この記事をまとめると
■完全キャッシュレス化の実証実験が路線バスで始まっている



スマホでのQRコード決済に時間を要することが課題



■顔認証での運賃決済というものも視野に入っている



路線バスで運賃支払のキャッシュレス化の実証実験開始

2024年11月より18事業者29路線で路線バス運賃の支払いについて、完全キャッシュレス化の実証実験が順次始まっている。



運賃収受における運転士の負担軽減やバス事業者の経営改善に完全キャッシュレス化が効果を発揮するかどうかを見極めるのがその狙いとされている。



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先日、某バス業界団体の商品展示会を訪れると、複数の路線バス車内に設置される運賃収受箱メーカーがブースを構えていた。

最新機器が展示してあったのだが、そこにはいつもの交通系ICカードをタップする機器の代わりに、一般店舗でよく見かける交通系ICカードだけではなく、クレジットカードなど多種類のカード決済が可能なマルチ決済端末と、QRコードなどをスキャンできるスキャン機器が設置されていた。



インバウンド(訪日外国人観光客)の路線バス利用も目立ってきており、メジャークレジットカードで決済可能となるのは利便性も高まる。実際、タイの首都バンコクを訪れると、地下鉄など公共輸送機関では「VISAタッチ」が可能であった。



展示されていたものは現金収受も可能な運賃箱をベースに機能性をアップさせたものなのだが……、「ひとつ課題があります。それはスマホでのQRコード決済です。QRコードは5分で消えてしまいます。均一運賃(どこまで乗っても同じ運賃)路線ならば乗車時に決済するので問題はないのですが、乗車区間によって運賃が変わってくる「後精算路線」では、乗車時にタッチしたQRコードが降車時に消えてしまうのです」とは事情通。



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QRコード決済のイメージ



根本的な解決策も模索されているようなのだが、「当面は乗車時に整理券を取ってもらい、降車時に整理券を運賃箱に入れてもらい確定した料金をその場でQRコード決済するという流れになるようです」(事情通)。想像しただけでも降りる人のなかで複数の人がQRコード決済だったら結構時間を要することが想像できる。



また、素朴な疑問として完全キャッシュレスとするならば、従来の運賃収受箱内にある金庫は不要となるし、現金収受に関する機械部分も必要なくなるので、いまのような「タワー型」である必要はなくなる。



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路線バスの運転席近くに設置された運賃箱



「現状では運賃収受箱がタワー型なので、運転席に設置すると乗降客と運転士の間に壁となるような役目にもなり、ある意味『防犯効果』も兼ねているのですが、タワー型ではなくなると防犯面での新たな対策が必要になるともいえます」(事情通)。「政府としては最終的にQRコード決済のためのスキャンとカードをタップする機能だけを持たせた卓上タイプなどコンパクトな機器での運賃収受の実現をめざしていると事情通は話してくれた。



キャッシュレス化で無銭乗車はなくなる?

一般的には1000円札の両替や、均一運賃では1000円札を入れてお釣りが出てくることもあり、極めて稀だが1万円札での両替や、お釣り機能も運賃箱に付加することも可能となっている。そのような現金決済での多機能化を実現するためにも、運賃箱はタワー型となっていたのである。ちなみにアメリカの路線バスは筆者の経験ではまだ現金が使えるがお釣りは出てこない。



筆者が訪れた中国や東南アジアなどの国々では、完全キャッシュレスでの運賃支払いが導入されており、コンパクトなカードをタップする機器のみ車内に設置されているだけであった。



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海外の路線バスのキャッシュレス決済の機械



コロナ禍直前に日本のようなワンマン運行でキャッシュレス化したのが、インドネシアの首都ジャカルタの一般路線バス。それから5年ほど経つが、いまだに補助員が乗り込み、運賃支払いに慣れていない乗客への説明を続けている。



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インドネシアの路線バス



日本でもたまにしか路線バスを利用しない人を中心に運賃支払いにとまどう人が意外なほど多い。地域によって均一運賃と区間運賃、前扉乗車・中扉降車あるいは中扉乗車・前扉降車などバラバラなことで混乱する人もいるようだ。



そのなか、たとえば1000円での両替機能やお釣り機能のない運賃箱のバスに「1万円しかもっていない」として乗ってくる人がたまにいる。そんなときには、「今回は払わなくていいから、次に乗ったときにまとめて払ってくれ」とする運転士が多いとも聞く。



「それでは乗らないでください」と冷たくあしらわないところはいかにも日本的なのだが……、「現状のキャッシュレス決済のさらに先には『顔認証での運賃決済』というものも視野に入っています。つまり、乗車するからには、カメラにて顔が記録されることになります(つまり運行している間の乗降客数がしっかり管理される)。



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路線バスの運賃箱



導入過渡期にまだ現金決済が残っていた場合、乗車したという記録は残りますのでいままでみたいに『1万円しかないならば後でまとめて払って』とはいかずに無賃乗車として判断されることにもなりかねないとのことです」(事情通)。



完全キャッシュレス化により、バス事業者の経営改善効果が期待できるとしているのは、確実に運賃をその場で収受するという目的も含めて経営改善といっているようにも筆者には聞こえる。

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