低燃費タイヤには統一マークが表記されているが……
クルマの性能というのは、だいたいトレードオフの関係になっているものが多い。直進性にすぐれたクルマは曲がりにくいし、パワーがあれば燃費が悪い。居住性がよければ、大きく重たいクルマになるし、高剛性ボディと軽量化の両立も難しい。
これはタイヤにも当てはまり、燃費のいいタイヤ、つまり転がり抵抗の少ないタイヤはグリップが低い!
タイヤには、①クルマの荷重を支える、②トラクション=クルマの力を伝える(駆動・制動)、③路面からの入力の緩和、④方向を転換する(直進・コーナリング)という役割があり、これを「タイヤの四大機能」という。
この四大機能に「燃費」という要素は入ってこない。
つまり、仮にどんなに燃費がよいタイヤでも、グリップが悪ければ、ゴミを吸わない掃除機と一緒で本末転倒もいいところになってしまう。
そこで、そうしたいき過ぎた燃費重視のタイヤが普及しないように、(一社)日本自動車タイヤ協会では、低燃費タイヤ等のラベリング(表示方法)制度を導入し、転がり抵抗がAAA、AA、A、B、Cの五段階、ウエットグリップ性能をa、b、c、dの四段階で評価し、転がり抵抗性能の等級がA以上で、ウエットグリップ性能の等級がa~dの範囲内にあるタイヤを「低燃費タイヤ」と認め、統一マークを表記するようになった。
つまり、このグレーディングシステムで低燃費タイヤと認められれば、低燃費と安全性が一定以上のレベルを満たしているといえるわけだが、じつは大きな盲点も……。
この認定で、一番理想といえるのは、「AAA/a」のタイヤ。(例えばブリヂストンのECOPIA EP001Sやヨコハマ BluEarth-1 EF20、ダンロップ エナセーブ NEXTⅢ)

一方で、転がり抵抗性能がBグレードで、ウエットグリップ性能がbグレードだったりすると、「低燃費タイヤ」には該当せず、極端にいえば、転がり抵抗性能がAAAグレードで、ウエットグリップ性能が最低ランクのdグレードでも、「低燃費タイヤ」に認められてしまう!
性能の差によってクルマ1.5台分も制動距離が異なる
要するに「低燃費タイヤ」というカテゴリーの性格上、グリップ力より燃費性能を重視したカタチになっているのが否めないというわけだ。
なお、ウエットグリップ性能が「a」のタイヤと「c」のタイヤとでは、ウエット路面で100km/hからのフルブレーキ時の制動距離はクルマ1.5台分もの差がついてしまう。

反対に、タイヤの転がり抵抗を20%減らすと、燃費は約2%向上(寄与率10%の場合)といわれているが、2%の燃費のためにグリップ力を犠牲にするのは、間尺に合わない。
しかも、グリップの低いタイヤ=転がり抵抗の少ないタイヤは摩耗が少ない。摩耗が少ないのはライフが伸びていいと思うかもしれないが、減らないことで使用期間が延びれば、タイヤのゴムは経年劣化で硬化して、どんどんグリップ性能は落ちていき、ますます危険な状態に……。
2%の燃費を気にするのなら、タイヤの銘柄よりも空気圧管理に気を配るほうがはるかに重要。
空気圧が指定値より50kPa低くなると、市街地でも燃費は2.5%も悪くなる。郊外では4.3%で、高速道路では4.8%。しかも高速になればなるほど空気圧が低いとタイヤのトラブルの原因になり、リスクがアップ!
まとめると、タイヤのグリップ力(ウエット性能)は、転がり抵抗と背反する宿命なので、タイヤに関してはグリップ性能最優先で、燃費は二の次でというのが大前提。
わずかな燃費のためにタイヤ選びを間違えると、もっと高くつくことになるかもしれないので気をつけよう。