この記事をまとめると
■クルマのハンドリングとは何かについて述べた記事である



■ハンドリングを決める要因をメカニズムの観点から述べている



■同じクルマのハンドリングでも舵角によって特性が異なることがある



サスペンションやボディ剛性までもが影響する

試乗インプレッションの記事中で「ハンドリング」あるいは「ハンドリング性能」という言葉を目にしたことがあるだろう。ハンドリングとは、クルマを走らせる上での「取り回し性」と解釈してよいものだ。文字どおり、ハンドル操作に関連する言葉だが、じつは、いろいろな動き、反応があって、ひと言では表現できない幅の広さがある。

ハンドリングという言葉にどんな意味が含まれているのか、メカニズムに沿った観点から考えてみることにしよう。



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まず、クルマの向きを変えるステアリング機構だが、向きを変えるためドライバーが回すステアリンホイール、ステアリングホイールの回る力を左右方向の動きに変換するステアリングギヤボックス、ステアリングギヤボックスの動きを前輪に伝えるステアリングロッド/ナックルといったパーツで構成されている。一方、ステアリング系には前輪の向きを変えると同時に、前輪からの路面情報をドライバーに伝える働きもあるため、ハンドリングに影響をおよぼす部位は、ステアリング系、フロントサスペンション、さらに言えば車体前部の剛性まで含まれてくる。



「シャープ」「ダル」「クイック」! クルマの「ハンドリング」って何?



ちなみに、現在のクルマは、そのほとんどがステアリングを回す力を補助するパワーアシスト機構(パワーステアリング)が備わるため、かつてのノンパワー仕様のように、操舵力を考慮してステアリングギヤボックスの減速比を大きく設定する必要性(操舵力を軽くするがその分だけ多く回さなければならない)はなくなっている。言い換えれば、少ない操舵量でも十分な舵角があたるシステムが、現在のステアリング系が持つ特徴と言ってよいだろう。



ただし、少ない操舵量で大きな舵角を前輪に与えるステアリングギアボックスは、減速比が小さくなり大きな操舵力が必要となる。この操舵力を補う装置がパワーステアリング機構だが、アシスト量が大きくなると路面から伝わる路面情報がスポイルされ、操舵感覚の薄いステアリングインフォメーションとなりがちな傾向を持っている。市販車の場合、老若男女、ドライバーの資質を問う車両設定は許されず、基本的に誰が運転しても快適な操作性を有することが、市販車の成立条件となっている。逆に言えば、操舵力を適正に補助しながら、前輪からの路面情報をスポイルしないパワーアシストが、優れたパワーステアリング機構という言い方ができるだろう。



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さて、ここからが肝心な部分だが、減速比の小さな(高い)ギヤボックスは、少ない操舵量で必要な前輪舵角を与えることができるため、ステアリング操作とクルマの反応時間(向きが変わる)が短時間となる傾向を持っている。ドライバーの感覚で言えば「素早い」反応ということになり「ステアリングを切るとクルマがクイックに向きを変える」という表現で伝えられることになる。「クイック」=素早い反応と解釈してよいが、これとほぼ同じ意味で「シャープ」という表現も使われている。

ドライバーのステアリング操作に対し、クルマがシャープに反応する(即座に向きを変える)というような状況で使われる表現だ。厳密に言えば、クイックとシャープは同じ状況を示す言葉ではないのだが、クルマの動き、反応から見た場合には、同義語と見なして差しつかえない。



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逆に、クイック/シャープと反対の動きを示す言葉として、「ダル」「スロー」の表現が使われている。ダルとは鈍い、スローは文字どおりゆっくりという意味で、やはりクイック/シャープの場合と同じく、正確には両者同じ意味ではないのだが、反応の鈍さ、あるいはゆっくりとした反応を示す言葉として使われ、ほぼ同じような動き、反応を指している。このふたつは、どちらかと言えばあまりよい意味では使われず、クルマの向きを変えようとステアリングを操作したにもかかわらず、実際に向きが変わるまで多少の遅れがあったり、必要な舵角を得るためステアリングホイールを操作する量(回す量)が多いと感じられるケースで使われる表現だ。



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クイック/シャープ、あるいはダル/スローと感じられる動きの要因は、ステアリングギアボックスの減速比設定によるところが多いが、ダル/スローと感じられるケースで、前輪を支える各部の動きが影響する場合もある。サスペンション系やステアリング系のブッシュコンプライアンスに起因する問題で、ブッシュのたわみ(ガタ)が力の伝達を遅らせることによって発生する反応の遅れや鈍さである。もっとも、新車状態でブッシュのたわみがハンドリングに影響をおよぼすことはなく、おもにクルマが古くなりブッシュが劣化することで生じる問題だ。



操舵段階によってもハンドリングは異なる

ステアリングの応答性に関する状態も、試乗インプレッションでよく目にすることがある。ステアリングを回していく際の反応を表現したものだが、操舵段階に応じて微舵応答、初期応答、中期応答といった表現が採られている。微舵応答と初期応答は、ほぼ同じものと考えてよく、直進状態からわずかにステアリングを切り込んでいった際の反応の良否を表現するものだ。ちなみに量産車の場合、直進時に中央不感帯が設けられている。

直進走行時、わずかにステアリングが動いた場合でも、その動きを前輪に伝えず、クルマの直進性を保つために設けられた無反応領域のことで、「遊び」と表現されることもある。



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この中央不感帯は、直進安定性を保つために意図的に設けられたものだが、ステアリングギアボックスの摩耗にって生じる場合もある。現代のクルマは、パワーアシスト機構の進化により、ほとんどモデルに「ラック&ピニオン」形式のギアボックが使われているが、古いクルマでは保舵力を補う意味から、リサーキュレーティング・ボール(ボール&ナット、ウォーム&セクター)形式が多く使わる歴史があった。ラック&ピニオンに較べて応答性が鈍く、減速比も大きめとなる特徴があり、経時変化(摩耗)による遊びが増大する傾向もあって、ハンドリングのリニアリティという意味では優れた方式ではなかった。



微舵応答、初期応答とは、直進状態からわずかにステアリングを切り込んでいった領域での舵の効き方を表すもので、直進状態(中央不感帯)から操舵領域に移る際の手応えのリニアリティを示したものだ。同じく中期応答も、ある程度ステアリングを切り込んだ状態での舵の反応を表したもので、舵を切り増した際の反応のリニアリティを示す表現として使われている。



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ステアリングは、クルマの進行方向を変えるための装置だが、同時に前輪からの路面情報(接地情報)をドライバーに伝える働きもあり、舵の効き方、反応の良否だけではなく、車両の運転状態を把握するための重要な装置ということができる。

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