もっとも古くから存在する自動化システムは変速機だ
いよいよ自動運転が具体化される時代になってきた。いうまでもなく、自動車を走らせるためドライバーが行ってきた数々の操作を、機械(システム)が肩代わりすることで、文字どおりドライバーによる運転操作が不要のシステムであることは広く知られるとおりだ。
さて、操作を機械に任せるうえで、もっとも難しい部分がドライバーの目(視覚情報)と判断(頭脳)の領域だ。
これらは、過去から現在にいたる自動車史のなかで進化を続けてきたものばかりで、もっとも古くから存在する自動システムが変速機である。いわゆる自動変速で、現代の主流であるトルクコンバーター式のトランスミッションは実用化されて70年以上の歴史がある。働きについては、改めて説明の必要もないだろう。
クラッチ操作を省いたマニュアル操作のトランスミッションもある。フルオートマチックではないが(選択モードもある)、手元のスイッチを操作するだけでシフトアップ、ダウンができるミッションのことだ。
1980年代、レースで試験投入をしたポルシェPDK方式が先駆となる方式で、デュアル(ツイン)クラッチ機構を備えたミッションを持ち、ドライバーのシフトアップ/ダウン(基本的にはステアリングのパドルスイッチ)の操作に対し、瞬時にクラッチを断続してギアを切り替えるシステムである。通常のマニュアルシフト車よりクラッチの断続時間が短く、エンジンパワーを有効に伝達できるため、今ではモータースポーツで標準となったセミマニュアル方式である。

ステアリングは、進行方向を決める転舵操作は人間がおこなわなければならないが、人間の力(腕力)をアシストする機構としては、やはりパワーステアリングが古くから存在する。エンジンを動力源とする油圧補助方式が一般的だったが、エンジン負荷の軽減、システムの小型化を追求した結果、電動パワーステアリングシステムが登場した。初期のものは、操舵の実感覚に乏しく、ゲーム機のコントローラーを操作しているような感触もあったが、現在はそのあたりも改善され、路面インフォメーションが伝わるシステムとして実用化されている。

ブレーキもステアリングと同様、踏力を補助するシステムとして倍力装置が古くから実用化されている。

アクセルペダルの制御システムは飛行機に由来する
アクセルペダルは、道路交通の流れのなかで加減速や走行速度を踏み加減で調整しなければならず、やはり人間の操作に依存する運転領域が大きい。しかし、スロットルバルブの開閉システムは、比較的早い時期から電子制御によるモーター駆動が進められてきた。
正確なアクセル開度、あるいはペダル操作に対するアクセル開度の設定が自由におこなえるため、省燃費、排出ガスのクリーン化に対して有効な方式である。これをドライブ・バイ・ワイヤ(DBW)方式と呼ぶが、飛行機のフライ・バイ・ワイヤ(FBW)にならった言い方である。
FBWとは、操作系と作動させる部分(エンジンスロットルや方向舵、昇降舵)が物理的に連結された機構で動作するのではなく、操作系がそれぞれスイッチとして働き、可動部は油圧/モーターの力によって動き、その信号を送るために電気ケーブル(ワイヤ)を使うことから名付けられたシステム名である。

民生機ではコンコルド(運用開始1976年)がアナログFBW方式を、エアバスA320(運用開始1988年)がデジタルFBW方式を、それぞれ初めて実用化した機体として知られている。
FBWのメリット/デメリットについてはそれぞれあるが、現在の標準飛行方式となっている自動操縦(オートパイロット)は、FBWシステムなくしてあり得ない飛行方法だ。なお、FBWは電気系がダウンすると作動不能となる一面があり、バックアップシステムとして機械系を備えたシステムもかつて存在した。
自動車のDBWは、電源の喪失によって動かなくなるが、これは機械式の操作系のみを持つ車両でも同じで、機関の停止が墜落を意味する航空機の場合と異なり、自動車の場合は路上で動かなくなることを意味し、背負うリスクの大きさはかなり異なっている。

飛行機の自動操縦は、操縦者の疲労を軽減させることが目的のシステムではない。
そうした意味では、自動車の場合も自動運転システムを実現させるためには、各部の精緻にして正確、素早い動作は必要不可欠だ。そして、それを可能にするのがコンピュータ制御によるDBWシステムだ。

これからの自動車は、みずから運転して楽しさをみい出す趣味性のマニュアル運転と、自動車を移動の道具、実用の道具とみなし、運転を完全に機械任せとする自動運転の2方向に分かれていくのだろう。