前に中国車が走っていると車間を開けるという人も……
タイは中国人の間で海外渡航先として人気の高い国。そのためか、スワンナプーム国際空港内のあちこちには中国語の看板があり、街なかでも中国語の掲示や看板をよく見かける。また、バンコク市内中心部の激安スーパーには、いつでもお土産をまとめ買いする中国人観光客でごった返している。
もちろんタイの人たちの間にも、家電製品や携帯電話などの中国ブランド製品がよく出まわっている。2~3年前に空港から乗ったタクシードライバーが、前方のバスとやたら車間距離を開けて走っていたため不思議に思っていると、「前のバスは中国製だから、いつ故障して停車するかわからないから距離を置いている」と語ってくれた。
さらに「俺のスマホは中国製だけど、調子が悪くて仕方ない」とも語った。いわゆる“あくまで個人の感想です”の世界だが、自動車生産では“東南アジアのデトロイト”と呼ばれ、家電などさまざまな製品の生産拠点となっているタイのひとたちは、中国製、というよりも中国ブランドを多少信用していない面はあるようだ。
今回のモーターエキスポの会場内でBYDの貨物バンとなる「T3」が置いてあった。BYDも、いよいよタイ市場デビューか……、などと思い近寄ると何か違和感を覚えた。その違和感の正体は、車体の前後中央の“BYDエンブレム”に被せるように、“EV”というステッカーが貼ってあったのだ。気がつくと展示車のまわりにもブランドを誇示するようなものはなかった。
上海汽車はMGブランドのタイ国内での現地生産と販売を行っているが、やはり極力“上海汽車のブランド”という中国車臭を消そうとしている様子が窺える。
市民権を得たブランドであっても全面アピールは難しい?
BYDならば、すでに日本でも路線バスなどで販売実績もあるので、タイでもそのままBYDブランド車としても大丈夫のような気もするが、やはり前述したタクシードライバーのようなイメージを中国製品に持つひとが多いのかもしれない。
タイ在住経験の長い人によれば、「以前よりもタイに住む日本人のプレゼンスは下がっています。昔ほどタイ人も日本人をリスペクトはしていませんよ」という。
そのなかでは、たとえBYDであっても、いきなり中国ブランドを前面に押し出してのプロモーションはリスクが高いと考えて、今回はバッジを隠したのかもしれない。

日本車のレベルがどうなっていようが、圧倒的な販売シェアを支える強固な販売ネットワークなどが整備されている状況下では、中国ブランドは“EVでは進んでいる”としても、政府の電動化への強い方針転換などがない限りは、日本車のシェアを崩すことは、かなりの体力と時間のいる話。ただ、そんな日本車の“サンクチュアリ”といえるタイ市場で、中国車は着々と販売実績を増やすべく、知恵を絞っているのも確かな話である。
