この記事をまとめると
■スーパー耐久シリーズ第4戦でFIA公認モデルのFL5型シビックタイプR TCRがデビューした■FIA公認の本格的なレーシングカーということもあって市販モデルとはまったく別物
■予選ではST-TCRクラス1位・総合10位につけ決勝でもST-TCRクラスで優勝した
FIA国際規定モデルとしてシビックタイプRがデビュー
7月29~30日、大分県日田市のオートポリスで開催されたスーパー耐久シリーズ第4戦「スーパー耐久レースinオートポリス」では、先日紹介したようにMAZDA SPIRIT RACINGが、ST-Qクラスにニューマシン「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER CNF concept」を投入。カーボンニュートラル燃料を使用したロードスターとして多くのファンの注目を集めたが、このオートポリス戦ではもう一台、ニューマシンがレースデビューを果たしていた。
その一台とは、M&K RacingがST-TCRクラスに投入した97号車「Racer HFDP CIVIC」にほかならない。
これまでも新型のFL5型シビックをベースにした競技車両はスーパー耐久で活躍しており、ホンダの社員チーム、Honda R&D Challengeが743号車「Honda R&D Challemge」をST-2クラスに投入したほか、2023年の第2戦として開催された富士24時間レースからはホンダのワークスチーム、Team HRCがST-Qクラスに271号車「CIVIC TYPE R CNF-R」で参戦してきた。

それだけにマシンとしては珍しくないが、今大会でデビューしたシビックタイプR TCRはFIAの国際規定モデルであり、国内外を含めて同モデルのデビュー戦となっていただけに、海外からの注目度も高かったに違いない。
もちろん、マシン開発を行ってきたイタリアのコンストラクター、JASモータースポーツにとっても貴重なデータ収集の場となっていたようで、JAFモータースポーツからエンジニアが帯同していた。
さて、気になるマシンはFIA公認の本格的なレーシングカーということもあって、市販モデルとはまったく別物といった印象で、前後のバンパーやフェンダー、リヤウイングを含めて専用のエクステリアを採用。

もちろん、足まわりやブレーキ、ギアボックスもレース専用の装備で、同チームでチーフエンジニアを務める菊地豊氏は、「ベース車両から引き継がれているものとしてはボディ、ルーフ、ドア、ヘッドライトユニットぐらいで、あとは専用部品です。本当に競技用のレーシングカーです」と語る。

ちなみにM&K Racingは、以前より旧型となるFK8型シビックをベースとするシビックタイプR TCRを投入してきたが、「新型シビックでは旧型モデルのパーツを流用できるものがほとんどないぐらいすべてが新設計になっています。それに、旧型で改善して欲しかったポイントがアップデートされていますね。細い部分で言えば、エアジャッキの位置が給油口のところにあってトラブルが起きていたんですけど、その位置も変わってきました」とのこと。
デビューレースでは2位に大差をつけてクラス優勝
さらに「基本的なサスペンションの構成は旧型も新型も変わらないんですけど、ジオメトリーが変わっているので素直なクルマに仕上がっているし、フロントに関しても調整幅も増えたのでセッティングの幅が広がりました。

実際、走り始めとしての印象は良く、「あまり触ってない状態でしたが、タイムも良かったし、ドライバーのフィーリングも良いので、ベース車両の素性の良さを感じますね。それに、ブリヂストンタイヤとのマッチングの良さもあるんでしょう。セッティングは安全方向に振っていたんですけど、簡単にタイムが出たな……という印象ですね」と菊地氏は好感触。
さらに、菊地氏は「もともとシビックTCRは旧型モデルのときから“コーナリングマシン”と呼ばれるほど、コーナリング性能が高いんですけど、新型ではより曲がりやすくなっていると思います。旧型ではアンダーステアに悩まされることが多かったんですけど、新型はオーバーステアを抑える方向で調整するほど反応が良い。鈴鹿やSUGO、岡山みたいなテクニカルなコースでどこまでいけるのか、走らせてみたいですね」と分析する。

一方で、菊地氏によれば不安要素もあるようで「もともとTCR車両はスプリントカーなので、サスペンションのアームが肉抜きされて軽量化されているんですけど、新型モデルではより軽量化されているので、耐久レースで使う場合、どうなるか気になる部分です」とのことだが、その部分はレース経験を重ね、データを収集することで明らかになってくるだろう。
また、同モデルのステアリングを握るドライバーも好感触で、M&K Racingで97号車、Racer HFDP CIVICを駆る三井優介選手は「旧型のノウハウを活かしながら新型は作られているので、全体的に改善されているし、次世代のモデルとして洗練されてきた印象がありますね。それに新しいクルマのシェイクダウンでは不具合があったり、乗りづらさがあったりするんですけど、乗り始めから“いいクルマだな”と感じることができました。流す程度のドライビングだったんですけど、仕上がっている感じでタイムも良かった」とインプレッション。

さらに、「これまでのFK8型モデルと比べるとFL5型はマシンのフィーリングがドライバーに伝わりやすくて、セッティングを変えれば望んだフィーリングにすぐにできるし、もともと素性の良いマシンなので、セッティングを煮詰めるとそのぶん、速くなってくれるので高いポテンシャルを秘めていると思います」と三井選手は印象を語る。
「コーナリングスピードは確実に上がっているし、乗りやすくなっているので安心して走ることができますね。それに、ブリヂストンタイヤの影響もあるのか、旧型モデルでは10周ぐらい走ると0.5秒ぐらい落ちて、もっと走ると1秒ぐらい落ちるんですけど、新型モデルはタイムが落ちないので決勝でのロングランも安定して走れると思います」と期待を寄せた三井選手。その言葉どおり、新型ベースのシビック・タイプR TCRはデビュー戦から素晴らしい走りを披露していた。

まず、29日の予選で97号車、Racer HFDP CIVICが3分54秒961(注:AドライバーとBドライバーの合算タイム)をマークし、旧型モデルの5号車「Al’ CIVIC」の4分02秒501に大差をつけてST-TCRクラスの1位、総合10位につけたほか、30日の決勝でもRacer HFDP CIVICは141周でチェッカー。132周でチェッカーを受けたAl’ CIVICを大きく引き離してST-TCRクラスで優勝したほか、総合順位でも12位に食い込むことで、デビュー戦からパフォーマンスの高さを証明した。

決勝中のベストラップを見ても、旧型の5号車、Al’ CIVICがマークした2分03秒108に対して新型の97号車、Racer HFDP CIVICは2分00秒406をマークするなど一発のタイムにおいても卓越したスプリント能力を披露。
まさにデビュー戦から素晴らしいポテンシャルを発揮しただけに、FL5型の新型モデルをベースにしたシビックタイプR TCRは世界各地のTCR規定レースで猛威を発揮するに違いない。