この記事をまとめると
■クルマのドアの開閉のために装着されるドアハンドル



■時代とともにその形状は変化している



■そこで今回はドアハンドルの変遷を振り返る



フォードT型にはレバータイプが採用されていた

クルマのドアを開ける時に、手で引っぱる部分がドアハンドルもしくはドアノブですね。いつも何気なく手を出して開け閉めしているかもしれませんが、じつはクルマのドアハンドルにはさまざまな変遷の歴史があるのです。



世界最古の量産自動車メーカーであるフランスのプジョーが、最初に製作したガソリンエンジン車「クアドリシクル」には、まだドアがありませんでした。

1890年代のことです。その後、ドアがついたモデルが確認できるのは1900年代頃からで、棒状の突起物を握って回すレバータイプが多く見受けられます。これは住宅のドアのアンティークパーツなどを見ても、ゴールドで掘り模様があしらわれたようなレバータイプのドアハンドルが多いので、イメージしやすいのではないでしょうか。史上初の量産車とされているアメリカのフォードT型も同様にレバータイプが採用されています。



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その後いつ、別のドアハンドルが登場するようになったのか。これを確認するのは至難の業ではあるのですが、1930年代のフォルクスワーゲン・タイプ1のルーツとなるモデル、VW3を見ると、レバータイプではなく、グリップタイプが採用されています。そして1950年前後のプジョー車を見ても、同じようにグリップタイプとなっており、欧州で主流となっていったことが伺えます。



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VW3のエクステリア



では国産車はどうかというと、1930年代のダットサンはまだ回すタイプのレバー式。1950年代に入り、グリップタイプに変わっていることがわかります。この頃のプリンス・スカイラインもグリップタイプでしたが、そこから1970年代になると、ホンダ・シビックやトヨタ・パブリカ、スバル・レオーネといったモデルたちが続々と、フラップタイプのドアハンドルで登場。フラップタイプというのは、飛行機の主翼後端にある上下に動く部分をフラップというところからきた名前で、フラップの下から手のひらを上に向けた状態で手を差し込み、フラップをつかんで手前に引くことでドアを開けるものです。



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ホンダ・シビック(初代)のエクステリア



このフラップタイプが一気に主流となった理由としては、まず構造が簡単なこと、コストが安価に済むこと、出っ張りがなく見た目にもカッコいいこと。

デザインの自由度も高く、色やカタチがよりそのモデルのイメージに合わせられるため、ボディラインを邪魔しない、またはあえて特徴的なデザインにすることもできました。この流れは1990年代に入っても続き、トヨタならクラウンマジェスタ、ランクル、日産ならシーマ、スカイラインといった高級車も採用。クラウン、スカイラインを例にとれば、2003年に登場したスカイラインクーペ、ゼロクラウンでグリップタイプに切り替わっています。



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トヨタ・クラウン(12代目)のエクステリア



最近ではドアハンドルがボディに格納されるクルマも!

さらにこの間の輸入車を見てみると、やはりフラップ派が主流。BMW、アウディ、プジョーやジャガーと、フラッグシップモデルにもフラップタイプが採用されていることがわかります。ただ、それに真っ向から対抗してグリップタイプを貫いていたのが、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンでした。以前、メルセデス・ベンツ本国の開発者にその理由を聞いたことがありますが、まずは使い勝手が良いこと。大きな手でも小さな手でも、指が長い人も短い人も、手袋をしている手でも握りやすく、グリップの上からも下からも握ることができます。フラップだと指の力だけで開けることになりますが、グリップなら握って手のひら全体の力が入るため、少ない力で開けられるのもメリットだといいます。いわゆる、ユニバーサルデザインの考え方です。



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メルセデス・ベンツCクラス(2代目)のエクステリア



そして2つ目は安全性を最優先していること。フォルクスワーゲンに聞いたところ、万が一事故が起こってしまった際に、衝撃でドアが変形したり、ロックが解除できなくなっても、ドアハンドルにロープなどを巻き付けるなどして力を加えやすく、車内に閉じ込められた人を救助しやすいという理由があるのです。



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フォルクスワーゲン・ゴルフ(5代目)のエクステリア



また、3つ目の理由としてはスマートキーとの相性がいいことも挙げられるでしょう。キーをポケットやバッグのなかに携帯していれば、手でグリップを握るだけでロック解除ができ、そのままドアが開けられるのですが、フラップタイプの場合には別でスイッチを備えなければならないことが多いため、近年では国産車にも急速にグリップタイプが増えてきたという背景があります。



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ドアノブのリモコンキーを近づけているイメージ写真



ただし、近い将来にはドアハンドルそのものがなくなるのでは、とも言われています。それが、テスラやジャガーE-PACE、メルセデス・ベンツSクラスなどが採用している、ドアハンドルレスタイプ。一見するとボディのどこにもドアハンドルがないのですが、キーを持って車両に近づくと、シャキッとドアハンドルが飛び出してきます。そしてドアを閉めて走り出したり、降りてロックをすると再びドアハンドルが格納されるという機構です。見た目のスマートさはもちろん、空気抵抗や防犯の観点からも優れる新世代のドアハンドルとなっています。



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メルセデス・ベンツSクラスのエクステリア



また過去には、どうやってドアを開けるのかまったくわからないクルマも少なからず存在しました。いまでも都市伝説のようになっているのは、イギリスのコーチビルダー的なスポーツカーメーカー、TVRから登場したタスカン・スピードシックス。ドアには何もなく、まだスマートキーなんてない時代に、いったいどうやって開ければいいのかと探し回る人多数。正解は、サイドミラーの下にあるスイッチを押すと開く仕組みになっていたのでした。



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TVRタスカン・スピードシックスのエクステリア



国産車では、トヨタC-HRのリヤドアのドアハンドルも個性的。

デザインを崩したくないという理由から、Cピラーに近く高い位置に小さなフラップタイプのドアハンドルが設置されています。フロントドアの位置からすると、かなり目線が高いところにあるため、最初は気が付かない人も多いのです。「開けにくい」というクレームもけっこうあったのだとか。



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トヨタC-HRのリヤビュー



そして、そのC-HRの反省を踏まえて登場したのが、新型プリウスのリアドアのドアハンドルです。同じくデザイン上の理由から、Cピラーに埋め込まれるように設置されたフラップタイプなのですが、じつはこれは機械的なハンドルではなく、スイッチ操作による電動モーターでロック解除をしてドアを開く構造が採用されています。これは、ドアハンドルを高い位置にして、なおかつスペースの関係で縦型にしなければならなかったため、開けにくさを解決するための機構。これにより、指の力を入れなくてもカチッと一発でドアが開くようになっています。



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トヨタ・プリウス(5代目)のリヤビュー



ということで、さまざまな変遷の歴史をもつドアハンドル。今後はどんな進化をげていくのか、注目です。

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