この記事をまとめると
■マツダには現在ミニバンがラインアップされていない■昔は「MPV」や「プレマシー」といったミニバンがあった
■現在は3列シートを備えたSUVでファミリーユースをカバーしている
マツダの乗用ミニバンは「MPV」から始まった
現在、国産車でミニバンを揃えているのはトヨタ、ホンダ、日産の3メーカーだ。マツダ、スバルもかつてはミニバンをラインアップしていたが、いまではSUVやクロスオーバーモデルに注力している。ここでは、かつてあったマツダのミニバンを振り返ってみたい。
いわゆるマツダの乗用ミニバンが登場したのは、1988年の初代モデルとなるMPVからだ。ルーチェ用のプラットフォームを用いたクロスオーバーモデルであり、リヤドアはヒンジ式。ボディサイズは全長4465~4660×全幅1825×全高1755~1815mm。3リッターV6エンジンをトップに据え、2.5リッターの直4ガソリン、および2.5リッターディーゼルターボエンジンを揃え、4速AT組み合わされていた。駆動方式はFR/4WDである。乗車定員は2+3+3席の8人乗りだった。
マツダMPVがよりミニバンらしくなったのは、リヤスライドドアを備えてFF化された、ミニバンブーム真っただ中の1999年に登場した2代目からだろう。
ボディサイズは全長4750~4810×全幅1820~1830×全高1745mm。搭載されるパワーユニットは2リッター/2.3リッター直4、2.5リッター/3リッターV6の4種類で、ミッションは4/5速ATを組み合わせていた。すでにKARAKURIシート(キャプテンとベンチシートを両立)、2列目席の横スライド機構(右席)やスポーツグレードを用意していたのも特徴だった。

しかし、もっともマツダらしい上級ミニバンだったのが2006年にデビューした3代目MPVだ。キャッチコピーは「スポーツカーの発想で、ミニバンを変える」で、マツダLYプラットフォームの新採用でサスペンションはフロントがストラット、リヤがマルチリンクとなり、エンジンはノーズの軽さを求めた2.3リッター直4のNA、163馬力と、そのターボ、245馬力を搭載。
ホイールベースは2代目の2840mmから2950mmに伸ばされ、ボディサイズも全長4860×全幅1850×全高1685mmと拡大しつつ低重心化を狙った低全高がもち味。

装備の高級化はもちろんのこと、筆者を感動させたほどの改良が2008年に行われているのも、いまでも忘れられない思い出だ。そのマイナーチェンジでは内外装をリフリッシュ。一段と大胆な顔つき、心地よいシートを採用するとともに、オプションのスーパーリラックスシート(オットマン+スイング機構付きヘッドレスト採用)のスライド量を80mm伸ばし、最大410mmものスライドを実現。
その方法はエスティマのスーパーリラックスモード同様で、新たに2列目席右側シートに横スライド機構を新設定。そしてボディ剛性&足まわりを見直し、リヤホイールハウス部分を従来のスポット+シーラーからスポット+硬質なウェルボンドによる面接合に進化させている。剛性アップに加え、振動減衰にも効果絶大とのことだ。

さらにスタビリティに大きく影響するリヤサス取り付け部の剛性アップを施しつつ、ブッシュの硬度をダウンさせて乗り心地の質の向上を狙っている。ターボモデルの新デザインアルミホイールも剛性アップに貢献しているはずである。興味深いのは、そうしたリファインの最大の目的が振動の絶縁にある点で、マツダはそれこそが上質な乗り味の決め手と考えている(と、当時の開発陣から聞いた)。
さらに3代目MPVのデビュー当時から指摘されていた、ターボ&4WDモデルの6速に対してNAモデルの4速でしかないATを5速化した点も注目に値する。

当時、そのマイナーチェンジモデルを九州で長距離試乗したのだが、ターボ、NAモデルともに文句の付けようもない上質な乗り心地を示し、これまで以上にリニアなパワステの操舵フィール、NAモデルではATの5速化によるよりスムースで伸びやかな加速性能に大感動。いつまでもステアリングを握っていたくなったほどだった。そんなマツダMPVは惜しまれつつ2016年に販売終了している。
コンパクトミニバンモデルの「プレマシー」は3代目が一番いい
マツダの乗用ミニバンとして、よりコンパクトなボディサイズを持つのがプレマシー。5ナンバーサイズだった初代は1999年にデビュー。

リヤヒンジ式ドア、全高1570~1590mmの低全高ボディに2/3列シートの5/7人乗りを用意。駆動方式はFFと4WDを揃えていた。パワーユニットは1.8リッター直4、2リッター直4の2種類で、ミッションはいずれも4速ATが組み合わされていた。
2005年登場の2代目プレマシーはプレマシーとして初のリヤスライドドアを採用。6+ONEパッケージ&カラクリ7thシートを新採用したのもニュースだった。

ボディサイズはフォードグループのプラットフォームを使う都合もあって全長4555×全幅1745×全高1615mmの3ナンバーに拡大されている。エンジンは2リッター直4、2.3リッター直4を用意。
もっとも、走る歓びを追求したZOOM-ZOOMコンセプト立ち上げ直後の新型車ゆえ、ファミリー層狙いのミニバンにして「キビキビしすぎた」走りのキャラになっていたのもまた事実だった。

当時の筆者の試乗記(試乗メモ)を読み返すと「走り出しからアクセルレスポンス鋭く前後にギクシャク。ステアリングを切れば瞬時に軽快な回頭性を示す代わりに想定外の強い横Gがいきなり発生したりして車体はグラリ……。運転の仕方によって同乗者は山道でなくとも終始、体が揺すられ、クルマ酔いしやすいかったのだ」と記している。
個人的に最上のプレマシーと呼びたいのが、2010年デビューの3代目。現在のマツダデザインの源流ともいえるNAGAREデザインを本格採用した車種であり、全長4585×全幅1750×全高1615mmの大きすぎないボディはCd値0.3という優れた空力性能のもち主。

リヤスライドドアであることはもちろん、3代目プレマシー開発責任者の松岡英樹氏は先代プレマシーのユーザーなのだが「自分の子どもを乗せるとすぐに酔ってしまう。新型の開発にあたって、それを何とかしたかった」なんて告白してくれたぐらいで、走りの進化(快適性)、ミニバンに適するチューニングの進化も著しい新型だったのだ。
とくに筆者の印象に残っているのは、シートの欧州車に匹敵するかけ心地のよさ、先代のキビキビしすぎるクルマの動きを押さえた安定感と快適感に満ちた操縦性と当時のミニバンクラス最上の、ホンダ・ストリームを凌ぐ乗り心地、そして80km/hを超えたあたりから変貌する、欧州車風味の硬く引き締まったスポーティな乗り味、直進性のよさなどだ。

なにしろドイツのアウトバーンで鍛えられて開発されたのが3代目プレマシーなのである。

マツダのミニバンには、そのほかオートフリートップもあったボンゴフレンディ、ビアンテもあったが、ここでは文字数の制限もあり、割愛させていただきたい。

最後に、なぜいま、マツダにミニバンがないのか? という点だが、ひとつはマツダのデザインコンセプト「魂動デザイン」を箱型のミニバンボディで再現するのが難しいことが挙げられる。そしてSKYACTIV技術を核に走りを追求するマツダにとって、走りのダイレクト感をミニバンに求めるのはかなり難しい。それに加え、近年のマツダ車は国内、北米市場などで売れ筋のSUVをメインに開発が行われ、CX-8、CX-80でかなり実用的な3列シートモデルをラインアップすることで、多人数乗用車というカテゴリーをカバーできている事実も、早期にミニバンから手を引いた理由といっていいだろう。