この記事をまとめると
■いまMT車の新車販売率はたった1%ほどと言われている■長年乗っているとギヤが入りづらくなることがある
■不具合が起きる原因と対策について解説する
普通に乗ってるはずなのにミッションが入らなくなる理由
大昔は「男たるものマニュアルミッションを使いこなせないのは恥ずかしい」なんて言われていましたが、そんな感覚は今は昔。「MTは化石」なんて言われたりしているのも耳にします。その世相を表す数字として、現在の市販車のMT(マニュアルミッション)の比率はわずか1%なんていうデータもあるようです。
そんな絶滅危惧種のMT車ですが、旧車や走り重視派の人たちにはなくてはならない存在です。そのオーナーさんの多くは永く乗られているという傾向があると思うので、MTの不具合に悩んでいる場合もあるでしょう。ここではそのマニュアルミッションの不具合の原因と対策を紹介していきたいと思います。
原因その1:操作系構成部品の摩耗
マニュアル方式のトランスミッションは、自動車全体のなかでも複雑な構造の部類で、多くの部品の組み合わせによって作動しています。ギヤなどはエンジンの力を伝える部品なので、硬い金属を熱処理でさらに硬度を上げて使われていますが、高負荷だったり、長距離の使用では摩耗も大きくなります。操作系の部品も同様に摩耗が起こりますが、こちらは「シフトが入りづらくなってきた」など、操作の確実性が失われていくので、運転に支障が現れやすいため気になっている人も少なくないでしょう。

その原因を、手元に近いところから挙げていくと、グルグルと多方向に動かされるシフトレバーの球状の部分を支える樹脂パーツの摩耗によるガタ付き/シフトレバー先端の、シフトロッドを動かす部分にはまっている樹脂のカップの摩耗によるガタ付き/シフトロッドのスライドを支えるケース部分の摩耗によるガタ付き/シフトフォークのシンクロコーンを押す部分の摩耗によるガタ付き、などになります。
このガタ付きが許容量を超えてしまうと、シフトフォークが変速用のスリーブを押す量が足りなくなって、ギヤの切り替えが出来なくなってしまうんです。

樹脂パーツについては、金属同士の接触を避けるための用途で摩耗が前提に設計されているので、比較的に交換は容易です。ただ、製造廃止して年数が経っているものは入手の問題があります。
金属の摩耗については、まず部品の交換で済むケースならそれがもっとも簡単ですが、それはそれでミッションの部品交換となると、ミッションを割る(分割する)必要があるので、時間と工賃は覚悟しないとならないでしょう。

問題は交換で済まないケースです。
シンプルな機構だが、パーツは多いので壊れる場所もその分多い
原因その2:シンクロ部分の不具合
よほど旧い車種は例外ですが、ほとんどのMTには「シンクロ機構」という、ギヤの切り替えをスムースに補助してくれる機構が備わっています。シフトチェンジのとき、例えば2速から3速に切り替える場合、加速して上がった回転を、アクセルを戻して下げる操作をおこないます。

ミッションのなかでは、高い回転でまわっているシャフトと連結されている2速ギヤに対して、スタンバっている3速ギヤは無回転となっています。その回転差の大きい状態では、3速ギヤを連結しようとしても弾かれてしまってできないため、回転を落とすことが必要なのですが、いくら回転を落としても2000~3000回転はあるので、まわっている方と止まっている方では回転差が残っています。その差を摩擦によって同期してくれるのがシンクロ機構です。

さて、そのシンクロ機構ですが、回転を落としきる前にシフト操作したり、クラッチが完全に切れる前に操作したりすると、同期しきれなくなってしまいます。雑にシフトしてしまったときに「ガガガッ」となるのを経験した人も多いと思いますが、あれがシンクロ機構のキャパを超えてしまった状態です。

あの「ガガガッ」を頻繁に起こしてしまうと、その結果、シャフトの駆動力をギヤに連結するための細かい歯を持つシンクロナイザーリングの歯が減ったり欠けたりしてしまい、同期に支障が出るようになってしまうのです。
この対策としては、まず摩耗を予防するためにシフト操作をしっかり確実に行うことです。「ガガガッ」は百害あって一利なしですのでやめましょう。

原因その3:クラッチの摩耗による操作不全
原因の3つめは、ミッション本体ではなく、クラッチの原因によるシフト操作の不具合です。クラッチが繋がっている状態では、エンジンの駆動力と後輪の抵抗の間で、シャフトやギヤには常に圧がかかっています。これは先のシンクロ機構も同様で、圧による摩擦でガッチリ噛み合っている状態では、ギヤを抜くこともままなりません。まあ、フル加速中にギヤを抜こうとする人はいないでしょうが、抜こうとしてもそうそう抜けないと思います。

一方で、クラッチは摩耗すると繋がりにくくなっていき、最終的には前に進めなくなってしまいますが、逆にクラッチペダルを踏んでクラッチを切ったつもりなのに、切れきっていない状態というのも起こり得ます。これがシフト不全の原因になる場合があるんです。

クラッチがわずかに繋がったままだと、先ほど説明した圧が残った状態なので、ギヤが抜きづらく、入れづらい状態になってしまいます。そのまま使い続けていると、先ほどのシンクロ機構の摩耗を招いてしまうのです。
では、そのクラッチが切れきらない状態はなぜ起こるのでしょう?
原因はいくつか考えられますが、まずはクラッチレリーズの作動不足です。油圧クラッチのフルードが減ったり水が混入したりすると、ペダルの操作がクラッチレリーズに伝わりきらなくなり、目一杯踏んでいるのにクラッチがちょっとしか動かない状態になります。

もうひとつの原因は、クラッチペダルの調整が間違っている場合です。これはめったに起こるケースではないと思いますが、車検整備などでクラッチペダルの調整をいじった場合に起こることも稀にあります。すぐに調整しなおしましょう。

最後に、機械的な原因ではなく、ドライバー本人のクセが原因になることもあるので書き加えておきます。単純にクラッチを十分に踏み切っていないことが原因で、常に摩擦が残った状態でシフトしていることがあります。これは、慣れたクルマとクラッチの踏み具合が違う場合、たとえば借りたクルマなどに乗り換えた直後に起こりやすいと思います。
マニュアルミッション車を長く良いコンディションで乗り続けるには、普段から丁寧できちっとした操作を心がけることがいちばん効果が高いようです。