この記事をまとめると
■2025年3月7日に全日本スーパーフォーミュラ選手権2025シーズンが開幕する■2025年シーズンはレースフォーマットが大きく変更された
■マシンを操るドライバーにも注目株が揃った
スーパーフォーミュラは「"ガチ″の急上昇エンターテイメント」だ!
国内最高峰かつ、世界的にみてもF1に次ぐ速さを持つモータースポーツシリーズ「全日本スーパーフォーミュラ選手権」が、3月7日(金)から9日(日)にかけて、三重県の鈴鹿サーキットで開幕するのに先立ち、シリーズを主催する日本レースプロモーション(JRP)がリアルレーシングシミュレーター「グランツーリスモ」を世に送り出したポリフォニーデジタルの東京スタジオで、プレスカンファレンスを開催した。
冒頭挨拶に立ったJRPの近藤真彦会長からは、昨シーズンにシリーズ過去最高観客動員を記録し、いま勢いに乗っていることから「ガチの」急上昇エンターテイメントであると力強いアピールがなされた。
それを受けて、JRPの上野禎久社長からは、レース開催内容の改良点、観客やビジネスパートナーに向けたマーケティング施策について説明が行なわれた。

レースフォーマットの変更でレース数増加
今シーズンは7大会12レースを開催。そのうち5大会を行う鈴鹿、もてぎ、富士の各大会は1大会2レース制を導入。金曜日に60分間のフリー走行を2回、土曜日に予選とレース距離165kmの決勝レース、日曜日に予選と185kmの決勝レースを実施する。土日の決勝でタイヤ交換義務を消化するためのピットインのタイミングも異なり、2日間で異なるレース戦略が求められるようになった。

なお、オートポリスとSUGOの大会は1大会1レース制で行なわれ、土曜日の午前に90分間のフリー走行、午後に予選、日曜日に決勝レースとなるのは従来同様だが、日曜のレースということで、それまでピットに入れる周回数は10周完了時点と制限されていたものが、1大会2レース制の日曜レースと同様に制限なしへと変更されている。

タイヤが変わりF1に必要なポイントも1段階引き上げ
そのほか、横浜ゴムがワンメイク供給するADVANレーシングタイヤは、再生可能原料およびリサイクル原料の比率を開発当初35%を目標としていたものが、実際には46%へと大幅に高められて全戦に投入されることとなった。レースのエンターテイメント性を維持しながら、カーボンニュートラルに向けた取り組みを並行して行うスーパーフォーミュラとしては、革新的な一歩といえる。

また、F1参戦に求められるFIAスーパーライセンスポイントが最大35ポイントへ引き上げられた。これは、スーパーフォーミュラの価値が認められた結果であり、今後ますます海外からシリーズに興味を示す強豪ドライバーが増え、シリーズの競争レベルが向上するものと予想される。
金曜フリー走行の復活がもたらすマーケティング効果に期待
一方、マーケティング面に目を移すと、新たに4名の海外勢ドライバーが参戦することから海外マーケティングを強化。VIP向けホスピタリティの利用やプレミアムな体験機会が得られる100万円のゴールドパスをはじめとした富裕層向けビジネスの強化も図られる。欧米でとくに顕著だが、レース会場というのは観客席側とパドック側では世界が異なり、パドック側は「大人の社交場」なのだ。
だからといって従来のファンを置き去りにはしていない。JRPが従来から取り組むファンが友人・知人を連れて行きやすい環境づくりや、ヒューマンモータースポーツとしての露出、そしてSNSやデジタル配信(今季からはDAZNとFODでも視聴可能だからF1ファンにもリーチする)も巻き込んだ「にわかファンづくり」に、SFgoアプリを通じた無線・オンボード映像配信など、次の50年を見据えて掲げたNEXT50と呼ばれる取り組みはそのまま継続される。

子供向けの職業体験プログラム「キッザニア」とコラボレーションしたout of kidzaniaも継続されるし、某エンジニアがSNSで発信したことで火が付いた「スーパーフォーミュラーメン選手権」や、富士スピードウェイに多数の縁日を出店したり花火を上げたりといった「スーパーフォーミュラ夏祭り」の開催も検討されているそうだ。

しかし、マーケティング面で今季もっとも大きなポイントとなるのは、「金曜日の活用」ということだろう。日本のメジャーなモータースポーツシリーズでは、リーマンショック、東日本大震災などを境に、主にコスト面を理由として金曜日のフリー走行が廃止もしくは縮小されてしまった。スーパーフォーミュラも例外ではなく、金曜日の走行は夕方の1回に制限されていた。
それが、今シーズンから金曜日に2回のフリー走行枠を設けて復活する。平日ということもあり、シリーズやチームを支える多くのビジネスパートナーを招き入れやすくなり、企業マッチングの場に活かすことができる。わざわざ休日を返上してまでサーキットで商談をしなくてもよくなったということだ。
また、将来エンジニアやものづくりの世界を目指す学生の校外学習として活用してもらうことや、サーキット周辺の学生を招待してスポーツの魅力を訴求することなど、次世代ファンの育成やリクルーティングに活かされることも、JRPは目論んでいる。休日にはできない、平日だからこそ実現可能な取り組みを創出し、シナジーが生み出されることを期待しているのだ。
王者・坪井や日産系ドライバーの電撃参戦など注目ドライバーが集結
さて、モータースポーツとしての側面に話を戻そう。「最高峰のHUMAN MOTORSPORTS」を掲げるスーパーフォーミュラ、やはりその中心はマシンを操るレーシングドライバーだ。

今回のプレスカンファレンスには、2024年シーズンのドライバーチャンピオンである坪井翔選手(1号車・VANTELIN TEAM TOM'S)、2024年はスーパーフォーミュラの開発ドライバーを務め、今シーズンは全日本F3選手権でチャンピオンを獲得して以来8年ぶりのフォーミュラ参戦となる高星明誠選手(20号車・ITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPUL)、石川県出身のブラジル人ドライバーであり、グランツーリスモ初代世界王者のイゴール・オオムラ・フラガ選手(65号車・PONOS NAKAJIMA RACING)、WEC世界耐久選手権でF1元世界王者のジェンソン・バトンらとともにハイパーカークラスのポルシェで活躍した、デンマーク出身の若手オリバー・ラスムッセン選手(19号車・ITOCHU ENEX WECARS TEAM IMPUL)が登壇した。

それぞれ今シーズンに向けた意気込みを漢字一文字で表現し、抱負を語った。
坪井選手はチャンピオンを再び勝ち取るという意味を込めて「再」を選択。昨シーズン富士スピードウェイで行なわれた3レースをすべて勝利した一方、鈴鹿では一度も勝てなかったのが心残りだとし、今シーズンは鈴鹿での勝利にこだわる。

連覇に向けては、今シーズン用の新タイヤとレースフォーマットへの適合と順応性、さらに予選できっちりとトップ3に入って細かくポイントを取っていくことをポイントに挙げた。直近の5年間でスーパーGTで3回、スーパーフォーミュラで1回チャンピオンを獲得し、いま最も「乗れている」ドライバーといえる。今シーズンも間違いなく選手権争いの真ん中にいることだろう。
高星選手は爆発の「爆」を選択。スピードも結果も爆発させて、インパクトのある結果を残したいとこの文字を選んだ。トヨタとホンダの2社がエンジン供給を行うスーパーフォーミュラでは、必然的に両社と契約を結んでいるドライバーがシートを獲得する傾向にあるなか、日産の育成出身ドライバーが参戦するのは稀なケースだ。とくに高星選手は今季スーパーGTでは日産のエース車両である23号車に加入。奇しくもGTのパートナーである千代選手以来の日産ドライバーのフル参戦となる。

そのことについて質問された高星選手は「近年日産の育成ドライバーが(トップ)フォーミュラに乗るということが無かったので、僕自身もそうですけど、僕の後のドライバーに対しても、結果を残すことで日産ドライバーがこれからもスーパーフォーミュラに乗り続けれられる道を切り開けたら」と自身だけでなく後輩たちのためにも結果を追い求める姿勢を示した。
続くイゴール・オオムラ・フラガ選手が選んだのは「掴」だ。

グランツーリスモの元世界王者であり、シムレーサーとしての実績に加え、今シーズンからF1のレッドブルのシートに座るリアム・ローソンに競り勝ってシリーズチャンピオンを獲得したこともある実力者。
当日はグランツーリスモで実際に鈴鹿のタイムアタックを実演しており、リアルとバーチャルの融合を目指すJRPからの期待も大きい。

最後にデンマークからやってきたオリバー・ラスムッセン選手。「気」という漢字を選んだ。今シーズンは新たな挑戦のシーズンとなり、さまざまなことに取り組むなかで必要なことはメンタルを安定させることだというのが理由。

初めてにしては上手に漢字を書いており、インタビューアーの質問に対しても「Yes」ではなく「はい」と応えるなど、落ち着きと順応性の高さを示していた。昨シーズンは低迷してしまった名門インパルを、新加入の高星とラスムッセンのふたりで復活に導けるか要注目だ。
今回は登壇しなかったドライバーも個性的な面々が揃う。全22名のドライバー、そしてともに戦うチームスタッフに注目しながら、ぜひサーキットやさまざまなライブ配信サービスで楽しんでもらいたい。