この記事をまとめると
■現時点でホンダと日産の経営統合に向けた検討がどんな結末を迎えるかはっきりしていない



■経営統合が破断となれば両社に待ち受ける未来はかなり厳しいものとなりそうだ



■車載OSが自動車メーカー以外から提供されるようになれば個性的なブランドは生き残れる時代になるかもしれない



日産とホンダの経営統合に暗雲

2024年12月、ホンダと日産が経営統合に向けた検討を始めることを公表した。コソコソと隠れて交渉することで誤った情報が出て、株価などに影響が出てしまうことを防ぐために検討開始を明言したのだろう。



日本社会の習わしとして上場企業のトップが集まって記者会見を開けば、「世界3位規模の自動車メーカーが生まれる!」といったゴールが見えていての発表と感じた向きも少なくないだろうが、業界筋では早い段階から疑問の声が出ていたのも事実。



実際、筆者も2024年12月の経営統合検討開始を受けてWEB CARTOPに寄稿したコラムにおいて『統合してもうまくいかないと結論づけられれば、このプロジェクトがポシャってもおかしくない』と書いている。この段階で、ネガティブなことを記す必要もないと思ったが、それが正直な印象だった。



ホンダと日産の経営統合に「破談」報道! 2社が進むこの先のシ...の画像はこちら >>



現時点、ホンダと日産の経営統合がどのような結末を迎えるのかはっきりしたことはわかっていないが、統合計画が破談に終わったときに両社はどのように生き残りを図っていくのだろうか。



まずは日産の今後を考えてみよう。



日産の危機が表立って注目を集めたのは2024年度上半期(4~9月)の決算発表において、当期純利益が前年同期比マイナス93.5%(2023年度上半期:2962億円、2024年度上半期:192億円)と大幅減になったときだったろう。このとき、経営対応としてグローバルでの生産能力20%削減、9000名のリストラを発表したことも、危機的状況であることを感じさせた。



ホンダと日産の経営統合に「破談」報道! 2社が進むこの先のシナリオとは
日産の2024年度上半期の決算発表会の様子



利益が大幅に減っている理由として、新車はそこそこ売れているけれどインセンティブ(販売現場的には値引きの源泉)を増やしたことが原因といった好意的な理解もできたが、数字をみると2024年暦年の生産・販売状況は芳しくない。実態としても、日産は新車が売れておらず、生産能力が余っている。



実際、日産が発表した数字をそのまま記すと、2024年のグローバル生産台数は314万4470台(前年比マイナス8.7%)、グローバル販売台数は334万8687台(同マイナス0.8%)となっている。



暦年での販売台数を見ると微減と思えるが、直近の状況に注目すると印象は大きく変わる。2024年12月のグローバル販売は29万2517台で前年比マイナス7.9%、さらに12月の生産台数は22万710台で前年比マイナス19.3%となっている。さすがに、この数字を見るとインセンティブ云々ではなく、単純に売れていないから経営危機に陥っているというほかない。



ホンダと日産の経営統合に「破談」報道! 2社が進むこの先のシナリオとは
日産の生産ラインの様子



ただし、こうした現状は対策が取りやすいともいえる。



生産や販売の状況は悪くないのに経営が悪化しているのであれば、組織のどこに問題があるのかを明らかにして対応しなくてはならないが、いまの日産においては、シンプルに「売れるモデルを作ればいい」といえるからだ。



とはいえ、これから「売れるニューモデル」を開発するのは現実的ではないのも事実。現段階で爆発的ヒットになりそうなニューモデルの開発がかなり進んでいないと、来年、再来年には間に合わないからだ。各種報道によれば、ホンダと破談する要因は日産側のプライドだったというが、プライドを守るためには大ヒットが期待できるニューモデルの投入が必須といえるのだ。



日産だけでなくホンダだって安泰とは限らない

自動車メーカーの商品計画は外部から伺い知れない情報であるが、もし日産の経営陣が開発途中のモデル情報から「もうすぐ大ヒット商品が出る」と確信しているのであれば、生産能力20%削減や9000名の首切りといったリストラ策を発表する必然はないわけで、おそらく大逆転を期待できる状況ではないのだろう。



つまり、売れるニューモデルの投入ができるかどうかは未知数であり、そこに賭けるのはギャンブルと判断したのだろう。だからこそ、ホンダと経営統合について検討するというテーブルについたのだといえる。



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日産とホンダの社長の2ショット



では、直近で生産台数が前年同期比で約2割減、売れる商品を作れない日産が生き残るためにやるべきことはなんだろうか。単独での生き残りを図るのであれば、工場や人員のリストラによって固定費を大きく減らしつつ、同時に売れる商品を開発するという愚直な企業経営をしていくしかないだろう。



もうひとつのシナリオは、経営統合をするにふさわしい新しいパートナー企業を見つけることだ。ただし、日産のプライドを守ってくれるようなパートナーが簡単に見つかるとは思えない。

投資ファンドが日産の再生に名乗りを上げる可能性もあるが、それで明るい未来が描けるとはいいがたい。



最近でいえば、日本を代表する企業だった東芝は、ファンドのもとで「売れる事業部」から切り売りされ、実質的に解体され、上場廃止となった。日産に売れる事業部が存在するかの疑問もあるが、EVのグローバル展開を考えているメーカーのなかには日産の工場(生産設備や熟練工など)を買いたいという企業もありそうだ。



ホンダと日産の経営統合に「破談」報道! 2社が進むこの先のシナリオとは
日産の工場で働く工員の様子



とくにトランプ政権でのアメリカファースト政策に対応するには、スピーディに北米の生産拠点を整備する必要がある。そうしたニーズが高まっていけば、日産の北米工場を高く売り抜けることも期待できそうだ。



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日産の北米工場の生産ライン



さらにスケールを大きくすると、ほしい工場や人員を手に入れるために日産を買収しようとする企業が出てくるシナリオも考えられる。それでも不要な部署や設備まで維持するとは考えられないので、いずれにしても現状からすると解体されたように見えるだろう。



さて、破談となったもう一方のホンダについても明るい未来を描くのは難しい。



そもそも日産との経営統合は、BEVがメインとなる時代におけるモーターやバッテリーの調達力アップやSDV(ソフトウェアによってアップデートできるクルマ)開発に必要な規模感を求めてのことだった。



ホンダと日産の経営統合に「破談」報道! 2社が進むこの先のシナリオとは
ホンダ 0シリーズの2台並び



経営統合は破談となっても、当該分野における日産との協業関係を維持することは重要であろう。今回の破談においてホンダが単独でBEVやSDVの対応をしていくことになるかもしれないが、販売規模からするとホンダ単独で開発をするのはハードルが高いというのが現時点での見立てとなる。



しかしながら、SDVについていえば、その肝となる車載OSについて個社が開発するというビジネスモデルが正解かどうかはわからない。

コネクテッド時代には、車載OSを押さえることが利益の源泉になると自動車メーカーは考えているだろうが、パソコンでもスマホでもアップル以外は、ハードウェアメーカーがOSを作っているケースがほとんどない(OSの開発サイドがハードウェアを作るケースはある)ことを考えると、自動車においても独自OSが必須になるとは限らない。すでにサプライヤーにおいては、自動車メーカーへ供給できるよう独自の車載OSを開発しているケースもある。



ホンダと日産の経営統合に「破談」報道! 2社が進むこの先のシナリオとは
CES 2025で車載OS「ASIMO OS」を発表した様子



SDVの根っことなる車載OSを他社に抑えられてしまったら自動車メーカーの利益率は下がってしまうので経営者視点では認めがたいかもしれないが、ソフトウェアによる進化スピードや機能のプラスといった点を考えると、車載OSの共通化はユーザーメリットにつながるはずだ。



話が逸れてしまったが、SDVに対応した車載OSが、自動車メーカー以外から提供されるという時代になれば、スケールを追いかけなくとも個性的なブランドがそのままに生き残っていけるという時代になるかもしれない。そうなればホンダも日産も単独で存在できるだろうし、他の国産メーカーも個性を残したまま存続できるといった未来像も描けそうだ。

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