
市議会議員用のクラウドに閲覧権限のない元市議の男性がログインできるよう、田村市議がIDとパスワードを伝え、岸本市議も幹事長の立場でそれを黙認していたことが理由。
2人の市議は刑事告訴される可能性があり、予断を許さない。
25議員のうち24議員が問責に賛成
問責決議の審議が始まる午後3時30分、対象とされた共産党市議2人は議場外へ。対象者不在の中、提案者の丸田絵美市議(「チャレンジ調布」所属)が提案理由を読み上げた。
「令和7年(2025年)3月12日調布市議会第1回定例会において、田村ゆう子議員のID・パスワードを用いて第三者が会議システムに不正にログインをし、議員および一部の市職員に対し通知を発するという事案が発生した。
…各議員に貸与されている当該会議システムのID・パスワードについては他に漏らすことのないよう厳重な管理を求められているにもかかわらず遵守されていなかった。その結果、市議会に対する信頼を損なうことにつながったことは極めて遺憾である。
また、それを黙認してきた幹事長にも同様の責任がある。本事案は、市民と行政当局からの市議会に対する信頼を失墜させ、市議会の品位を損なう結果となった。
再発防止のためにも、当該行為の当事者たる田村ゆう子議員および所属する会派の幹事長である岸本直子議員の両名に対し、その責任を強く問うものである」
定員28人、議長と退出した2人を除く25人のうち24人の賛成で可決。
本会議後、田村・岸本両市議は連名で「このことを真摯(しんし)に受け止め、市民の皆様、関係者の皆様に深くお詫びを申し上げます」とのコメントを発表。今後の対応について田村市議は「これからあらためて考えたい、(議員辞職について)今はお答えできません」と話した。
「あってはならない、まさかの事態」
事件の経緯は、前述の提案理由に概略が記されているとおり。3月12日午前9時20分頃、本会議中に、議員が用いる会議システム「SideBooks」に田村市議のアカウントから全議員に対して画面の共有を通知する旨のポップアップが表示された。同市議はそのような操作を行っていなかった。
正午過ぎに田村・岸本両市議が議会事務局を訪れて共産党の元市議の男性にID・パスワードを渡していたこと、当該男性による該当の時間帯での使用を確認したことを報告。さらに正・副議長、正・副議会運営委員長に説明と謝罪を行った。
その際には「田村市議が1期目(2023年4月初当選)ということもあり、議案への態度を決めることについて助言をもらうためにID・パスワードを渡した」との説明がなされたという。翌13日にも、両市議が幹事長会議に出席して説明と謝罪を行う。
元市議の男性は通常は議会を傍聴しているが、数日前から咳が出るなど体調を崩していたために、自宅からネット中継で視聴。関係者の話によると、発出された通知は、そのタイミングに本会議で行われていた議題とは全く関係のないものであったという。つまり、単純な誤操作と推察される。
露呈したルール違反に内藤美貴子副議長は「あってはならないこと。まさかの事態です」と怒りをにじませた。
井上耕志(こうし)議長も「議員が政策決定、意思決定をする際には、先輩や市民、あるいは家族の意見が影響を与えることもあるかとは思いますが」としながらも、以下のように続けて行為の不適切差を指摘した。
「議員以外がアクセスするという想定のないクラウド内の行政情報に(不正な手段で)アクセスした第三者から言われたことを意思決定に反映させるのであれば、(市民からの)疑念を生むと思います。
「疑念が生まれるような行為をやってしまったことが問題です」(井上議長)
こうして3月25日に23議員連名で問責決議が提出され、27日に可決された。
井上耕志議長(撮影・松田隆)
幼稚園教諭などを経て共産党へ
ID・パスワードを渡した田村市議は1985年、兵庫県神戸市生まれの39歳。両親ともに共産党員という同党の「サラブレッド」で、しんぶん赤旗が自宅に届けられる環境で育った。ただし、本人は4コマ漫画程度しか見ていなかったという。小学3年時に阪神淡路大震災で被災し、避難所生活を経験。夙川学院短期大学(現神戸教育短期大学)を卒業後、児童館スタッフ、幼稚園教諭を経て2014年から調布市内の児童福祉施設に勤務する。
2021年8月、35歳の時に日本共産党創立99周年記念講演会で志位和夫委員長(当時)の話を聞き、それまでの考えが変わったという。
「泣いちゃったんですよね。それでもう、やっぱり日本共産党しか勝たんという気持ちになって、当時幽霊部員だった民青(日本民主青年同盟)のメンバーに連絡をして『話がしたいんです』ということで…」と、政治活動にのめり込んでいく経緯を後日語っている。
2022年4月に入党し、同年7月の参院選で山添拓氏(現・党政策委員長)の応援を行った。秋には市議選への出馬の声がかかり、翌2023年2月に勤務先の児童福祉施設をやめ、同年4月の選挙に備えた。
選挙時には子どもや保育の仕事に16年間携わってきたことを強調し、定員28人中3番目の得票で当選を果たした(以上、YouTubeチャンネル米倉春奈&池川友一「声をあげれば、政治は変わる」内「change032 初当選の議員が変える」他から)。
2023年に党の議席が半減
3月17日、本件について、著者が両市議に取材。田村市議本人は、やってはいけないという認識はあったものの「その時はその(ルールを守ることの)意識が薄かったということです」と、理由を語った。
また、ルール違反をして問責決議が可決された後の状況について、27日の取材では、ここれまで教えてきた児童に対して「(恥ずかしいという気持ちが)あります」と話す。
2023年4月の市議選で共産党は現役4議員のうちベテランの2議員が引退し(そのうちの1人がIDとパスワードを受け取った男性)、2期目を狙った候補者は落選。
当選は新人の田村氏、および岸本氏の2人だけと、議席を半減させた。議員経験があるのは岸本市議だけとなり、右も左も分からない新人議員が全ての議案の賛否を自分で判断するのは難しい環境にあることは、容易に想像がつく。
田村市議は自身について「ルールを平然と破るような人間ではない」とするが、越えてはならない一線を越えてしまった背景には、こうした党内の事情も影響しているかもしれない。
変遷する供述
岸本市議も、決議を受けて「そういう事象(IDとパスワードを元市議に伝えていたこと)に気付かなかったことは意識の甘さというところがあり反省しています」と話す。一方で、両市議ともに、説明する内容は何度も変わっていた。
3月13日の幹事長会議では、田村市議は「半年以上前に、自分の方から元市議の男性に『自分のIDとパスワードを持ってほしい』と紙に書いて渡した」という趣旨の説明をしている。
ところが、同月17日に筆者が取材した際には「いつ渡したか、田村市議から積極的に渡したのか、それとも元市議から渡してほしいと頼まれて渡したのか、その経緯を全く覚えていない」と、岸本市議とともに強調した。
さらに、同月27日の問責決議可決後に取材したところ、「1年以上前に議員専用のクラウドにアクセスするソフトをアップデートしたタイミングで、田村市議の方からIDとパスワードを渡した」と、供述が変遷。
どうして何度も話が変わるのかと筆者が聞いても、田村市議は「分かりません」「お伝え忘れたんだと思います」と具体的な説明を避けた。

本会議後に取材に応じる田村市議(左)と岸本市議(右)(撮影・松田隆)
不正アクセスは「組織ぐるみ」!?
両市議は13日の幹事長会議に出席した際に、事実上、共産党調布市議団が組織ぐるみで行っていたことを明らかにしている。ところが、15日に読売新聞オンラインで事件が報道されると、田村市議は同日のうちにXの個人のアカウントでお詫びの文章を自己の名義だけで発表した。
「問責決議で示されたように『組織ぐるみ』で行っていることが報じられれば共産党全体のイメージダウンにつながるため、個人名義のみで発表する」という判断が働いた、と考えられる。
実際、共産党調布市議団を統括する立場の日本共産党調布・狛江・府中地区委員会の平野義尚(よしたか)委員長に筆者が取材したところ、自身が当該お詫びの文章の掲載に関わっていたことを明らかにしている。
一方で、17日に筆者が両市議を取材した際には、田村市議は自身の単独行為であることで収めようとしたのか、岸本市議とともに「肝心な部分は全て覚えていない」と話した。
市議会は刑事告訴を検討
議員の間からは「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)に違反しているのではないか」という声が上がっている。アクセスする権限のない元市議の男性がクラウドにアクセスしたことは同法2条4項1号の定める「不正アクセス」であり、田村市議が男性にIDとパスワードを伝えた行為は同法5条の「不正アクセス行為を助長する行為」にあたる。
また岸本市議がこれらを黙認していたことも「不正アクセスや同助長の共犯」と考えるのが、市議会の代表的な見解となっている。
とはいえ、元市議の男性や、共産党調布・狛江・府中地区委員会の関わり方などはいまだ解明されていない。詳細な事情は不明で、現時点で法的評価を下すのは難しい。
井上議長は法律の専門家に本事案に関する見解を求め、3月21日午前中に調布警察署を訪問して事件について相談した。この先、共産党の両市議と元市議の男性は刑事告訴される可能性がある。
井上議長は「うやむやにするなどとは、考えてもいません」、内藤副議長も「絶対にあってはならないことです。私たちはうやむやにするつもりはありません」と、全面的な事態の解決を口にする。
3月31日の議会運営委員会では、平野充(みつる)副委員長(公明党)が会派の見解として「速やかに捜査機関への告発を行うべき」との意見を述べた。事態が本格的に動き出すのは、これから。
■松田隆
1961年埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業。日刊スポーツ新聞社に約30年在職し、退職後にフリーランスとして活動を始める。2017年に自サイト「令和電子瓦版」を開設した。現在は生殖補助医療を中心とした生命倫理と法の周辺、メディアのあり方、冤罪と思われる事件の解明などに力を入れて取材、出稿を続けている。