%に近づけることができるのか。それによって、結果も違ってくる。

 そのため、具体的な順位目標を語ることは難しい。ただ、少なくともこれまでのような圧倒的な単独最下位という状況から脱し、2秒前を走っていたキャデラックと戦えるようにすることが、最初の目標だ。

【ホンダと一致団結して作り上げた】

 クラックCTOは言う。

「我々がここにいるのは、レースをするためだ。

しかし、ここ数戦はレースができていなかった。だからこそ、ここでレースに戻る必要がある。

 これだけ競争が激しいなかで、我々がどのあたりで戦えるのかはまだわからないし、予測するのも難しい。しかし重要なのは、我々がこれまで加わることのできなかったレースに戻ることだ。何かを争うことができれば、レースに戻ってこられたと言えるだろう。また、マシンの特性を半分でも、3分の1でも理解できれば、いい週末だったと言えるだろう」

 過度な期待はせず、アストンマーティンとホンダが一致団結して作り上げ、今週末も互いに協力しながら最大限の性能を引き出そうとしているこのアップデートパッケージの行方を見守りたい。

 見るべきは結果ではなく、方向性だ。目の前の結果ではなく、その延長線上に明るい光が見えてくるかどうかだ。

米家峰起●取材・文 text by Mineoki Yoneya

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