この記事をまとめると
■HRS鈴鹿はホンダ・レーシングによる四輪・二輪・レーシングカートのレーシングスクール



■1997年には現在のHRS鈴鹿のプリンシパルである佐藤琢磨選手を輩出



■優秀な成績のスクール生はホンダ育成ドライバーとして国内外のレースに参戦する権利が与えられる



二輪ライダー育成機関から始まったホンダのレーシングスクール

F1やインディカーシリーズで活躍した佐藤琢磨選手のご子息、佐藤凛太郎選手が2023年に入校し、参加2年目となる2024年にはスカラシップ選考会を主席で修了するなど、二世ドライバーの活躍で注目を集めたホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)だが、そもそも読者諸兄はHRS鈴鹿をご存じだろうか?



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HRS鈴鹿は文字どおり、鈴鹿サーキットを舞台にホンダ・レーシングが監修を行なっている四輪・二輪・レーシングカートのレーシングスクールで、国内外で活躍するドライバーおよびライダーを育成。その歴史は古く、1992年に二輪のライダーを育成する鈴鹿サーキットレーシングスクールジュニア(現在のHRS鈴鹿Motoクラス)が設立されたほか、翌1993年には鈴鹿サーキットレーシングスクールカート(現在のHRS鈴鹿Kartクラス)を設立。



さらに1995年には当時、日本で唯一の本格的なフォーミュラのレーシングスクール、鈴鹿サーキットレーシングスクールフォーミュラ(現在のHRS鈴鹿Formulaクラス)が設立されたのだが、そのレベルは極めて高く、フォーミュラ部門だけをクローズアップしても、数多くのトップドライバーを輩出している。



F1ドライバーを2名排出! 国内カテゴリーのチャンピオンも多数育成! ホンダのレーシングスクール「HRS鈴鹿」の実力はワールドクラスだった
1997年当時の鈴鹿サーキットレーシングスクールフォーミュラ(現在のHRS鈴鹿Formulaクラス)



前述のとおり、F1を経て、インディ500で2017年および2020年と2度の優勝を獲得した佐藤琢磨選手(1997年卒業)を筆頭に、スーパーフォーミュラで3回、スーパーGTのGT500クラスで2回のチャンピオン経験を持つ山本尚貴選手(2006年卒業)、2021年および2022年のスーパー・フォーミュラ王者、野尻智紀選手(2008年卒業)、FIA-F2を経てスーパーフォーミュラで活躍する岩佐歩夢選手(2019年卒業)や松下信治選手(2011年卒業)、牧野任祐選手(2015年卒業)など、数多くの卒業生が国内外で活躍している。



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鈴鹿サーキットレーシングスクールフォーミュラ(現在のHRS鈴鹿Formulaクラス)時代の佐藤琢磨選手(右からふたりめ)



さらに、2021年からF1で活躍している角田裕毅選手も2016年に鈴鹿のレーシングスクールを卒業したドライバーのひとりだ。



事実、筆者は2005~2007年はレーシングカート専門誌、2008~2010年にかけてモータースポーツ専門誌でF3を担当していたが、全日本カート選手権ではカートスクール卒業生たちが、全日本F3選手権をはじめとする国内外のF3シリーズではフォーミュラスクールの卒業生が常にトップ争いを左右。その当時から鈴鹿のスクールのレベルの高さを感じていた。



つまり、HRS鈴鹿は老舗のレーシングスクールであり、トップドライバーの登竜門となっているのだが、それもそのはず、HRS鈴鹿のFormulaクラスは入校から狭き関門となっており、入校後には充実したカリキュラムのもと、徹底的な英才教育が行われているのである。



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HRS鈴鹿のトレーニング風景



まず、HRS鈴鹿において最初の関門となるのが、2段階で行われる入校選考会で、11~1月、入門用モデルであるフォーミュラエンジョイを使用して2日間に渡る運転技能を審査。さらに2月にはHRS鈴鹿の独自のフォーミュラカーを使用した3日間のプログラムで運転適性が審査され、基準に達した者だけがHRS鈴鹿のFormulaクラスのアドバンスコースの受験資格を獲得できるのである。



現役レーサーによる指導と走り込みでスカラシップ獲得を目指す

こうして晴れてHRS鈴鹿の門下生となった受講生たちは、4~8月に計4回に渡ってトレーニングを受けることになるのだが、その内容も充実している。ルールやマナーなどの基礎知識はもちろんのこと、貸し切られた鈴鹿サーキットで走り込みを実施。この実車による練習走行でレクチャーを行っているのは、現役選手を中心とする講師陣で、スクール生はより実践的な技能を習得できるようになっている。



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HRS鈴鹿のトレーニング風景



ちなみに現在HRS鈴鹿Formulaクラスでインストラクターを務めているのが、先述した野尻選手や牧野選手、岩佐選手のほか、塚越広大選手や大津弘樹選手、太田格之進選手、佐藤 蓮選手などで、国内トップカテゴリーで活躍する面々が勢揃い。この充実した講師陣もHRS鈴鹿ならではの特徴といえるだろう。



もちろん、走行の合間には、データロガーによる解析方法やインストラクターの走行データと比較することで自分の弱点を学べるほか、専門家の指導のもと、レーシングドライバーに必要不可欠なフィジカルトレーニングが行われるなど、カリキュラムは広範囲に渡る。



こうして4カ月間の間にスキルアップを重ねたスクール生は、その集大成として9~10月に2回に渡って行われるスカラシップ選考会に参加。そこで優秀な成績を収めたスクール生はスカラシップを獲得、ホンダの育成プログラムであるホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)に加入し、ホンダの育成ドライバーとして翌年の国内外のレースに参戦する権利が与えられるのである。



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スカラシップ選考会のワンシーン



「僕自身、鈴鹿のレーシングスクールでフォーミュラを学んでいましたが、あのころとは全然レベルが違います。もちろん、僕がスクールにいたときは、金石年弘選手や松田次生選手など、当時、全日本カート選手権で活躍していたメンバーがいたりと、かなり速いドライバーはいたんですけど、いまのスクールに参加しているドライバーの8割は幼少期からレーシングカートをやってきたメンバーですからね。当時より、かなり競争力は高いと思います」と語るのは、レーシングスクールの卒業生であり、現在はHRS鈴鹿のFormulaクラスでプリンシパル(校長)を務める佐藤琢磨選手だ。



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HRS鈴鹿のプリンシパルである佐藤琢磨選手



さらに佐藤選手は現在のレーシングスクールについて「講師陣に関しても佐藤 蓮選手や野尻選手、あとは日本にいるときは岩佐選手にも講師として来てもらっていますからね。いまのホンダを支えるトップドライバーが揃っているので充実していると思います。もちろん、僕がいたときも伊藤大輔さんや山西康司さん、脇阪寿一さんなど、当時の現役のドライバーはいましたが、いまはグローバルに活躍してきた選手たちが直接指導しているので、生徒だけでなく、講師陣のレベルもアップしています」と語る。



これに加えて「スクールで使用しているクルマも当時よりレベルが上がっていますし、データロガーシステムも進んでいるので、僕がスクールにいたころよりも確実に環境はよくなっています」と付け加える。



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HRS鈴鹿のトレーニング用フォーミュラマシン



このようにHRS鈴鹿は確実に進化をしており、「野尻選手は講師としてスクールカーに乗るんですけど、そのときにどのようにして速く走らせるか……という部分がスーパーフォーミュラに役立っているようですし、佐藤 蓮選手も講師をするようになってからも速くなっている。スクール受講生はその姿を見て追いつこうとしている訳ですから、レベルが上がっていきますよね。

ジュニアフォーミュラを操る部分において、鈴鹿のスクールは世界に通用するところまで来たと思います」と佐藤選手。



さらに、「スクールの環境はよくなっていますが、それをどう使うかは、受講生たち次第です。もちろん、レースに出てみないとわからないことは多いけれど、可能な限り、必要なことは教えていきたいし、成長できるように気づきを与えたいですね」と佐藤選手は付け加える。



まさにHRS鈴鹿は日本におけるレーシングスクールの名門で、2025年以降も若きスクール生が切磋琢磨。そして、卒業生たちが国内外のレースシーンで活躍することになるだろう。

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