この記事をまとめると
■現行型シボレー・コルベットがミッドシップを採用したのは速さを追求した結果だ■走りにおいてミッドシップは自動車工学的にもっとも理想的なレイアウトとなっている
■ただミッドシップにすればいいわけではなく各部の最適化が求められる
速さのためにミッドシップ化したコルベット
フロントエンジン・リヤドライブ(後輪駆動)。代々このFRレイアウトを継承してきたシボレー・コルベットが、現行モデル(C8)でミッドシップレイアウト(MR)となったとき、多くのコルベットファンは驚愕したに違いない。コルベット信者ではない僕も、その大胆な変更には驚かされた。
コルベットは、FRでもパワフルでハンドリングもよく、耐久性にも優れていてル・マン24時間レースでも素晴らしい活躍を示していた。レースで勝つことだけがコルベットの役割ではないはずで、伝統を継承することも重要なのだろうと考えていた。それはポルシェ911が頑ななまでにRR(リヤエンジン・後輪駆動)レイアウトを現在まで引き継いでいるのと同じように見えていたのだ。
ところが、2020年にフルモデルチェンジを受けて登場したC8コルベットはMRで登場した。多くのカーマニアは驚かされたのだった。

コルベットがMRを採用した理由は単純明快だ。速さを追求した結果といえる。
世界耐久選手権戦(WEC)において、GTカテゴリーで覇権を争うコルベットは、これまでFRレイアウトのままでMRのフェラーリやランボルギーニ、RRのポルシェ911と戦ってきていた。それでも十分に存在感を示し、結果も残していたが、さらに圧倒的な速さを示すためにMR化に踏み切ったのだろう。
2020年にMRとなったC8コルベットはレースシーンにも投入されすぐに速さを示し、2023年のル・マン24時間ではクラス優勝を飾った。

MRにしたことで、レースシーンで圧倒的な速さを示すことに成功したのである。
ミッドシップにすればなんでも速くなるわけじゃない
MRにするとなぜそれほど速く走らせることができるのか。
Z軸まわりとは車体の重心を通る上下の軸(仮想軸)で、エンジンなどの重量物をZ軸の近くに配置することで回転(ヨー運動)を起こしやすくし、また収束もしやすくなる。その証拠に、F1を始め純レーシングカーはほとんどがMRレイアウトを採用している。MR化することで室内は狭く、2シーター化がほぼ避けられず、また荷室も制限されるので、乗用車としての実用性は著しく低下してしまうのが欠点だ。

また、専用のシャシーが必要になるのでコストも高まる。
古くはフィアットX1/9に始まり、トヨタMR-2やホンダの初代NSXなど、前輪駆動(FF)乗用車の量産エンジンをトランスミッションごとそのままミッドシップに横置きし、MRスポーツとして販売された例はある。しかしその走りは、本物のエンジン縦置きMRスポーツと比べると明らかにハンドリングのレベルが低かった。

ホイールベース内にエンジンが搭載されるので定義上はMRに分類はされたが、本質的にはバランスが悪く実用性も低いものとなっていた。
その理由はふたつあり、エンジンを横置きしたことで、どちらかというとリヤエンジンのRRに近い前後重量バランスで後輪左右の重量バランスも悪い。また、乗用車用ユニットでオイルパンもそのまま搭載したので、エンジンの搭載位置が乗用車のままで、結果として重心が高く、クルマのロールセンターと乖離したロール軸となってしまっていた。

このように、MRレイアウトにしたら何でもいいということではなく、MRレイアウトで向上する運動性能に見合うクルマを作らなければ成果としての速さは得られない。
前後左右の重量配分を最適化し、重心を徹底的に下げ、X・Y・Z軸の交わりを重心近くに合わせる。その近くにドライバーが着座できるようなレイアウト。MRにはそれが求められているのである。