この記事をまとめると
■昭和の電子制御は性能が低くスポーツ走行においては否定的な評価が多かった■現代では大幅に進化しておりドライビングの阻害となることはほとんどない
■いまや使ったほうが速いほどのスポーツ走行を支える存在となっている
いまはプロだって電子制御の助けを借りる!
いまだに「電子制御はつまらない」というスタンスで最新テクノロジーを批判的に捉えているベテランドライバーは多い。そうした姿勢を見ているヤングドライバーは、「いくらなんでも“古き良き”マインドがすぎるんじゃないの?」と感じてしまうかもしれないが、ある世代にとって電子制御を否定的にとらえてしまうのは、原体験として仕方がないことかもしれない。
たとえば、昭和が終わりを迎えようとしていた1980年代の電子制御は、たしかにスポーツドライビングをジャマするものが少なくなかった。
その象徴ともいえるのが「ABS(アンチロックブレーキシステム)」だろう。滑りやすい低ミュー路などでタイヤがロックしてしまうとハンドルが利かなくなりアンコントロールになってしまう。そうした状況を防ぐためにタイヤロックを感知するとブレーキ圧を緩めて、自動的にポンピングブレーキのような制御をしようというのがABSのねらい。
そうした基本的な設計思想はいまも変わっていないが、たしかに昭和のABSはいまほど制御がきめ細かくはなく、ABSが作動すると制動距離があからさまに伸びてしまうことも珍しくなかった。
スポーティな走りをしたときも、ABSが作動することで思いどおりのブレーキコントロールができず、サーキット走行時にはヒューズを抜いてABSを機能しないようにしておく、という対策が大手を振って実施されていたこともあった。

ただし、そうした対応は初期のABSに限った話だったのも事実。4輪のタイヤ回転を独立してセンシングする4チャンネルABSが採用され、ブレーキ圧の制御もきめ細やかになって行き、いつしか「ABSによって人間には真似できないレベルのブレーキングが可能になる」という評価がなされるようになった。2000年代には、プロドライバーまでもが「サーキット走行でもABSを利用して走ってますよ」というほどだ。
ちなみに、スーパーGTのGT500マシンはABS装着が禁止されているが、それは速く走るためではなく、コスト削減であったり、より人間同士のレース要素を増やすためであったりといった狙いがあり、けっしてABSがないことでクルマが速くなるという意味ではない。なお、ジェントルマンドライバーも多いGT300クラスのマシンにはABSが装備されている。

それはさておき、タイヤの縦グリップと横グリップを上手に使うには、ABSを活用することを前提とした走らせ方をするのが令和のスポーツドライビングだ。昭和のドライビングスタイルで踏力を変化させてブレーキコントロールをしようとするとABSの性能が引き出せないばかりか、バグのような症状が発生することもあるという。
かつて扱いづらかった装備も現代ではさま変わりしている
さて、1980年代に流行った電子制御のなかでは、「4WS(4輪操舵)」もスポーツドライビング派からは不評を買った機構だった。ホンダ・プレリュード、日産スカイライン、三菱ギャランVR-4、マツダ・カペラなどが4WSを採用した初期のモデルとして記憶に残るところだ。
いずれも日常走行では後輪が操舵することでスタビリティを感じられたり、小まわりが利いたりといい点もあったが、スポーツドライビングでは違和感を覚えることも多かった。

そんな4WSだが、現在ではピュアスポーツモデルにも採用されるほどになっていることにお気づきだろうか。
国産ではレクサス、欧州車ではポルシェやランボルギーニ、メルセデスなどが4WSを積極的に採用している。なかでも注目したいのはFF最速を目指すフランスの雄「ルノー・メガーヌR.S.」にも4WSテクノロジー「4-Control」が採用されていることだ。

昭和の感覚では「FFの後輪はフロントをジャマせず、素直についてくればいい」とされていたが、速いFFを生み出すには後輪のグリップを引き出し、後輪も曲がることに積極的に関与させていく必要があるというわけだ。
1980年代といえば、ターボによってエンジンパワーを引き上げることが主流になっていった時代でもあった。初期のターボエンジンにおいては、アクセル操作とエンジン出力の発生に時間差があり、それをターボラグと呼んで忌み嫌っていた。ターボというのは排気エネルギーを利用してコンプレッサーをまわし、過給する仕組みである。

アクセル操作やエンジン回転上昇と、実際の出力にタイムラグが発生するのは仕方がないことだが、ターボラグが大きいエンジンでは適切なコントロールが難しいという問題があった。
その解決策として右足でアクセルペダルを踏んだまま、左足でブレーキペダルを操作してエンジン回転を落とさないようにするといったテクニックもスポーツドライビングとして広まったこともある。アクセルを踏んだままシフトアップするなど、とにかくアクセルオフをしないことが速く走るために必要だったのだ。

そんなターボラグは、いまや完全に死語となっている。2000年代のダウンサイジングターボ・ムーブメントもあって、レスポンス重視の小さなターボチャージャーや軸がウルトラスムースにまわるボールベアリングターボなど、さまざまな技術が実用化されたおかげで、気になるレベルのターボラグを感じることはほとんどなくなっている。

その背景には、多段ATやDCT、CVTの普及もあるだろう。2ペダルのターボエンジン車であれば、ただアクセルを踏み込んでいればいい。機械のほうが短い変速時間で、適切な変速比を選んでくれるため、ドライバーはラグのないシームレスな加速を味わうことができるようになっている。