この記事をまとめると
■かつてのクルマはキャブレターで動いていた■エンジンをかけるには「チョーク」というアナログな機能を使う必要があった
■現代のクルマではチョークと同じ機能をコンピュータで制御している
いまではほぼ絶滅! チョークってどんな機能だった?
1970年代あたりまでに作られた旧車では、エンジンへの燃料供給装置としてキャブレター(キャブ)を使っていることがほとんどだ。しかしながら、1980年代以降は電子制御によって燃料を噴射するインジェクションが主流となり、キャブのエンジンは徐々に減っていった。2000年代以降は、古い設計のまま継続生産している車両でもないかぎり、キャブを使っているモデルを見ることはなくなっていった。
それに伴い、キャブを使っている旧車のエンジンを始動させられない人も増えていったという話がある。なぜなら、キャブ車のエンジン始動には「チョークを引く」という作業がマストといえるからだ。それを知らずに、いくらセルをまわしてもエンジンはかからないことがある。
はたして「チョーク」とは何物で、何のために「引いていた」のか、あらためて整理してみよう。

ところで「チョーク」というカタカナから、学校などで使われている黒板に使う筆記用具を思い浮かべるかもしれないが、クルマのチョークとはまったく関係ない。英語の綴りでいえば黒板に使うのは「Chalk」、クルマで使うのは「Choke」と異なっている。
格闘技ファンであれば「チョークスリーパー」といって、腕で頸動脈を締める技を知っているかもしれないが、こちらはクルマで使う「チョーク」と同じ綴りを使う。「チョーク(choke)」というのは「締める」とか「ふさぐ」といった意味合いの言葉だ。
つまり、キャブの吸気経路を絞って、空気が入りづらいようにすることが「チョーク」の役割だ。細かい理由は省くが、結論的にいえば冷間時のエンジン始動では、燃料を濃い目にした混合気にする必要があるからだ。

ご存じのように、キャブというのは吸気によって燃料を吸い上げてエンジンに供給する仕組みとなっている。そのため、チョークを引いて吸気経路を細く絞ることで始動時に濃い目の混合気を作ることができるというわけだ。
もっとも、すべてのチョーク機構が吸気経路を絞っているわけではない。チョークを引くことで、燃料増量する仕組みを持つキャブも存在する。
いずれにしても、チョークを引くのはエンジン始動時だけなので、走り出す前にはチョークを戻すことも基本中の基本。戻すタイミングは、エンジンの暖機が進んでチョークを戻してもアイドリングが安定するようになったときだが、そのあたりの判断も初心者には難しいかもしれない。
いまでは機械が同じようなことをやってくれる
ちなみに、エンジンが冷えた状態で始動するときに燃料を濃い目にしないといけないのはインジェクションによるエンジンでも同様。コンピュータ制御のインジェクション車においては、始動時の燃料増量やある程度までエンジンが暖機するまでのアイドルアップなどを自動的に行うので、ドライバーが意識しなくていいだけの話だ。

振り返れば、キャブからインジェクションへ移行する過渡期においては「オートチョーク」といって、温度に応じてチョーク機能をオン/オフさせる仕組みが採用されていたこともあった。
筆者が認識している範囲でいえば、原付スクーターでは2000年代に入ってもオートチョーク機構を採用しているモデルが多かったと記憶しているが、原付スクーターもインジェクション化が進むなかで過去のメカニズムとなっていった。
また、オートチョーク機構は経年劣化をするため、古くなると交換が必要なので、ちょっと古い原付スクーターなどでのエンジン始動不良などでは疑ってみるべきなのもチョーク関連であることが多かったりする。

というわけで、チョークという機構自体は遺物的メカニズムといえるものだが、旧車好きであったり、キャブ車に乗ったりすることがあるならば、その使い方や役割を知っておくべきだろう。
逆にいえば、キャブ車に乗ることがないのであれば、チョークに関する知識を身に着けておく必要はないだろう。もっとも、前述したようにインジェクション車でもエンジン始動直後にアイドリング回転を上げるのは、かつてチョークを引いて燃料増量をしていたのと同様といえる。
チョーク機構の仕組みや使い方は知らなくとも、冷間時にエンジンをかけるときには燃料増量が必要という知識があれば、アイドルアップしている間はエンジンの暖機が済んでいないという判断ができる。このあたりに配慮して運転すれば、エンジンの寿命を延ばすことができるかもしれない。