この記事をまとめると
■レーシングカーのロードバージョンという特殊なクルマが存在する■ホモロゲーションモデルとしてごく少量だけが生産されることがほとんどだ
■現存しないというパターンもあるが多くの場合は高値で取り引きされる
文字どおり公道を走れるレーシングカー
スーパーカーの世界には昔からレーシングカーをベースに製作された、高価でスパルタンなモデルが数多く存在した。今回はそのなかから、いくつかの例を紹介していくことにしようと思う。
まずは1980年代に世界各国のサーキットでその戦闘力の高さを見せつけていた、ポルシェ962Cをストリート仕様にコンバートした「ポルシェ・シュパン962C」。
962Cをベースとしたストリート仕様には、ほかにケーニッヒ・スペシャルズの「C62」やDPモータースポーツの「DP962」、そしてポルシェの開発支援を受けたダウアー・シュポルト・バーゲンの「962LM」などがあった。

このグループC時代、そしてWSC時代を経て、1997年にポルシェがル・マン24時間レースに参戦するために、当時のGT1カテゴリーのレギュレーションに沿って製作したのが「911GT1」だ。
当時のレギュレーションではGT1ではストリート仕様の製作が義務づけられていたが、ポルシェはそれをクリアするために、まさに公道走行可能なレーシングカーとして911GT1を20台ほど生産したとされる。最高速で308km/hを達成する544馬力の3.2リッター水平対向6気筒ツインターボエンジンのスパルタンなテイストは、はたしていかなるものだったのだろうか。

話は若干さかのぼるが、1995年のル・マン24時間レースで勝利したマクラーレンの「F1 GTR」も、のちにF1シリーズのロードカーのなかではもっともハイパワーな仕様となるわずか5台の限定車、「F1 LM」、そしてさらに1997年シーズンのホモロゲーション取得のために製作された3台の正常進化型「F1 GT」というロードカーを残している。
ちなみにF1 LMに搭載された6リッターのV型12気筒自然吸気エンジンの最高出力は668馬力。GTはそのロングノーズ&ロングテールのスタイルが印象的だった。

GT1の世界では、ポルシェに前後してメルセデス・ベンツが、ホモロゲーションを取得するためにニューモデルの「CLK-GTR」を開発。ロードカーは25台が開発・製作され、当時ポルシェ911GT1とともに大きな話題を呼んだ。

ちなみにレーシングモデルのCLK-GTRは、ここからさらに「CLK-LM」、「CLR」と進化を遂げるが、前者では1台のロードモデルが製作されたものの、実際の販売は行われず、後者ではロードモデルは誕生していない。
日本にも超弩級のホモロゲーションモデルは存在する
日産のR390やトヨタの「GT-One(TS020)」も見逃せない。R390は1997年に1台のみがロードカーとして製作され、100万ドルの価格で販売される予定だったが、それは計画途中で中止。また、レースに使用されたモデルは、1998年のル・マン24時間レースにおいてR390で6位に入賞したエリック・コマスに売却され、コマスはその後それをロード仕様へと改造。そもそものロードカーは座間市にある日産ヘリテージ・コレクションに所蔵されている。

トヨタGT-One(TS020)のロード仕様が製作されたのは1998年のこと。もちろんこのモデルも販売されることはなく、歴史のなかにその名を残すのみとなっている。

サードがやはりGT1クラス規定を満たすために、1台のみを生産した「MC8R」は、トヨタの4リッター V型8気筒ツインターボエンジンをミッドシップするモデル。外観からも想像できるように、それはSW20型MR2をベースに開発されたモデルである。ちなみにエンジンはセルシオ用の1UZ-FE型が基本。現在の消息は残念ながら不明だ。

そのほかにも、かつてのレーシングカーにインスパイアされたオンロードスポーツカーは数多くある。

レーシングカーとオンロードスポーツカー。その間にはレギュレーションが生み出した強い関係がある。今回はそのなかでもとりわけ特別な例を紹介したが、ほかにもレギュレーションにマッチさせるために生産されたモデルが多々あることは周知のとおり。そしてそれらはカーマーケットでも、常に高い人気を誇っている。