この記事をまとめると
■4WDのドライブモードが切り替えているのはESC(横滑り防止装置)の制御度合い■さまざまな路面に応じた制御をドライバーが選ぶことで安定して走ることができる
■非常に滑りやすい路面を走る際には電子制御をオフにするのも有効的な手段のひとつ
ドライブモードに応じてESCの度合いを調整している
エンジン、ハイブリッド、ピュアEVなどなどさまざまなパワートレインを選ぶことができる現在だが、パワートレインのキャラクターをユーザーが選ぶのは購入時だけではない。
最近のクルマにはいろいろなドライブモードが設定されており、状況に応じて適切なモードを選択する必要もある。
街乗りメインのコンパクトカーでもスポーツモードが設定されていることは珍しくないし、SUVタイプの4WDともなれば多彩なドライブモードが設定されていることは多い。
たとえば、三菱のピックアップトラック「トライトン」には、ノーマル/エコ/グラベル(砂利道)/スノー(雪)/マッド(泥)/サンド(砂)/ロック(岩)と7つのモードが用意されている。エコモードは2輪駆動時にしか選べなかったり、ロックモードは4駆のローギヤでしか使えなかったりするので迷うことはないのかもしれないが、このように複数のドライブモードを設定する理由はなんだろうか。

アクセル操作に対してマイルドな特性にするエコモードは別として、多彩なドライブモードを設定できる背景には、いまどきのクルマにはESC(横滑り防止装置)が義務化されていることが挙げられる。
ESCの機能は車両を安定させることで、技術的にはパワートレインの出力とブレーキの4輪独立制御によって行っているのが基本だ。滑りやすい路面で4輪ともスリップするときには出力を絞ってやるし、1輪だけタイヤが滑ったときには、そこだけブレーキをかけることでグリップを回復させることもある。

こうした制御を瞬時に行うことで車両姿勢をできるだけ乱さず、アクシデントを可能な限り避けようというのがESCの役割といえる。つまり、タイヤのグリップを路面や運転に応じて最大限に引き出す電子制御だと理解できる。
しかしながら、そもそも論として電子制御によって常にタイヤグリップを最適化できるのであれば、複数のドライブモードを設定する必要はないと思ってしまうかもしれない。

悪路走行ではESCオフも選択肢のひとつ
ただし、そんな単純な話ではない。たとえば、ストリートでは安全につながるESCの制御が、サーキットを走るときには介入が早すぎると感じることもある。スポーツドライビングを楽しむためにサーキットモードやトラックモードといった制御を用意しているスポーツカーは少なくない。

それは、SUVや4WDにおけるドライブモードでも同じことがいえる。
前述したトライトンのドライブモードにおいて、砂利道を意味するグラベルモードはスポーツモードに近いイメージで、ステアリング操作に応じて、後輪のブレーキ制御をすることで、より曲がりやすいようなドライブモードになっている。

マッドやロックといったドライブモードも、それぞれ制御の方向性は異なっている。実際にオフロードコースで体験した感想をいえば、マッドモードではタイヤパターンに泥が入り込んでしまわないよう、わざと空転させる制御だと感じた。一方、ロックモードでは可能な限り空転を抑え、ゆっくりと岩場を走破しやすいような制御となっていた。

もしドライブモードの切り替えがなく、マッドモードを使わなければ走破できないようなシチュエーションだったとしたら、最初はスリップを最小限に抑えることで走れても、最終的にはタイヤパターンに泥が詰まってグリップが大きく失われてしまうだろう。
逆に、岩場でタイヤを空転させるのは地面を崩してしまうので危ない面もある。適切なドライブモードを選ぶことは走破性を高めるし、電子制御を使いこなすことはドライバーの役目でもある。
それは、ドライブモードの設定がないクルマでも同様だ。
ぬかるみにハマってしまうなど非常に滑りやすい状況において、ESCオンの状態ではスリップ制御が働いて、4輪とも駆動を伝えられなくなることもある。そうした場合は、ESCをオフにしてタイヤを空転させることで脱出できることもある。

ESCオフにすれば必ず脱出できるとは限らないし、オフ状態でのアクセルワークには高度なテクニックも要求されるが、最終手段としてESCオフという選択があることは覚えておきたい。