仕事への影響から経済的な困窮に陥る人もいれば、家族関係の変化に苦しむ人もいるというが、これまであまり大きな社会問題として認識されてこなかった。しかし、高齢化、晩婚・晩産化に伴い、 “ダブルケア”当事者のさらなる増加が見込まれている。
「ダブルケア」の実態を知り、社会的な“課題”を明らかにすべき時期に来ているのではないだろうか。
※ この記事は相馬 直子/山下 順子両氏の書籍『ひとりでやらない 育児・介護のダブルケア』(ポプラ社)より一部抜粋・再構成しています。
「突然」はじまるダブルケア
「子どもが生まれ、育児に専念しようと思っていたときに、父親が脳梗塞(のうこうそく)で倒れた」「子どもを保育所に預けて、職場に復帰してしばらくしたら、親の様子がおかしいことに気づいた」
このように、「突然」はじまるのが、ダブルケアです。
子育てには、妊娠、出産を経て、親としての自覚が芽生え、少しずつ子どもの育て方を学んでいき、親になっていく過程があります。自分のライフステージに合わせて、ある程度計画的に進めることもできます。
それに比べて、多くの介護は「突然」はじまります。カッコつきの「突然」にしたのは、実際には予兆めいたものがあっても、「突然」やってきたと感じるダブルケアラー(ダブルケアをしている人)の方が多いからです。
タイミングは人によってさまざまで、赤ちゃんの世話に慣れたと思ったところで、あるいは産後に職場復帰し、子育てと仕事の両立に奮闘している真っただ中で、または子どもが幼稚園に行きはじめて自分の時間ができると思った矢先に、親が自分一人では生活ができないような状況が訪れます。
「こんなはずじゃなかった」と思う方が多いようです。
「介護は、子どもがある程度育ってからくるものではなかったの?」「自分の親が介護をはじめたとき、自分はもう高校生だったではないか」と。
あるいは、親に子育てを手伝ってもらった後で介護がくるのが当然と思っていた、という声もありました。
もっと先にくるはずだった介護が急にはじまり、どうしてよいかわからない。そのような状況にあるダブルケアラーの方に、たくさんお会いしました。
ここで、ダブルケアが「突然」はじまった方の実例を、いくつかご紹介します。
あてにならない兄弟、息子たちへの“申し訳なさ”
Mさん(横浜市、40代前半女性、パート勤務、子ども16歳、14歳、10歳)パートで働きながら、高校生から小学生までの男の子3人の子育てで忙しい日々を過ごしていましたが、ある日突然、実の母親が脳溢血(のういっけつ)で倒れて入院。幸い一命はとりとめましたが、半身麻痺と、脳機能の一部に後遺症が残ることがわかりました。
母親は、実家で弟と二人暮らしをしていましたが、弟は精神的に不安定なことも多く、母親の介護をすることはできません。兄もいますが、あてになりません。他の選択肢もなく、また、人に任せるよりは自分で介護をしたいとの思いから、母親と自宅で生活することを決断しました。
母親の障害や変化を受け入れて暮らすのは想像以上に大変でした。急に家が狭くなった気がしました。さらに、いつもいろいろなことに追われて生活しているような気がしました。
子どもたちも、生活が変化して大変だろうと思うのですが、自分は母親のことで精一杯で、ゆっくり話を聞いてやることもできず、悪いなと申し訳ない気持ちです。
行政の窓口は「介護と育児は別々」 当事者が直面する苦労
ダブルケアは女性だけの問題ではなく、男性の問題でもあります。Yさん(40代男性、飲食業、子ども5歳)
ダブルケアのことは、職場では理解してもらえません。休みは不定期、母は23年前に他界し、その後、父の介護を20年しています。5歳の子どもは主に妻が見ていますが、介護は自分がしています。朝はポータブルトイレの掃除からはじまります。経済的にも厳しく、将来が不安です。毎日息子と妻が笑顔でいることだけが心の支えです。
次は、パーキンソン病の実母(70歳)を介護している、ひとりっ子の女性の声です。
Hさん(30代女性、職業未回答、子ども1歳半)
私はひとりっ子で、父も他界していたので、頼れる身内がいませんでした。結婚をして一度家を出ましたが、妊娠中に母と同居しました。そのときには、母はパーキンソン病で、自分で食事をつくることも難しくなっていました。
やがて認知機能にも影響が出はじめ、深夜に出かけようとするなど、目を離せなくなりました。母が別人になっていくこと、自分が子育ても介護も中途半端になってしまうことがつらかったです。
行政の窓口は介護と育児は別々です。手間も時間もかかり、幼い子どもを連れて、書類や手続きをするだけでも一苦労です。
介護費用は月に十数万、ローンや子どもにかかる費用など、共働きでも家計は赤字です。仕事を辞めて在宅で介護することも考えましたが、経済的にも、私が働かなくてはまわりません。ダブルケアは、精神的、肉体的、経済的な負担がかなり多く、今後介護費用をどうまかなっていくか、悩みはつきません。
このように、ダブルケアは、家族計画や仕事への影響が大きく、また精神的、身体的、経済的な負担が折り重なって、当事者を追いつめてしまうこともあることがわかります。