この記事をまとめると
■かつてスバルにはダイハツ・タントエグゼのOEMモデル「ルクラ」があった■キャラクター「ルクラッコ」を用いたキャッチーな広告戦略が記憶に残る
■肝心のクルマは「小さな高級車」といえる佳作だったが市場とマッチせず1代で消滅
「ルクラッコ」覚えてますか?
「ルクラッコ」というキャラクターを覚えているだろうか。それは2010年4月20日に発売されたスバルの軽自動車、スバル・ルクラの新広告キャンペーンに用いられた、動物モチーフのキャラクターだった。TVCMでも発売翌日から「ルクラッコ編」が放映され、ラッコのようなパペット(人形)がスバル・ルクラの前後席に座り、「広くてビックラ! ルクラ!」なんていっていたものだ。
ちなみにルクラのキャンペーンに登場するパペットは、ルクライオン、ルクジラ、ルクラゲ、ルクラクダ、そしてルクラッコが存在した。なお、パペットの制作とパペットを操るパペディアは、過去に日本のテレビCMでカンヌ国際広告祭での受賞歴もあるハリウッドのChiodo Bros. Productions(キオード・ブラザーズ・プロダクションズ)と、Swazzle(スワゾル)のスペシャルチームが担当していた。
人形広告であっても、かなり力の入ったCMを展開していたことになる。CMソングとナレーションはIMARUさん、作詞・作曲はイルリメさん、人魚役で出演していたのは豊田エリーさんであった。

当時、大人気だった「唄う! ルクラッコ」のパペットストラップ(おなかを押すと3タイプのルクラッコの唄が流れる!!)はいまでもメルカリで3000円ほどで売られているが、そもそもスバル・ルクラとはどんなクルマだったかをすぐに思い出せる人はそう多くはないはずだ。実際、自動車評論家であるボクだってうっかり忘れていたほどである。
で、2010年4月に登場したスバル・ルクラ(2010/4~2015/5)だが、車名はLarge、Utility、Comfort、Relax、Activeの頭文字から取ったそうだ。
ベース車は2代目ダイハツ・タントの上級版、タントエグゼ。ボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1730mm、ホイールベース2490mm。スーパーハイト系軽自動車のタントとの違いは、広大な室内空間はそのままに、リヤドアが生活臭ムンムンのスライドドアからセダンタイプのヒンジドアに変更され、豪華でボリューム感たっぷりなエグゼ専用のシートなど。

※画像はダイハツ・タントエグゼの車内
リヤシートは左右分割260mmスライド&リクライニング機構付きで分厚いクッション感をもち、まさに軽自動車のエグゼクティブ仕様(ちょっと大げさだが)であり、かけ心地は当時の軽自動車としては最上級だった。RSとGグレードには、サングラスなどを収納できるLED照明付きオーバーヘッドコンソールも備わり、前席でもエグゼな気分を味わうことができたのである。
実際、筆者も何度か試乗しているが、身長172cmのドライバー基準で、前席頭上に295mm、後席頭上に260mm、膝まわりに最大400mmという室内空間が確保されていたのだからビックラだ。

※画像はダイハツ・タントエグゼの車内
ルクラはタントエグゼよりも装備が充実
OEM元のタントエグゼとの差異であるが、タントエグゼでは一部オプションになる装備を標準装備しており、女性に嬉しい装備も満載となる点が挙げられる。室内の驚くほどの広さはもちろん、前記のLED照明付きオーバーヘッドコンソール、センターフロアコンソール、カスタムの室内ブルーイルミネーション、キーレスアクセス&プッシュスタート、オートエアコン、電動格納式サイドミラー、ドアミラーウインカー、ディスチャージヘッドライトなどの上級装備(一部グレード別)による豪華さも、所有欲を満たすルクラの大きなセールスポイントだったのである。
標準車とカスタムの2モデル展開とし、2WDと4WDを用意するのはタントエグゼと同様だ。

※画像は2代目ダイハツ・タントエグゼのLED照明
パワーユニットはルクラがNAエンジンのみ、ルクラカスタムはNAエンジンとターボエンジンが用意されていた。
なお、2010年4月の発売から数カ月後の10月に早くも一部改良が施され、それまで4WD車は4速ATだったミッションが全車CVTとなり、4WD車もエコカー減税に適合することになった。
スーパーハイト系軽自動車の広大な室内空間は魅力的だけど、スライドドアだと「子育て世代御用達カーみたいで嫌だな……」というユーザーに、まさにジャストな選択だったのが、タントエグゼと、このOEM車のルクラだったというわけだ。もっとも、そう思っているユーザーはそれほど多くはなかったのだが。
なお、2015年5月にダイハツのタントエグゼが販売終了したことで、こちらも販売を終えている。後継車はスバル・シフォン(3代目タントのOEM車で両側スライドドアのスーパーハイト系軽自動車)となった。

では、走ってみるとどうだったかだが、タントの両側スライドドアモデルに対してリヤヒンジ式ドアによる約60kgの軽量化が効いて、NAエンジンでもそれほど非力感なし。結果、加速時にエンジンを高回転まで使うシーンが減り、車内の静粛性にも貢献。
NAエンジン搭載車はもちろん街乗りで光るクルマだが、ターボモデルを含め、タントより重心が低くなったことで走りの腰高感が減少し操縦安定性もUP。それに伴い、転倒防止のために足まわりを固める必要がなくなり、乗り心地面でも優位。ダイハツ車でいえば、ハイトワゴンのムーブに近いドライブフィールだったと記憶する。

※画像はダイハツ・タントエグゼの走行写真
いわば小さな高級車として開発されたのが、ダイハツ・タントエグゼ、そしてスバル・ルクラだったのだが、キャラクターのルクラッコや、「広くてビックラ! ルクラ!」というキャッチフレーズとの親和性は、いま思えばちょっと疑問が残ったりしないでもない……。