Aさんは同日、産機工を相手に地位の確認や損害賠償、慰謝料を求める訴訟を東京地裁に提訴している。
この日、会見に出席した代理人の指宿(いぶすき)昭一弁護士は、ハラスメント加害者とされる役員X氏について「経済産業省の元官僚で、法的にはともかく、いわゆる天下りで役員を務めていた人だが、本件以外にも結構な問題を起こしていたことが分かっている」と指摘した。
元経産省OBが実権掌握、特定の女性を給与面で優遇か
訴状によると、元経産官僚で産機工の理事を務めていたX氏は長年、人事権など、同団体の実権を掌握。自身で退職金の金額を決められる立場にあったといい、勤続年数に比して不相当に高い額を受け取っていたと指摘されている。ほかにもX氏は、就業中の飲酒や、特定の女性職員との勤務時間中の“密会”、その女性への給与面での優遇など不適切な行為が確認されていたとも記載されている。
これらX氏の行為について、産機工側の代理人弁護士は、提訴前に行われたAさん側との団体交渉の際「Aさんの進退とは関係がない」としつつ、事実関係を否定しなかったとのことだ。
AさんはX氏によるセクハラやいじめで休職
一方、Aさんは大学卒業後、銀行に就職し1年ほどキャリアを積んだのち、2006年に産機工に転職。経歴から、総務部経理課に配属され、役員の予定調整やスケジュール提案、出張の手配、労務管理などの仕事に取り組んでいたという。その後、2014年に総務部総務課課長代理の役職に就いたAさんだったが、X氏から会食の帰りに「変わったコンセプトの新しいお店がある」とホテルに誘われた。Aさんはそのホテルの見た目からカラオケ店かと思い部屋に入ると、突然キスをされるといったセクハラを受けた。また別の日には、職場で同僚から物を投げつけられるなどのいじめを受け、2018年6月に休職に至った。
2018年9月にX氏から解雇手続きに入るとの連絡を受け、同年11月に労働審判の申し立てをしたところ、2019年2月に調停が成立。Aさんは2019年8月に復職がかなったという。
復職後もパワハラ受け、2度目の休職へ
この時、Aさんは総務部への復帰を希望していたものの、産機工側の都合により、産業機械第2部という部署へ配属された。指宿弁護士と同じく原告代理人を務める岩本拓也弁護士によると、Aさんは復職後も不当な扱いを受け、2度目の休職に至ったという。
「Aさんだけ出張を禁じられたり、業務上必要なメールから宛先を外されたり、定期昇給がなされないなどのパワハラを受けた結果、Aさんは2023年4月にうつ病と診断され、同年9月に再び休職することになりました」(岩本弁護士)
「診断書の文字面を都合よく解釈」
休職後、Aさんは2024年11月28日付で、2025年1月より復職可能との診断を受け、産機工側に診断書を提出。ところが、産機工側は「休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合、休職期間の満了をもって退職とする」との就業規則から、休職期間が満了となる2024年12月31日の直前、12月23日に、Aさんに対し休職期間満了による退職扱いとする文書を送付した。
この退職扱いについて、岩本弁護士は「原告を退職させるために、診断書の文字面を都合よく解釈したことが原因ではないか」と推察する。
診断書ではAさんが2025年1月から復職が可能であることに加え「復帰当初は週4回の勤務やテレワークの導入のための対処が望ましい」旨が記載されていた。
「産機工側は、このような条件があるのであれば、まだ完全に治癒したとはいえないのだから、退職扱いは問題ないと主張したいのかもしれませんが、その解釈は明らかに誤っている思います」(岩本弁護士)
「判例を知らないはずがない、不可解な事例」
指宿弁護士は「今回のケースと同様に、病気休職後に解雇もしくは自動退職に追い込まれる事件が多発している」と指摘。次のように続けた。「1度休職した労働者に対し、会社側がなんとか復職を防ごうと、さまざまな手を打つというケースはよくあり、この事件もそのひとつではないかと思います。
しかし、本件では12月31日までの休職期間が設定されており、なおかつ医師は1月1日から復帰可能であると診断書に記載しています。
理論上は12月31日23時59分59秒の1秒後に、復職できるのにもかかわらず、Aさんを解雇や自動退職の扱いとするのは、明らかに解雇権の濫用、あるいはその類推で無効になると考えられます。
過去の事件でも、今までと完全に同じ仕事はできないものの、ほかの業務に携われるのであれば、復職させるべきだとする判例(「JR東海事件」大阪地裁 平成11年(1999年)10月4日判決)など、似たようなケースがあります。
産機工側の代理人弁護士が、こうした判例を知らないはずがなく、正直に言えば、不可解な事例と言わざるを得ません」
「この裁判は自己防衛のためではない」
この日、会見に出席した原告のAさんは、提訴に至った理由について以下のように述べた。「私は産機工の会員企業、ひいては日本の産業を支えていくために、誇りを持って働いてきたつもりです。これは私だけでなく、多くの職員が抱く共通の思いだと思ってます。
しかし、役員のハラスメントと不当解雇に直面したことで、産機工の理不尽で不公正な体制を痛感しました。
この裁判は自己防衛のためではなく、全ての誠実な労働者のためのものであると信じています。
私の小さい声が、天下り制度の問題に一石を投じ、今後の大きな判例となることを願い、たたかい抜く覚悟です」
なお、日本産業機械工業会は、弁護士JPニュース編集部の取材に対し「訴状が届いていないため、コメントを差し控えさせていただきます」(担当者)と回答している。