この記事をまとめると
■1960年にボルボはアマゾンのシャシーにクーペボディを架装したP1800を発売



■1972年にはP1800シリーズをワゴン化した1800SEを発売した



■ガラス1枚のリヤフードという画期的なスタイリングのシューティングブレークだった



流麗な2ドアクーペのP1800シリーズ

1960年代は、まだクルマ作りにヒトの手が重要な役割を担っていた時期です。コンピュータの助けも多少はあったでしょうが、どこか温もりのあるデザインや、メーカーごとの個性がにじみ出ているのもこの時代のよき特徴かと。ボルボが2年間だけ販売したシューティングブレイク(?)の1800ESは、まさにそんなテイストに満ちたモデルで、いまもマニア垂涎の的となっています。

名車の誉れ高いボルボP1800から派生した、ヘンテコなハッチバックワゴンをご紹介しましょう。



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1960年、ボルボはベストセラーとなったアマゾンのシャシーを使って、イタリアのカロッツェリアによるクーペボディを架装したP1800を発売しました。B18B型と呼ばれたエンジンは1800ccで、ツインキャブレター、専用カムシャフト、そして圧縮比を高めたおかげで100馬力を発生していました。



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ボルボP1800のフロントスタイリング



また、スタイリングは当初ドイツのコーチビルダー、カルマン社に依頼していたのですが、有名なVWカルマンギアの開発で多忙を極めていた彼らは、ボルボのオファーを断ることに。で、カロッツェリア・フルアにデザインを頼んだのですが、これには有名な裏話があります。



フルアを強く推薦したのは、アマゾンの先代モデルにあたるPV444の設計者、ヘルマー・ペターソンでした。で、当時のフルアでは彼の息子、ペッレ・ペターソンがデザイナーとして在籍しており、まんまとボルボの仕事をゲットしたというわけです。ちなみに、ペッレはフルアを離れたあとはヨットのデザイナーとして大成功を収めており、P1800にもどこか船のようなライン、ヨットのような精悍さが漂うといったら大げさでしょうか。



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ボルボP1800のボディサイドのモールディング



P1800はボルボの予想をはるかに上まわる売り上げを記録し、1800S、1800Eと名前を変えながらマイナーチェンジを繰り返し、最終的には4万7492台という大ヒット作に。生産期間中の変遷内容は主にエンジンチューンで、クーペの最終型となる1800EではボッシュのDジェトロ燃料噴射を備え130馬力までパワーアップ。最高速度もシリーズ史上最速の190km/h、0-100km加速9.5秒と、当時としては十分すぎるほどのパフォーマンスを発揮していたのです。



ボルボにシューティングブレークが誕生

そして1972年、P1800シリーズをワゴン化したモデル、1800ESが発売されました。

車名のEは先代の1800Eから受け継ぎ、SはスポーツでなくスウェーデンのSとされています(1800Sも同様の由来)。イギリス車が好きな方なら、ボルボの手法はリライアント・シミターに似ていること、思いつくかもしれません。



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ボルボP1800SEのリヤスタイリング



ルーフをテールエンドまで伸ばすのはワゴンの文法どおりですが、リヤフードはガラス1枚のみという画期的なもの。当初、ESのデザインはイタリア人デザイナーのセルジオ・コッジョーラとフルアのコンペとなったものの、いずれのプロポーザルも「未来的すぎる」と却下。ちなみに、フルアがデザインした「ラケーテン(ロケット)」はボルボの博物館に収蔵されています。で、結局はアマゾンなどをデザインした社内のデザイナー、ヤン・ウィルスガードによるアイディアを採用というまわりくどい結果に(笑)。



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ボルボ・ラケーテンのリヤスタイリング



また、エンジンやシャシーについても贅沢なことに1800Eとは別のセッティングが施されています。ヘッドガスケットを薄くして圧縮比を下げ、125馬力までダウンさせたものの、トルクフルで扱いやすいエンジンになったとか、ボルグワーナー製3速ATが選べるようになったとか、商品力は確実に向上していたかと。



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ボルボP1800SEのエンジン



しかしながら、1974年の導入が決まっていたアメリカの安全基準や排ガス基準に合致させるための投資をボルボはあきらめました。すでに200シリーズのローンチが決定しており、北米むけの主力はこちらに任されていたのです。また、1800シリーズはこのESのほかにコンバーチブルモデルも企画されていたようですが、これもまた上記の理由から断念せざるを得ず、代わりといっては変ですが、リソースは262Cクーペへとまわされたというわけです。



たった2年の生産ながら1800ESは8077台が出荷され、いまなおマニアの手によって元気に路上を走っているものが少なくないようです。

また、ボルボ社内でも人気があるようで、ガラスハッチが480やC30に踏襲されたのはご存じのとおりです。



人気の証しとなるのか、スウェーデンではフィスクビレン(フィッシュ・バン、要するに魚屋さんのバン)なるあだ名がつき、ドイツではシュニーヴィッチェンザルク(白雪姫の棺桶)などと呼ばれ大いに親しまれたとのこと。



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ボルボP1800SEのフロントスタイリング



2ドアクーペもなかなかのスタイルですが、1800ESのヘンテコながらも強烈な存在感は、やはり当時のボルボならではの魅力といえるのではないでしょうか。

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