この記事をまとめると
■かつての新車購入は値引きなどの条件を複数店舗で比較して決めるのが一般的だった



■ディーラーへは「カタログを貰いに行く」という用事で訪れる人も多かった



■紙カタログの廃止や働き手不足による店舗併合などが増えお客への接し方に変化が出ている



ディーラーに行くきっかけに「カタログ」があった

その昔、新車購入に際しては複数回の商談を重ね、値引きなどについて有利な条件を引き出し契約に至るというパターンが目立っていた。いまでは店頭一発商談で契約に至ることも珍しくないが、過去には複数の購入候補車同士を値引き額などについて比較しながら交渉を進めることが当たり前だったために、段階を踏む必要があった。



しかしいまは、メーカー同士でベタベタに被るライバル関係にあるモデルもほとんどなくなっており、商談ポイントもシンプルとなっているので、商談に時間を割く必要もなくなっているのである。



また、昔は「商談を始める前にカタログをもらいにきただけ」として、商談予定先ディーラーの様子を見に行くことも勧められていた。令和のいまでも新車ディーラーの敷居はそれほど低くなっていないが、そんな「敷居の高い」ディーラーへ行くいいきっかけとして、「カタログをもらいにきた」という口実(ワザ)があったのだ。



しかしいま、紙ベースのカタログがなくなろうとしている。つまり、商談の「きっかけ」がなくなろうとしているともいえ、新車ディーラーとの距離がさらに広がろうとしている。「試乗にきた」というものもあるだろうが、商談しているのにもかかわらず、運転免許証などの個人データを提供しないと試乗できないディーラーも増えてきているので、その点で抵抗感をもつひとも多いだろう。



紙カタログの廃止でディーラーの敷居はさらに高くなる! 人手不...の画像はこちら >>



いまどきは「事前予約はありますか」などと聞いてくる新車ディーラーもあるので、事前にかなり検討して希望予算を絞り込むなどしてから、「いざディーラーへ」と、まさに覚悟を決めて向かうというのも大げさではなくなっているような気がする。若い世代は紙のカタログがなくともたいした抵抗はないだろうが、自動車ユーザーは若い世代が多いわけでもない。セールスツールのひとつがなくなり、リズムを崩す世代がいるのもまた現実なのである。



紙カタログの廃止でディーラーの敷居はさらに高くなる! 人手不足からのDX化と集客のジレンマに悩む「新車販売店」のいま
クルマの紙カタログの陳列様子



入りやすい店にしようと店舗の移転改築が増加

いまどきはそれまでまったく縁のなかった、「完全フリー」な訪店客というものは少ないともされ、既納客への乗り換え促進が新車販売の主要なスタイルとされているが、それでも、その都度メーカーとかにこだわらず、「気に入った新車がほしい」というひとは存在する。



少子高齢化、そして「失われた30年」などともいわれる長期の景気低迷など、新車販売を取り巻く環境はけっしてよくはない。発表1週間も経たずにスズキ・ジムニーノマドの受注台数が約5万台となったことで、新規受注を停止するというトピックは、飛びぬけて「あっ、いいな」と思う新車ならば、お客もディーラーに殺到するし、日本の消費者の購買力にもまだまだ期待できるともいえるが……。



紙カタログの廃止でディーラーの敷居はさらに高くなる! 人手不足からのDX化と集客のジレンマに悩む「新車販売店」のいま
スズキ・ジムニーノマドのサイドスタイリング



DX(デジタルトランスフォーメーション)は我々の生活をより効率化させるだけではなく、豊かなものにしてくれているのは間違いない。

ただ全体では「昭和臭」のただよう日本の新車販売の世界において、部分的にDXが進んでしまうとひずみが出てしまうのはやむを得ないのかもしれない。



日本より加速度的に海外ではカタログのデジタル化は進んでいる。店頭を訪れるきっかけが減ると、同じ販売会社であっても幹線道路沿いにある新しくて大型の店舗(入りやすい)などと、市街地に昔からある小規模店舗では集客力にも店舗イメージでの入りやすさの違いから、集客力にも差が出てくる。



なので、新規出店というケースはほとんどないのだが、幹線道路からはずれた場所にある店舗を一旦畳み、幹線道路沿いに綺麗で敷地の大きい店舗を新築して移転するという動きが目立ってきている。



紙カタログの廃止でディーラーの敷居はさらに高くなる! 人手不足からのDX化と集客のジレンマに悩む「新車販売店」のいま
大通りに面した自動車ディーラー



そもそも筆者の生活圏内では80年代からほとんど新車ディーラーの店舗は減っていない。それでも入りやすさを強調した立地や建物に改築したり、移転する動きは目立ってきている。



いまの市場規模(バブル期の半分程度)では、店の数がそのまま販売シェアに反映されることもなくなってきた。またセールスマンやメカニックといった「働き手不足」も深刻となってきている。商談のきっかけが大きく変わろうとするなか、店舗集約なども今後進んで行くのではないかと見ている。

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