この記事をまとめると
■漫画「頭文字D」で行われるガムテープデスマッチは名勝負として有名だ■実際にやって上手く走れても得られるメリットは少ない
■怪我をする可能性があるので安全のためにもやらないほうがいいだろう
FFに有利なバトル方式として登場する「ガムテープデスマッチ」
漫画に出てくるドライビングテクニック。荒唐無稽なものもあるけど、試してみたくなるものもなかにはある。
そのひとつが「頭文字D」に出てくるガムテープデスマッチ。
実際にできるかできないかでいえば、できないことはないだろうが、何かメリットがあるのかといわれると相当「?」だ。
クルマを速く走らせるには、できるだけ舵角は少ないほうが望ましいのは確か。そういう意味で、ガムテープデスマッチのいわんとするところはわからなくもないが、使えるものは何でも使って結果を出すというのも、道具を使うスポーツのひとつの真理。
スポーツドライビングでいえば、アンダーステアを忌み嫌うが、このアンダーステアの原因のひとつに「手アンダー」がある。「手アンダー」とは、一般的にタイヤの応答性(グリップ力)を超えるほど大きくハンドルを切って、そのためにアンダーステアが出る現象のこと。オーバースピードでコーナーに進入し、減速不足でクルマが曲がらないのに、自分の曲がりたい意思を優先し、もっとハンドルを切って、アンダーステアをさらに悪化させるケースがこれ。
ただし、「手アンダー」には別のパターンもあって、それはもっとハンドルを切れば曲がるのに、自分で勝手に「これ以上ハンドルを切っても曲がらない」と思い込んで、舵角不足でアンダーステアを出しているケースも存在する。

コーナー進入時、車速が落ちれば、そのぶんだけハンドルも切り足せるので、コーナーのボトムスピードで一番舵角が大きくなるよう調整していくこともとっても大事。
ガムテープデスマッチでは、この必要な切り足しができなくなる可能性があるので、あまり積極的に賛同することはできない……。
腕の動きを制限されると事故の際の怪我の危険性が高くなる
たとえば、漫画のように右ハンドルのクルマで、右手をハンドルの「9時」の位置にガムテープで固定したとすると、左方向には180度程度は切ることができるが、右方向には90~100度ちょいしか切ることができない。これでは左右非対称なので、現実的ではないだろう。

仮にハンドルのトップ、「12時」の位置で右手を固定しても、左右に180度ずつしか切れない。乗用車のロックtoロックは、3回転半から4回転ぐらい。ステアリングギヤ比がクイックなスポーツカーでも3回転以下ということを考えると、左右に180度ずつしか切れないガムテープデスマッチでは、許容舵角の6分の1程度しか使えないことになる。
もともとハンドルの持ち替えを想定していないフォーミュラカーや、ホンダがS2000に採用したVGS(Variable Gear ratio Steering=車速応動可変ギヤレシオステアリング機構 ロックtoロック=1.4回転)、BMWのアクティブステアリングなどであれば、ガムテープデスマッチの意味もあるかもしれないが、そのほかのクルマでは「?」といったところ。

たとえ、コーナリング=ドリフト。「ステアリングはきっかけだけ」に徹したとしても、イザというときカウンターステアの舵角不足で、スピン、クラッシュのリスクはあるし、ドリフトが続いたとしても、タイヤマネジメントの面でネガティブな要素しかない。
競技として、同じレギュレーションのもと、安全な場所で競い合うのなら、ガムテープデスマッチもひとつのルールとしてありだろうが、汎用性の高いドライビングテクニックを磨くのに役立つかというと、メリットよりデメリットのほうが大きいはず。
とくにクラッシュした際、腕がハンドルに固定されていると、ハンドルのキックバックで固定されていた手が大けがをする可能性があるので心配だ。

そんなリスクを冒すよりも、同じ曲率が続くコーナーであれば、ハンドルは「1回切って、1回で戻す」ことを徹底させたり、フロントタイヤを転がして、クルマの向きを変えることに集中したほうが、ドラテク向上には役立つはずだ。