この記事をまとめると
■旅客輸送業界(バスやタクシー)では慢性的な運転士不足が続いている



■タクシードライバーの収入は勤務形態によって開きがある



■配車サービスに加盟しているタクシーは稼ぎやすい傾向にある



現在のタクシードライバーの収入事情

旅客輸送業界(バスやタクシー)では慢性的な運転士不足が続いて久しい。



そして、それに追い打ちをかけたのが新型コロナ感染拡大である。あえてタクシーに特化して話を進めると、全国的に外出自粛が要請され、事実上の「鎖国(世界的な海外渡航の自粛)」により日本からインバウンド(訪日外国人観光客)もほぼいなくなるほど、街なかからは人がいなくなり、タクシーは大幅な稼働台数制限を余儀なくされた。

なかなかタクシーに乗務できなくなった運転士のなかには、高齢運転士はそのまま引退への道を選び、現役世代ではほかの業種へ転職するということも目立っていたのだ。



やがて新型コロナウイルス感染拡大も落ち着き街に人が戻り、タクシーの需要が戻りつつあった。しかし、運転士がコロナ禍前のレベルにすら戻ることがなく、都市部では需要が供給量を大幅に上まわり、極度のタクシー不足が発生した。



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供給量が圧倒的に少なく、そのため運行中は休みなくお客を乗せる事態となり営収(営業収入)が大幅に向上するなか、ときを同じくして「2024年問題」が起こり、稼ぎがさらに少なくなることを恐れたりしたトラック運転士たちによる、タクシー運転士への転職が目立った。



一時よりは稼働台数もかなり多くなってきており、街なかでも空車のタクシーを見かけるようになったタイミングで事情通にタクシー運転士の稼ぎについて聞くと、「神奈川県横浜市あたりでも、1出番(隔日勤務/通しで最大21時間乗務)の平均営収は6万円と聞いています。これが東京(特別区[23区]及び武蔵野市・三鷹市地区)になると10万円オーバーとの情報も流れています」というので驚いた。



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タクシー乗り場の車列



一般社団法人 東京ハイヤー・タクシー協会の資料によると、2023年のタクシー運転士の平均年収は586万円であり、これは東京都全産業男性労働者の平均年収をわずかであるが上まわっている。タクシー運転士の給与内訳は出番(乗務するとき)での営収の内得られる歩合分のほか、基本給やボーナスがあるので、586万円がすべて営収とはいえない。



しかし、平均営収10万円としてそこから半分の5万円が運転士分として月に隔日勤務で13出番運転したとすると、営収だけで月65万円となるので、年間の営収合計は780万円となる。これに事業所によって賞与の有無があるかもしれないので、基本給だけ加えても平均年収で900万円近くになっているとも試算できる。



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タクシーは配車アプリの使い方で収入が大幅に変わる可能性大



タクシー運転士といっても、運行業務に取り組む姿勢は千差万別となっている。すでに年金受給しながら乗務していれば、当然タクシー運行による収入は制限することになるだろう。

また、自分で会社や商店を経営していて、副業と社会保険確保のために運転士もやるという人もいる。そのため、平均営収といっても実際のところタクシー運転士を正業としている運転士だけの平均と比べるとやや下まわる傾向がある。



つまり、一般的な統計によるタクシー運転士の平均営収ということになると、意外なほど低い数字となることも多い。事情通の「東京で10万円」という話は、タクシーを正業としているまさに現役運転士に限ったレベルの話ととらえたほうがいいかもしれない。



いまは経験ではなくデジタルツールで稼ぐ時代

筆者は早朝午前7時前に都内某所で定点観測することがある。



ちょうど成田空港へ向かう鉄道始発駅が近いこともあり、車内に旅行カバンを満載したタクシーがよく筆者の前を通り過ぎていく。定点観測していると、同じタクシー運転士でも稼ぎを大きく左右するのは、自分の勤務する事業者がスマホアプリによるタクシー配車サービスに加盟しているか否かが大きく左右しているように思われる。



東京都内のビジネスホテルの多くでは、部屋に大手スマホアプリ配車サービスの入会案内が置いてある。かねがねタクシーをよく利用する人は、前述した新型コロナウイルス感染拡大とその後の供給不足のときに「スマホでタクシーを呼ぶ」というものが習慣づいてしまった。個々のサービスで異なるケースもあるが、迎車回送料金が徴収されても、確実にタクシーがきてくれる利便性のほうを優先しているようである。



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夕暮れ時のタクシーの走行写真



「東京はそれまで街を流しているタクシーを拾う『流し営業』が主流でしたが、スマホアプリの普及により都内事業者は迎車回送料金収入が飛躍的に増えました。駅前での客待ちや無線配車をメインとしていた地域も含め、迎車回送料金の値上げとタクシー料金自体の値上げ(初乗り運賃で走行可能距離を縮めたりした)も行っており、運転士とともに事業者もまさにホクホクの状況が続いているそうです。

なので、スマホアプリサービスに加盟している事業者と、そうではない事業者との格差は大きいとも聞いています(事情通)」。



もちろん、すべての時間帯ではないが、駅前にたくさんのタクシーが客待ちをしているという光景は全国津々浦々見かけることはなくなった。仮に駅前からお客を乗せ目的地まで行き、駅前に戻ろうとするとスマホアプリでの配車要請が入ってしまうのである。



スマホアプリがないころは、自分が普段流していない地域まで行ったら空車で帰るのが当たり前なのに、スマホアプリサービスに加盟していれば、どこにいても配車要請がかかることも多い。筆者も自宅からスマホアプリでタクシーを呼ぶと、「ここは普段流していない。たまたま通りかかったところ」という運転士に出会うこともよくある。



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タクシー配車アプリの画面とタクシー



スマホアプリというと、若い人をついつい思い浮かべてしまうが、スマホアプリのタクシー配車では、お年寄りが通院のためスマホ操作をして呼ぶことはすでに当たり前になろうとしている。スマホアプリサービス加盟を機に、人件費や設備投資にお金のかかる電話による無線配車サービスを取りやめるところも多いことも影響している。



もちろん、デジタルツールに頼るだけでは収入アップはなかなか実現しない。時間があれば上客(長距離利用客)の配車要請が期待できる場所で休憩がてらタクシーを停める運転士もいると聞く。スマホアプリサービスは「打ち出の小づち」ではない。それまでの、稼ぐためには経験がものをいっていた時代」に比べると、「そんなにキャリアを積まなくても、デジタルツールをうまく活用すれば稼ぎやすくなっただけ」ということもできる(車内ディスプレイに検索された目的地までのルートが表示される)。



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タクシーアプリのイメージ画面



世間一般的にはデジタルツールに縁遠いと思われがちな高齢運転士も、迷うことなく機器を使いこなしているところをみるとベテラン運転士もその有効性を認めているようである。

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