この記事をまとめると
■左右ふたつのスピーカーで音楽すべての要素と帯域を再生するのはほぼ不可能だ



■カーオーディオにこだわった車種だと左右6スピーカーで構成されることが多い



■いい音はスピーカーの数だけでなくグレードやアンプなどによるところも大きい



乗員の座る位置に違いがあるからクルマのスピーカーは難しい

クルマのなかでいい音で音楽を聴きたい……そう思っている人も少なくないはずだ。日本の住宅環境でオーディオルーム、リスニングルームをもっている人などごく少数であり、家で大きな音で音楽を聴けば、家族や隣家から苦情の嵐が吹き荒れるかも知れない。



かつて、ボクがミュージシャンだった時代には、一軒家ににわかスタジオがあり、JBLのスタジオモニターやBOSE901シリーズでマルチトラックレコーディングの再生をしたり、お気に入りのLPレコード(まだCDのない時代)を聴いていたりしたものだが、いまでは一軒家に住んでいるとはいえ、オーディオルーム、ステレオシステムなどなく、お気に入りのCDを手に入れても、デスクトップPCのYAMAHA製スピーカー&Hi-Resオーディオ、TVの音声再生用のサウンドバー、クルマのなかで聴くかぐらいのものである。



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しかし、元ミュージシャンだから、音楽、音楽の再生にはそれなりのこだわりがある。かつて、超大物音楽プロデューサーとライフスタイル誌の企画でスタジオにハイエンドオーディオを数種類用意し、用意した同氏がプロデュースする女性シンガーソングライターの楽曲を再生し、オーディオシステムごとに音質だけでなく、音像に違いがあることがわかった。つまり、ボーカルがどこに定位されるか、上のほうか下のほうか、手前のほうか奥寄りなのか。



その際、教えてもらった、コンサート会場のサウンドチェックで使われていたリッキー・ピーターソンのアルバム「SMILE BLUE」(現在は廃版)のなかの1曲「What You Won't Do For Love」は、以来、クルマに試乗しカーオーディオの音質を確かめるためのマイ視聴曲となっている。



先日、BOSEを訪れ、ホンダ・シビックのBOSEサウンドシステムをBOSEのスタッフ(カーオーディオシステムの専門家)とともに視聴したとき、その曲を選び、なぜこの曲なのかの説明をしたりもした。強いアタック、繊細な楽器の鳴り方、めくるめくステレオ感などが入った1曲で、下手な純正カーオーディオではすべてを再生しきれないかもしれない音源なのである。



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ホンダ・シビック(11代目)のBOSEスピーカー



さて、本題である。お題の「クルマのスピーカーは数が多いほど凄いのか?」だが、その前にカーオーディオの基本を説明すると、サラウンド系の音源を除けば、音源は左右2チャンネルのステレオで再生される。ゆえにカーオーディオのスピーカー(ホームオーディオでも)は左右ふたつあれば、音楽制作者の意図どおりに聴こえるはず。



が、ふたつのスピーカーだけで音楽のすべての要素、帯域を再生するのはほぼ無理である。ホームオーディオのブックシェルフ型スピーカーだって、左右ふたつであっても、ひとつのスピーカーには中高域用、低域用のふたつ、あるいは高域用、中域用、低域用の3つのスピーカーが組み込まれている。



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ヤマハのホームスピーカー



だから、カーオーディオにこだわった車種であれば、フロントに高域用のツィーター、中域用のミッドレンジスピーカー(主にAピラーやダッシュボード)、低域用のウーファー(ドア)の左右6スピーカーで構成されることが多い。



さらに超低域を鳴らすサブウーファー(主にトランク/ラゲッジルームの床下)もある。ハイエンド・カーオーディオの場合、フロント3ウェイ6スピーカー+リヤ2フルレンジ2スピーカー+サブウーファーという9スピーカー構成になることもある。



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マツダ3のマツダ・ハーモニック・アコースティックスシステムの図



ホームオーディオと違い、そこまでスピーカーの数が必要な理由はリスニング環境にあり、ドライバーは前席右、または左に座り、助手席乗員もまたそうなり、後席左右にも人が座り、音楽を聴くことになる。それをマルチスピーカーとDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)を用いて、各スピーカーからの音が同時に乗員に聴こえるようにすることで、ホームオーディオにおける最適なリスニングポジションに座って音楽を聴いているようなステレオ感、音場で音楽を楽しむことができるようになるのだ。それを実現するためには、ある程度のスピーカー数が不可欠になる。



純正ハイエンドプレミアムサウンドシステム装着車がお手軽

純正カーオーディオでも、かつてのホンダN-BOXのアメリカンカスタム的モデル、N-BOXスラッシュには、8スピーカー+FOSTEX社製バックロードホーン式スーパーウーファー、それを駆動する出力360Wのアンプを備えたサウンドマッピングシステムが用意されていたし、マツダ3には標準装備で8スピーカー&DSPアンプ搭載のマツダ・ハーモニック・アコースティックスシステムが搭載されていたりする。



マツダの場合、これまでしょぼい音といわれてきた純正オーディオのレベルを大幅にアップし、純正のままでいい音を楽しんでほしいという願いが込められた、純正オーディオらしからぬ音のよさを追求したシステムとなっている。また、トヨタ・アルファードのエグゼクティブラウンジにはJBLプレミアムサウンドシステムが搭載され、15スピーカー、12chオーディオアンプが奢られている。



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トヨタ・アルファード(4代目)のJBLプレミアムサウンドシステム



ちなみに筆者が知る限り、もっとも多くのスピーカーを積んでいたクルマはアウディQ7ベースのアウディサウンドコンセプトというコンセプトカーで、なんとドイツの劇場の音場をモチーフとして62個ものスピーカー(ミッドレンジスピーカー×52、ツイーター×5、ウーハー×5個)を備えていたのだから驚きだ。



最新のアウディA8の市販車にはBang&Olfsenのスピーカーが23個搭載され、アルミニウム製のスピーカーグリルをもつダッシュボードからツイータースピーカーがせりあがってくるのも特徴的で話題になっている!!



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アウディA8のBang&Olfsen構成図



ただし、スピーカーが多ければそのままいい音になるわけではない。アンプ、スピーカーのグレードによるところも大きいのである。



もし、家では音楽をいい音で聴ける環境がない……しかし、筆者のようにいい音で音楽を聴きたいというのであれば、手っ取り早い方法として、純正ハイエンドプレミアムサウンドシステム装着車を薦める。

ほとんどが車両と同時に開発され、アンプ、スピーカーは独自設計。車種専用のカーオーディオ、リスニング環境に仕立ててあるからだ(ドアスピーカーのデッドニングなどを含む)。



クルマに搭載されるハイエンドオーディオメーカーとしてはJBL、BOSE、ハーマンカードン、マークレビンソン、フォーカル、ロックフォードフォズゲートなどがあるが、ボクが現在乗っているクルマにオプションで付いているのは、デンマークのハイエンドスピーカーメーカーのディナウディオのもの。フロント✕4、リヤ✕4、ラゲッジルーム下のスーパーウーファーの総出力400W、10チャンネル、9スピーカーという構成だ。



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フォルクスワーゲンに搭載されたディナウディオのオーディオ



じつは、愛車として初めてハイエンドカーオーディオシステムを経験し、日々、音楽を聴いているのだが、その直前、標準オーディオ搭載の同じ車種に乗っていたからその差は歴然。アンプのクオリティの高さと出力の余裕、スピーカーの数の多さとスーパーウーファーの搭載によって、音のよさ、ダイナミックさ、広がり、低音の迫力の違いに驚き、元ミュージシャンとしても満足しきりなのである。



ギタリストの指が弦をなぞる擦れ音、歌手のブレス、これまで聴こえなかった繊細な音まで見事に再生してくれて、もはや自宅のリスニングルームいらずの音楽生活をさせてもらっている。最新最先端のオーディオではないからCDスロットもあり、CDを買いに行って、その帰りにいち早く車内で聴きながら、ジュークボックスに直接、録音できるところも気に入っている。



なお、自動車メーカーの純正ハイエンドオーディオといっても、メーカーによって音の個性の違いがある。一例を挙げると、トヨタbZ4Xとスバル・ソルテラは兄弟車だが、bZ4XはJBLプレミアムサウンドシステム(9スピーカー)、ソルテラはハーマンガードンサウンドシステム(11スピーカー)を採用する。



純正オーディオが自慢のクルマはスピーカーの数も自慢げに書くけどなんで? スピーカーが多ければ多いほどいいのか元プロミュージシャンの自動車ジャーナリストが解説!
スバル・ソルテラのハーマンガードンサウンドシステム



それぞれに音の個性があり、好みがわかれるかも知れない。筆者は音像の豊かさ、低音の再生感で後者が好みだ。

おっ、スピーカーの数が多いほうだったりして……(個人の感想です)。

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