廉価グレードがあることで上級グレードが売れるという法則

日産のフラッグシップサルーン「フーガ」には、電動チルト&テレスコピック機能などの装備を簡略化した「Aパッケージ」なる隠れグレードが用意されている。また、キング・オブ・ミニバンといえるトヨタ・アルファードの2.5リッターガソリンエンジンには、運転席側のパワースライドドアが省かれるなど車格を考えると装備が貧弱なグレードが用意されていたりする。



知られざるニーズがあった! 高級車なのに「簡素」な廉価グレー...の画像はこちら >>



エントリーモデルであれば、こうした装備を不要と思うユーザーもいるだろうが、フーガやアルファードといった高級車を購入する層が、装備をケチって少しでも安く買いたいというマインドが強いのかといえば疑問だ。



マーケティング用語に「極端回避の法則」というものがある。これは行動経済学において、カスタマーは一番安い商品やもっとも高額なサービスを選ぶことを敬遠する心理があるというもので、具体的には中間的な価格帯の商品が動きやすい傾向になる。そのためビジネス用語では「松竹梅の法則」などということもある。そして、竹にあたる中間価格の商品の利益率をもっとも上げておけば、自然と儲かるということもよく知られている。



知られざるニーズがあった! 高級車なのに「簡素」な廉価グレードが用意されるワケ



こうした心理的なマーケティングというのは自動車業界でも古くから利用されている。もっとも、大衆車では松竹梅の法則がうまく働くが、逆に高級車になるともっとも高いグレードが売れ筋になることもあり、必ずしも極端回避の法則が万能的に通用するとは限らない。



その意味では、それぞれのカテゴリーにおいてフラッグシップであるフーガやアルファードに「松竹梅の法則」のために廉価グレードを設定する意味があるかといえば疑問もある。しかし、これらの廉価グレードは長く存在している。つまり、しっかりと市場ニーズがあるというわけだ。



事故などの長期代車として活用されることも

そうしたニーズのひとつとして無視できないのがレンタカーだ。レンタカーというと旅先などで借りるもの、マイカーを持たないユーザーが必要に応じて借りるものというイメージが強いかもしれないが、事故対応での代車ニーズというのも無視できない。



とくに追突事故など0:100の事故では被害者側に、修理期間ずっと“同等の車両”を代車として提供することが求められる(加害者側が任意保険に入っている場合)。

たとえば、ヤリスのオーナーが被害者になったときは、同等クラスのコンパクトカー(マーチやフィット、MAZDA2)などが提供されるし、ハイブリッドカーであれば同クラスのハイブリッドカーを提供することになる。基本的に車両のアップグレードもダウングレードもできない。



知られざるニーズがあった! 高級車なのに「簡素」な廉価グレードが用意されるワケ



つまり、被害者側のクルマがアルファードであれば、LLクラスのミニバンを貸し出すことになる。そうしたニーズを考えると、少しでも安く購入できるグレードがあることは、レンタカー会社にとってはメリットがあることがわかるだろう。



ただし、グレード数が多いということは、それぞれで燃費や排ガスなどの試験を受けるコストがかかり、また製造時の作り分けによるコストもかかる。これから高齢化などにより日本の自動車市場が縮小していくといわれているなかで、細かいグレードの作り分けをすることは難しくなっている。気付いている人もいるだろうが、近年の新型車で数が出ないモデルではモノグレードであることが当たり前になっているくらいだ。



こうして考えると、国内ではトップクラスに数が出るモデルであるアルファードはともかく、フーガのようなさほど売れていないモデルについては徐々にグレード整理されていくと考えるのが妥当だろう。いまや松竹梅の法則と言っていられない時代になってきている。

編集部おすすめ