この記事をまとめると
■TWR創立50周年を記念してジャガーXJ-Sが「スーパーキャット」として復活■フレームこそオリジナルと同一だが最新技術を惜しみなく注ぎ込み現代的に進化
■限定88台で2025年夏からデリバリーを開始して価格は約4400万円
ジャガーの伝説が現代の技術で蘇る
トム・ウォーキンショーや、ジャガーXJ-Sの名を聞いて胸を熱くする方は 1980~90年代のハコ車レースが好きな方に違いありません。なんといっても、1960年代に設計された古臭いシャシーにV12を載せた重量級クーペながら、トム自身のチューン&ドライブによって鬼神の走りを見せてくれたのです。
そんなジャガーの伝説的なXJ-Sが、なんとトム・ウォーキンショーの息子によって復活! スーパーキャットと名付けられたマシンは、レストモッドでもスペシャルカスタムでもなく、まったく新しいマシンに仕上がっていました。

TWR SUPERCAT(スーパーキャット)は、ご覧のとおり往年のジャガーXJ-Sをベースにしたニューマシン。また、TWRとはイギリス人ドライバー兼チューナーを務めたトム・ウォーキンショーのレーシングチームを意味するもの。2024年はTWRの創立50周年を迎えた節目であり、スーパーキャットがこの年に発表されたのは決して偶然ではないのです。
もっとも、今回はトムではなくて彼の息子、ファーガス・ウォーキンショーとパートナーたちによるプロジェクト。ちなみに、TWRはトムがレースを引退してからしばらく休眠状態だったようで、スーパーキャットの計画に合わせて復活したとされています。

カーボンを多用したボディワークは、ノーマルのXJ-Sとはかけ離れており、人によってはやりすぎ、下品などと眉をひそめられるものかと。
しかしながら、すべてのディテールにはTWR、あるいはファーガスなりの理由があり、それらはまた往年のグループCカーに由来するものや、21世紀のテクノロジーに即したものにほかなりません。CFDを駆使したボディワークであり、見えないシャシー底面にフラット&ディフューズ機能をもたらすなど、空力理論バチバチです。

たとえば、TWRとジャガーがコラボしたジャガースポーツによるスペシャルなXJR-Sでは控えめなリヤウイングが装備されていましたが、スーパーキャットはリヤのブリスターフェンダーから一体化されたダックテール(ボルテックスジェネレーター)とされました。

また、コークボトル形状を意識した前後の巨大なフェンダーにしても、新設計のダブルウイッシュボーンサスペンションと、フロント18インチ/リヤ19インチサイズのタイヤを収めるためのデザイン。
なにしろ、オリジナルのXJ-Sは設計が1960年代後半であり、シャシーにサブフレームを用いるなど時代遅れもはなはだしいもの。トムは、よくもこの足まわりでレースを戦ったばかりか、優勝までしたものだと、いまでも不思議でなりません。

外装以外も現代流に超進化!
そして、エンジンルームもまたオールドファンが喜びそうな眺め。後期モデルの5.3リッターV12をほどほどにボアアップして5.6リッター化されたエンジンに、(おそらくは)ルーツ製スーパーチャージャーを追加。この際、バンクごとにインテークを新造しているのですが、カーボンとステンを用いた造形の美しさといったらありません。

当時のXJR-Sではザイテックの独立ポート制御を用いて350馬力程度だったものが、スーパーキャットは660馬力/7700rpm、730Nm/5350rpmへと飛躍的なパワーアップ。高回転・高出力化に伴って、ドライサンプ化されているのも見逃せないポイントかと。
こうしたパワーに合わせるべく、XJ-Sのフレームを用いたスーパーキャットではスチール製チューブラフレームが追加されています。その結果、カーボンボディを架装しながらも軽量化は9.3%(1770kg→1605kg)にとどまることに。

当時から重量級ではあったのですが、スーパーキャットにはカーボンセラミックブレーキや、トラクションコントロールを追加することで運動性能を担保。また、トムがぶっ飛ばした当時と同じくビルシュタイン製ダンパーながら、当然中身はグレードアップがなされているはずです。

また、ささいな変更となりますが、XJ-Sについていたミニミニ後部座席は実用性がないことから省かれてラゲッジスペースに替えられたほか、メーターパネルはデザインこそ往年のアナログ針式ながら液晶パネルに。ついでにアップルのCarPlayを装備して、今風のツーリングも楽しめるという気配りもなされています。

ファーガス率いる新生TWRは、このスーパーキャットを88台の限定で2025年の夏からデリバリーを予定しています。
価格は日本円にして約4400万円と、近頃のレストモッドに比べればはるかにお買い得かと。もっとも、全車が売り切れたあとはご多分に漏れずプレミアが上乗せされること目に見えていますけどね。

なお、スーパーキャットにはアメリカ在住のイギリス人クリエイター、マグナス・ウォーカーもかかわっているとのこと。一時はポルシェのコレクターとして名を馳せたウォーカーですが、やっぱり英国気質どころかTWRの活躍には胸をときめかせていたようで、スーパーキャットをさらにカスタムしたマシンを購入したのだとか。
いずれにしろ、TWRのコメントどおり「レストモッドではなく、トラディショナルとモダンが融合したアナログカー」というスーパーキャットは、次世代のスペシャリティカーを表徴するものとして素晴らしい作品に仕上がっているのではないでしょうか。