空冷エンジンはオーバーヒートしないと思っていたあさはかさ
空冷エンジンという言葉を聞くと、オレは命を賭けたあの事件を思い出す(多少大げさな表現です)。それはオレがまだ、モータージャーナリストというよりは、誰もが通る道である、「クルマ運びやクルマ磨き」のバイトだった頃のこと。ウチの師匠がいわゆる901型のナロー・ポルシェを所有していたので、それを借り出して新潟までお盆の帰省に出かけた時の話だ。
関越道はどこがアタマだったのかは覚えていないけれど、確か40kmほどの渋滞。最初はクラッチのことを気にしていたのだけれど、途中できわめてシンプルな疑問が頭の中をよぎる。
「空冷エンジンって、オーバーヒートするのかな」。
当時、今から30年ほど前の話だから、すでに高速道路の路肩には力尽きて助けを待つクルマもチラホラ見え始めてきた。そうか、やつらは水冷エンジン、エンジンを冷やすためには水を使うわけで、それが100度を超えれば沸騰して終わりということか。オレは空冷だから、気温はせいぜい40度止まり。オーバーヒートする心配などないわ。
あさはかである。バカとしか言いようのない発想だ。
あの乾いた音が聞けるならもう一度空冷ポルシェに乗ってもいい
それから20kmくらいを耐えた頃だろうか。突然リヤの空冷水平対向6気筒エンジンが止まった。再度キーを回しても、再びエンジンが始動することはない。
路肩に座り込みながら、これからどうするかを考える。空冷エンジンの場合、この事態から脱出する唯一の方法は「冷えるまで、ひたすら待つこと」。ところが10分経っても20分経っても、エンジンはピクリとも反応しない。次のインターチェンジまではわずか5km。動いたらここで降りて飲み物を調達せねば、翌日の全国ニュースだ。
途中で観光バスのガイドさんが、紙コップに入った飲み物をくれた。やはり人間も水冷式の方がいい。ラジエーターや、それを循環させるライン、あるいはシリンダーにウォータージャケット(水の通り道)の加工が必要になり、重く、高コストになったとしても、水冷はもはや現代の常識なのだ。最後まで粘りに粘ったポルシェでさえ、第5世代の911、すなわち996型で水冷式にパワーユニットを進化させているではないか。
それでも個人的には、空冷エンジンを搭載する911の魅力は、まだまだ捨てたものではないと思う。最大の理由は、強制ファンとマフラーが奏でるあの独特で澄んだサウンドだ。そしてラジエータを持たないことからシンプルでコンパクトに仕上げられたパワーユニットの設計だろうか。シンプルゆえにパーツ点数も少ないから、メンテナンス面でも有利だ。
さすがにもう一度、空冷ポルシェと一緒に熱中症になるのはイヤだけど、現代の技術で万が一もう一度、空冷エンジンが復活するようなことがあったら乗ってみたいとは思う。どこかのメーカーで復活させてくれませんかね。

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