この記事をまとめると
■映画「栄光のル・マン」の劇中車ポルシェ908を再現したレプリカを紹介



■レーシングカー「VIVACE」をベースにワンオフのボディを架装



その製作手法は模型を拡大コピーするという驚きの方法



「栄光のル・マン」劇中車の本物そっくりなレプリカ

みなさんは「栄光のル・マン」という映画を知っているでしょうか? 1971年に封切りされた映画なので、リアルタイムで観たという人は70代でしょう。主演がアメリカの銀幕大スター「スティーブ・マックイーン」なので、そちらの線でDVDなどで観た人はいるかもしれません。



ここで紹介する車両は、その「栄光のル・マン」の劇中車「ポルシェ908」を再現したレプリカです。

そうといわれなければ「本物かな?」と思ってしまう佇まいのこのカスタム車両にスポットを当てて紹介していきましょう。



■ポルシェ908(スパイダー)と映画「栄光のル・マン」

まずはこの車両のもととなったポルシェ908(スパイダー)について少し紹介していきます。このポルシェ908(スパイダー)は、ポルシェがル・マン24時間レースをメインとするスポーツカー世界選手権を戦うために開発されたレース専用マシンです。



ホンモノと見まごうばかりの超完成度の影にミニカーの存在! 「...の画像はこちら >>



搭載されるエンジンは車両形式と同じ「908型」と呼ばれる2997ccの空冷・水平対向8気筒ユニットで、スポーツカー世界選手権ではグループ6カテゴリーに向けた内容となっています。



シャシーは当初、鋼管のパイプフレームでしたが、序盤でアルミパイプに変更し、軽量化を果たしています。ボディは高速サーキットでの戦闘力向上を狙って空力を重視したロングテールのデザインが特徴です。



レギュレーションが変更になったのを機に重量面で有利なオープンボディの908/2(通称・スパイダー)を投入。以後908/3、908/4と改良を重ねて1981年まで投入されていたそうです。



スティーブ・マックイーンが製作と主演を務めた映画「栄光のル・マン(1971)」は、ル・マン24時間レースを舞台としたフィクション映画ですが、自動車レースを愛するマックイーンの意向で実際のル・マン24時間レース(1970)に本物のポルシェ908/2(48号車)でエントリーして、同じくエントリーした撮影機材を搭載した908/2とともにレースを戦いながら撮影を行ったのだとか。



ちなみにレースシーンにこだわり過ぎたせいで商業的には大失敗。8億円以上をかけたマックイーンの自主映画と揶揄されたそうです。



■その劇中車ポルシェ908/2スパイダーを再現して動画を撮影したい!

ここで紹介する「アートレーシング」で製作された劇中車ポルシェ908/2スパイダーのレプリカ車は、兵庫県でクリニックを営む森田医師の依頼で製作されたものです。



マックイーンと同じくレースが大好きな森田さんが、大好きな「栄光のル・マン」のシチュエーションを再現して動画を撮影したいという願いを叶えるため、愛知の「アートレーシング」代表・村手さんに製作を依頼しました。



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制作途中の908レプリカと関係者陣



完成後は実際に、鈴鹿サーキットで開催されるクラシックカー中心のレースイベント「バンカディ鈴鹿」にエントリーして、「栄光のル・マン」のパロディ「栄光のス・ズカ」の撮影を行ったそうです。



ちなみに、ろくにセッティングも行っていないシェイクダウンにもかかわらず、なかなかの好タイムで周回し、上位の成績でフィニッシュしたとのこと。



■競技用車両をベースにアルミ板で外装をイチから製作

サーキット専用のマシンということで、ベース車にはサーキット専用の設計でポルシェなど1970年代のレースカーをモチーフにして製作された「VIVACE」をチョイス。



鋼管パイプフレームで構成されたこの「VIVACE」をベースにして、外装をすべてイチから製作しています。



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VIVACEのパイプフレーム構造



その外装は、ほぼすべてをアルミの平板から製作されているというから驚かされます。じつは「アートレーシング」の村手さんは、アルミでカスタム車両のボディを製作するその世界では国内の第一人者と目されている人なんです。



取材時にはほかの依頼仕事のボディ製作を行っていましたが、1枚のアルミの平板を切り出し、専用のローラーマシンに掛けて膨らみを作ったり、あるいはコマを換えて絞りを入れたりして、みるみるうちにきれいな曲面のピースを製作する姿を目にすることができました。



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村手さんがボディパネル制作をおこなうようす



まるで厚紙を使って工作を行うかのような何気なさで工芸品のような雰囲気のパーツができていく様子からは、熟練の職人がもっている膨大な量の実績をこなしてきたオーラが感じられました。



驚きの再現度とそのディテール

■見事な再現性のポイントは模型からの拡大コピー!?

そんなボディの製作技術もさることながら、再現度の高いフォルム作りも目を見張るものがあります。



どうやってそのフォルムを再現したかを聞いてまたビックリしました。このポルシェ908のフォルムのガイドラインは、劇中車の精巧な模型(1/16スケール)を拡大コピーして作ったそうなんです。



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スティーブ・マックイーンのポスターと劇中車の模型



素人考えでは測定器で3次元の採寸を行って大きなロール紙に印刷して……と手の込んだ方法が思い浮かびますが、熟練の村手さんにとっては「拡大コピーのほうがカンタンで早い」とのこと。



「えっ、そんな方法で?」と思ってしまいましたが、実車を目の当たりにするとその完成度に唸るしかありませんでした。



■ボディワークの注目点

・ヘッドライト・カウルのフィッティング
特徴的な片側2眼のヘッドライトですが、ただ穴を空けて上から透明のカバーを被せるだけではスケール感がガタ落ちになってしまい、残念な仕上がりになってしまうので、わざわざアクリルカバーの厚み分の段差を作ってそこに固定する方法を採っています。



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特徴的なヘッドライト

・ラジエター吸気口の処理
ボディの製作でひとつ問題がありました。
本物は空冷のためラジエターはありませんが、このビバーチェは水冷エンジンなのでリヤタイヤの前にラジエターを備えています。



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ダクト付近のディテール



飾っておくならともかく、レースを走るならば吸入ダクトは必要と考えた村手さんは「ここしかない!」と、ドアの上面にダクトを設けてその問題を解決しました。そうといわれなければ違和感が出ないくらい自然に仕上がってているのはさすがです。
・外装のロゴなどはすべて手切りで製作
ゼッケンの数字を始め、「PORSCHE」をもじった「POPSCHC」のサイドデカールや各スポンサーのステッカー類、そして各部のピンストライプまで、すべてカッティングシートを手切りで製作しているそうです。



これも「印刷より質感がいいし手っ取り早い」という理由だそうですが、レース参戦当日のピットで直前まで貼り込み作業を行っていたんだとか。



できる範囲で、徹底的に本物に近づける村手さんの職人技とシャレが効いた遊び心に驚かされた1台でした。



取材協力:アートレーシング

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