この記事をまとめると
■ロードプライシングとは通行料金を変動させて交通量をコントロールする手法のこと■ロードプライシングはこれまでも一部路線に導入されてきた
■ETCによるリアルタイムの価格変動も可能だが料金を高くした場合は反発される
料金体系を変更して交通量をコントロールするのが狙い
近年「ロードプライシング」という言葉を見かけることが多くなった。「Road(道)」と「Pricing(値付け)」という言葉どおりに受け取ると、有料道路の通行料金設定のように思えるかもしれないが、ご存じのとおりそうではない。
通常、高速道路などの料金は道の建設費など維持整備費用をもとに計算するのが基本だ(現実的には路線別採算ではなくプール制だったりするが……)。
たとえば首都高で実施されている『環境ロードプライシング割引』という制度は、大型車や特大車に限定して、特定の路線を走ることで料金の割引を行うという制度だ。通行料割引というダイレクトに見えるコストメリットによって、事業者は道路管理者が利用してほしいと思う路線を選ぶことになる。結果として、沿道に住宅地の多い路線から主に工業地帯のなかを走る路線へ大型車・特大車を導くことで住宅街の環境向上を狙っている。

ほかにも、記憶に新しいところでいえば、東京パラリンピック・オリンピックの開催時に、首都高をスムースに走れるよう、物流を支える貨物車などを除き、昼間の料金を一律1000円増しにしたということがあった。これは渋滞を軽減するための施策だ。その成否や是非についてはさまざまな意見はあるだろうが、価格設定により交通量をコントロールするという点において、これこそが典型的なロードプライシングといえる。

現在進行形で渋滞を軽減するためのロードプライシングとして知られているのは、東京湾を横断するアクアラインによる社会実験だろう。もともとETCだけは大幅な割引料金で利用できるアクアラインだが、土日の昼間(13~20時)のみ木更津から川崎に向かう上り線の料金が割増しとなり、この時間帯の交通量を減らそうという試みがなされている。いまのところ令和6年度いっぱいまで実施される予定となっているが、もともとの期間よりも延長されていることからすると、効果的と捉えられているのだろう。

以上は、恒久的であったり、期間限定であったりするロードプライシングの例だが、今後はもっと柔軟に渋滞を軽減するためのロードプライシングが実施されることが考えられる。
通行料金を上げた場合は利用者からの反発は避けられない
たとえば渋滞具合に応じてリアルタイムに料金設定を変化させることで、ドライバーは料金の安くなっている道(≒空いている道)を走ろうという動機が生まれる。
ルートを変えたことで目的地への到着時間が大幅に伸びてしまうようでは本末転倒ではあるが、首都高をはじめとした都市高速であれば、複数のルートが選べることも少なくない。現時点では最短距離でルートを選びがちだが、リアルタイムでのロードプライシングが採用されれば、通行料金というコストを基準にする時代がやってくるかもしれない。

かなり普及しているETCという料金収受システムを使えば、リアルタイムに変動するロードプライシングは可能だろう。もっとも、どのくらいの時間単位で価格設定を変化させるのかは難しい面もある。また、料金の安いルートに交通量が集中して、そちらが渋滞しては意味がない。結果として、安い道を走るために高度なテクニックが必要になっては普及もしないし、利用者からは反発されるばかりだろう。

そもそも、ロードプライシングを使わなくとも交通量をコントロールすることは可能といえる。現状であっても、ほぼリアルタイムの交通量を考慮して渋滞を避けるようなルート検索をする機能はスマホやカーナビに採用されているからだ。渋滞を解消するための交通量コントロールとしてロードプライシングを採用するだけなく、そうしたデバイスを使うインセンティブを高め、リアルタイム交通情報の精度を上げるような施策も取るべきだと思う。